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第481話 【最後の転移者】少し街を見てきていいっすか?


~ガラドミア中央区~

 

 「六谷さん―――、あのお店見てきていい?」

 

 「そんなに急がなくても逃げやしないさ―――」

 

 「ねぇ、ねぇ!!はやくゥーー!!」

 

 花は六谷の袖を引っ張り嬉しそうに街の中を回っていた。

 

 アルフレッドとの手合わせの直後―――

 

 レベル75と言ってもやはりこの程度か・・・

 

 観戦していた周りの大人たちは誰も何が起きたかさえ分からない。

 

 六谷だけが知っている、六谷だけの能力―――《五指》

 

 己の指が触れた物に対して、5つの状態の内、望んだ状態を付与する。

 

 六谷はアルフレッドとの接近時、彼の腹部に触れた。

 

 そして、その時《五指》を発動させた。

 

 アルフレッドの全身に超振動を付与し、ほんの少しだけ脳を揺らした。

 

 それで十分。それだけで生物は倒れる。

 

 どれだけ武装して、硬い鎧に身を包もうとも振動は避けることができない。

 

 「見事だ―――!!」

 

 セルフィは上から見下ろし、そう云った。

 

 うっわー、高みの見物決めてただけなのに偉そうだな、この人―――

 

 六谷はそう思ったが、口にはしない。

 

 その先頭の直後、嬉しそうな顔で六谷の元に駆け寄る花。

 

 「六谷さん!!凄かったです!!」

 「何か超能力でも持ってるんですか!?」

 「やっぱりそういう力みたいなの持ってるんですよね―――」

 

 眼をキラキラさせて問い詰める花。

 

 何か、犬っぽいなと六谷は思ったが、それも口にはせず、笑顔で花に渡していたジャケットを受け取る。

 

 「大した力じゃないさ―――」

 「普通に使えて、普通に生き抜くための力ってだけ。」

 

 「ねぇ!私、もっとこの世界のことを知りたい―――」

 「六谷さん!!教えてください!!」

 

 花は未央と同じ好奇心旺盛な女の子だった。

 

 その熱意に押され、まずは世界を知る一歩として、この国を歩いて回ることにした。

 

 そして、今に至る―――

 

 「うわっ~~!!耳の長い人がいっぱいだーー!!」

 

 花はその現実離れした光景に目を輝かせる。

 

 街を歩くは長身で細身のエルフばかり。

 

 街も現実世界の都会ではありえないような新緑豊かな大地を使った店の数々。

 

 食材屋だけでなく、武器屋や防具屋、魔法屋がある。

 

 切り株を使ったカフェや修練場として使っているであろう大きな道場もあった。

 

 

 確かに見ていて飽きない子だなとは思う―――

 

 鍜治原さんが気に入るわけだ。

 

 あの子はこの世界の言葉が分からないし、話せもしない。

 

 それなのに、街の人たちと楽しそうに会話をしている。

 

 多分、雰囲気というヤツなのだろう。

 

 誰にでも分け隔てなく接することの出来る人間にとって、言語などあまり意味がない。

 

 その人の持つ魅力が言語能力をカバーする。

 

 ―――、とはいえ花ちゃん一人で行かせることは酷であるのもまた事実。

 

 足りない所は六谷がカバーしていく。

 

 こうして、時間は過ぎていき、花はガラドミアの国を堪能していった。

 

 あっ、そうそう―――、この世界の金はここに来る前にセルフィ王女から少し貰って来た。

 

 手合わせの報酬だと―――

 

 そして、これから魔王軍と戦う訳だから、その賃金的な意味もあるのだろう。

 

 まぁ、それにしては全然少なねェけど。

 

 街の人込みの中―――、それはいた。

 

 「ねぇ、六谷さん・・・あの薄黒い人達・・・」

 「あの人達って・・・」

 

 花の指差すその先にいたのは捕縛されている魔族が数人。

 

 恐らく、魔王軍との交戦中に捉えられた捕虜だろう。

 

 睨みつけるような目つきで周囲を威嚇している。

 

 あの人達がこれからどうなるか・・・想像するのも難くない。

 

 しかし、それをこの純粋無垢な少女が知るべきであろうか―――

 

 「花ちゃん―――、それよりもあっちに面白そうなアイテムが売ってたよ―――」

 「こっちに行こうか―――」

 

 六谷はさり気なく、花の肩をその魔族達とは反対の方向へと誘導させる。

 

 「うん!!いく!!」

 

 花も嬉しそうに付いていく。

 

 これでいい―――

 

 魔王軍との交戦なんて、本来この子には関係のない話。

 

 危険な闘争から遠ざけるべきなんだ。

 

 六谷は近い未来に闘いに身を投じる予感があった。

 

 そうなった場合、花は出来るだけ安全に所にいてもらうつもりだ。

 

 ◆ガラドミア近くの魔王軍拠点◆

 

 ガチャガチャ・・・

 

 鎖が擦れる音が響く。

 

 湿った地下室。

 

 ポタポタと天井から零れ落ちる水滴。

 

 「目覚めはどんな気分だ―――?」

 

 「・・・・・・・」

 

 鎖につるされているのは天童 真。

 

 そしてその様子を見て、不気味な笑みを浮かべる視えざる者バニッシュマンこと、シン。

 

 「いい加減、こっちの側についたらどうだ?」

 「また前みたいに協力したいとオレは思ってるんだぜ?」

 

 「言ったハズだ―――」

 「私と貴様とでは歩む先が違う。」

 「途中までは同じだったから、協力していたに過ぎん!!」

 

 「こんな状況でもそんな大口を叩けるとは大したもんだぜ―――」

 

 シンは力を少し込めた拳で真の腹を殴る。

 

 「ッ―――!?」

 

 シンの拳に耐えて、声一つ漏らさない真。

 

 「安心しろよ、真!!」

 「オレはお前だけ・・・・は殺さない!!」

 「だが、それ以外は殺す―――!!」

 「ちゃんと殺すッッ!!」

 「天童グループの連中も進も新も、心も―――」

 「あと、貴様が愛している月夜と日向もだ―――ッ!!」

 

 「全員―――!!全員だッ!!」

 「そして、それを終えた後―――貴様がどんな不幸な顔をするのか!!」

 「オレはそれだけが楽しみなんだよォーーッ!!」

 

 シンは気分を良くして、その部屋を後にする。

 

 「・・・・・・・。」

 

 真は無言のまま、ただ冷静に考えている。

 

 

 どうやって、無敵のシンを殺すかということを―――

 

 

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