第487話 【最後の転移者】召喚士
~ガラドミア宮殿内~
六谷が魔王軍と戦っている一方、六谷の行方を捜して、花は宮殿内を散策していた。
六谷を探すついでに何か自分の興味が惹かれるものがないかもチェックしながら、スキップ交じりの上機嫌なステップで。
行き交う人、アイテム、異能力―――
花にとって、それは圧倒的に新鮮で、この世界がそれだけ魅力的なものに思えた。
今にも歌いたくなる気分―――
「フン、フン、フ~~ン♪」
「おっと、ここは何の部屋だー?」
部屋のドアには何やら書かれている。
この世界の言葉だ。
花はその文字に顔を近づけて、じっくり眺める。
「って、私この世界の言葉分からないんだった―――」
六谷を探していた花。
この部屋にもしかしたら、六谷がいるかもしれない。
でも、いないかもしれない。入ってみなければ分からない。
うーーん、いきなり見ず知らずの自分が入るのは少し緊張する・・・
花はそれでも何となく、この部屋が気になったので、入ってみることにした。
その部屋のドアには《魔法研究室》と書いてあった。
この部屋の存在が花達の運命を大きく変えることをまだ本人達はまだ知る由もない。
~ガラドミア宮殿内 魔法研究室~
ここはガラドミア宮殿内の魔法研究室。
様々な古代呪文やスキルを解析する施設。
花達を召喚した秘術もこの部屋に保管されていた秘伝書に記載されていたことを実行しただけ。
まさか、本当に召喚されるとは召喚した本人も思いもしなかった。
わがままなエルフの女王 セルフィの前でポーズだけでもやっておけば、本当に召喚されなくても多少は彼女の溜飲が下がるだろうなと思って儀式を取り行ったが、本当に召喚されるとは予想外だった。
「異世界から来た二人組か・・・」
エルフ族の最高位 大賢者『セルバンテス』。
齢1500歳、エルフ族で最も高齢の翁。
第一線は既に退いたが、未だに魔道研究を続けている根っからの研究者でもある。
かつての魔界対戦時にはエルフ族の代表として闘いに赴いたこともある。
しかし、それも今や過去の話。
最近は専ら、エルフ族の女王セルフィのわがままを聞いたり、魔法研究に熱中したりするだけの毎日。
それになりに楽しい余生を送っているとは思っている。
しかし、こんなに1000年以上も魔法の研究をしているにも関わらず、異世界からの召喚に関しては今まで一回も成功しなかった。
それが、今回初めて成功した。
自分でも胸の高まり、興奮が冷め止まない。
神の悪戯なのだろうか―――
聖王国の聖女は遺伝子レベルで勇者召喚を行う術をその身に宿していると聞く。
それ以外の人間が異世界からの召喚術を成功されたという実績は聞かない。
自分もついにその力の片鱗が出来るようになったということかもしれない。
知りたい・・・異世界から来た者達からどんな世界だったのかを・・・
元々、好奇心旺盛な大賢者 セルバンテス。
六谷と花に対して、興味の対象としていた。
少し、時間が経ったら、それとなく聞いてみたいと考えていた。
そんな時だった―――
ガチャ・・・
魔法研究室のドアが開いた。
誰じゃ・・・?
こんな時間に・・・。
まだ朝早い時間帯。
研究者達ならもうちょっと遅い時間から来るのだが。
セルバンテスはドアの方を振り返った。
そこにいたのは、異世界から召喚された一人。
鈴谷 花。
「わあぁぁーーー!!何この部屋ーー!!」
花は部屋一面の本棚、研究道具、壁に飾られているスクロールや標本に目を奪われる。
いかにも研究室のような部屋。
そこには一人のお爺ちゃんエルフがいる。
魔導士のような古びたローブを着て、古文書を眺めるお爺ちゃんエルフ。
「おはようございますーー!!」
花はセルバンテスに一礼した。
「~~~%#$!~~&"$。~~」
セルバンテスは少し動揺し、花に話しかけるが―――
何を言っているのか花には分からない。
花はこの世界の言語が分からない。
《異世界語翻訳》のスキルでも持っていれば、彼らの言葉が分かるのだが、生憎そのスキルは持ち合わせてはいない。
「んーー、やっぱり何言ってるかさっぱり分からん―――」
六谷さんも連れてきたら、何を言っているのか翻訳してもらえるのに・・・
花はそう思ったが、この部屋にも六谷はいないようだと悟る。
セルバンテスの言葉はよく分からないが、部屋の中を見て回る。
部屋の中は現実の世界にはないような物も多い。
「わぁ~~~ナニコレ!!」
いきなり部屋の物を触り出す花にセルバンテスは慌てて、止めようとする。
しかし、そんなセルバンテスのことなど気にすることなく、花は古文書を見て回る。
そんなことをしている内に花はセルバンテスが今の今まで見ていた机の上の古文書に目をやる。
そこには文字の他に絵も描かれている。
「これは・・・魔法陣に・・・人が何かを召喚している・・・?」
異世界の言葉は、分からない・・・。
でも、何故か、その本に書いてる一節だけは分かる。
何で読めるの・・・?
花は自分でも疑問に思ったが、それを口にしてしまう。
それは好奇心からだったのかもしれない。
自分にもいつか、他の誰かとは違う『超能力』を持てるかもしれないという欲求。
「覇道の従者よ、幾千の時経て、混沌より現れよ!!」
「そして、我に忠誠を誓えッ!!」
「超召喚術ッ!!」
花の目の前に直径5メートルは下らない複雑な魔法陣が出現する。
「な・・・なんじゃこりゃーーッ!!」
セルバンテスは驚いた。
自分でも見たことがない程の巨大な魔法陣―――
そして、彼女は唱えたのだ。
自分が解析することに難航していたあの古文書に記された一文を。
あれは、太古の龍を呼び起こす呪文。
そして、魔法陣より出現する、黒い強靭な鱗に身を包んだ、最強のドラゴンが―――
「えっ、ウソ!?」
「もしかして、これ私が呼んだの?」
花は興奮する。
自分にもついに超能力が目覚めたのだと―――
そのドラゴンのあまりのサイズに部屋の天井を突き抜け、ドラゴンは外に頭を出す。
そして、花を見下げて、こう云った。
「我を呼んだのはお主か―――?」
と。