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第482話 【最後の転移者】『ありがとう』ほど都合の良い言葉もねェーっすよ


~ガラドミア宮殿~

 

 街を見て回り、ガラドミアを楽しんできた二人。

 

 六谷はすっかり暗くなった空を見上げ、少し考えに耽る。

 

 久しぶりの休暇と考えれば、今日は楽しかった。

 

 でも、これって出張なんだよなァーー。

 

 しかも突発だし。

 

 給与形態どうなんだ?ちゃんと給料出るんだろうな?

 

 後でやる提出書類の処理とか面倒くさそうだな。

 

 てか、俺が抜けた穴誰が埋めてくれんだ?

 

 円能寺が上手く調整してくれると嬉しいんだが。

 

 「今日は楽しかったですね―――ッ!!」

 

 花はニッコリと笑顔を六谷に向ける。

 

 純粋な笑顔を向けられることなんて、久しぶり過ぎて少し泣きそうになる。

 

 「うん、そうだね―――」

 「今日はもう暗くなってきたから部屋に戻って、寝ようか!」

 

 戦争中とはいえ、街はそれなりに豊かそうに見えた。

 

 流石は高い知能と魔力を誇るエルフ族というべきだろうか。

 

 それとも、まだ魔王軍が本気を出していないということか。

 

 まぁ、いずれにせよ、俺が戦場に直接出て、肌感触を探るしかないか。

 

 六谷と花が自室に戻ろうと、その通路を歩いていると、先ほどのエルフが声を掛けてきた。

 

 「英雄殿―――!?」

 

 だから、俺は"英雄"なんかじゃなくて、ただの会社員だっての―――

 

 六谷は心の中でツッコむ。

 

 そして、声のする方向を振り返る。

 

 「君は確か―――、アルフレッド・・・さん?」

 

 大広間で手合わせをしたエルフ族の戦士アルフレッド。

 

 気まずそうに声を掛けてきた。

 

 一体何の用か分からないが、何か伝えたいことがあるのだろう。

 

 「花ちゃんは先に戻ってていいよ―――」

 

 「はーい!!」

 

 六谷は先に花を行かせる。

 

 一対一なら少しは話しやすいかもしれない。

 

 「気遣いありがとう―――」

 

 「それで何か俺に用っすか?」

 

 「私は君のことを侮っていた―――」

 「まさか自分があそこまで容易く負けてしまうとは・・・自分が不甲斐ない。」

 

 「あー、そういうのいいんで―――」

 「何か用件があったから俺に声を掛けたんすよね?」

 

 そりゃ、大抵の生物は脳みそ揺らされたらまともに戦えない。

 

 各種ステータス異常に対する耐性でも持っているなら話は別だけど。

 

 たまたま、アルフレッドはそう云った状態異常に弱いことを知っていたから、先の手合わせの時は上手くいった。

 

 エルフ族や魔族にそう云った耐性持ちがいないとも限らない。

 

 まぁ、そうなったらそうなったで、別の戦術もあった訳だが―――

 

 「君たちには明日から、魔王軍との戦闘に参加してもらおうと思う―――」

 

 意外に早く来たっすねー。

 

 六谷はそう思ったが、それを顔には出さない。

 

 「それで俺はどこで闘えばいいっすか?」

 

 「神秘の門アルカナゲート

 

 「へぇ~、そりゃまた大層な名前の門だ。」

 

 「魔族共がこのガラドミアへ入る為の唯一の道。」

 「そこがこの国を覆う邪気払いの結界の起点。」

 「奴らはどこでかは知らないが、そこを通過する為のカギを手に入れた。」

 「我らエルフ族も善戦はしていたが、戦況は悪くなる一方。」

 「新魔王サンドル―――、ヤツが戦場に現れるようになってから、一気に戦況がひっくり返された!!」

 

 

 新魔王サンドル・・・円能寺から報告のあった現魔王軍の魔王の座にいる男。

 

 元々は六魔将と呼ばれていたが、ついに魔王として本格的に動き出したってことか。

 

 そして、その裏にいるのが、シン―――、社長を連れ去ったという魔族。

 

 結局、こっちとしても社長を取り返す為に魔王軍との交戦はしなければいけないってことだな。

 

 「大体、話しは分かったっす―――」

 「また後で細かい詳細については話がしたいんで、こっちで契約書を用意するっす。」

 

 「それと・・・君の連れの娘のことだが・・・」

 

 あぁ、花ちゃんのことか。

 

 そうか、彼女はこの世界に来て間もない。

 

 英雄として召喚されたが、俺とは違い何も力を感じないってことっすね。

 

 「あの子に戦わせる気はないっすよ。」

 「俺とは違って、何の力もないっすから―――」

 

 その時の六谷の眼は冷たかった。

 

 ただ、冷静に状況だけを見る眼をしていた。

 

 「そうか―――」

 「こちらとしては魔王軍さえ追い払えればそれでいい。」

 「君達のこの国での生活は保障しよう!!」

 

 「そうっすね、こっちとしては貰えるもんもらえればそれでいいんで。」

 

 「貰えるもの・・・?」

 

 「金っすよ!!まぁ足りなければそれに代わる道具や食料でもいいけど!!」

 「俺は仕事人(プロ)ですから、利益の為でしか動かないですよ。」

 「まぁ、細かいところは後で契約書について話すときにでもしましょう。」

 

 「そ、そうか―――」

 「ありがとう!!君達の活躍に期待しているよ―――」

 

 「『ありがとう』なんて感謝の言葉いらないっすよ―――」

 「こっちはビジネスでやってんすから。」

 

 「あ、あぁ・・・分かった。」

 「詳細は後程、君の部屋に連れを向かわせるよ―――」

 

 「そうしてくれると助かるっす!」

 

 こうして六谷とエルフ族のやり取りは両者の合意を得る形で向かう。

 

 この後、六谷は契約書を作り、仕事内容と報酬について、エルフ族と合意する形となる。

 

 六谷は戦場に出て、魔王軍と戦う、そしてその報酬と花の安全を確保する。

 

 そーいえば、アルフレッドさん―――

 

 あの時、『ありがとう』って言ってたな。

 

 『ありがとう』ほど都合の良い言葉もねェーっすけどね。

 

 

 どれだけの感謝があろうとも人の労力を『ありがとう』の言葉だけで済ますのはどうにも俺は好きになれない。

 

 確かな報酬や待遇が無ければ、人は動かない。

 

 『ありがとう』って言葉で人を利用できるとは思わないでほしいっす。

 

 六谷はいままでの人生でその言葉に何回も煮え湯を飲まされてきたことをふと思い出す。

 

 

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