第477話 【最後の転移者】潜入
~天童グループ本社ビル エントランス~
「よし、思った通り受付に人はいない―――」
鈴谷 花は鍜治原の残していったセキュリティカードを片手に天童グループの本社へやってきていた。
今日は日曜日、思った通り、受付に人はいない。もしかしたら、六谷さんもいないかもだけど、社会人は忙しいって聞いたから、休日も仕事してるかもと思いここにやってきた。
もし、いなかったら、お手紙だけでも机の上に置いておこう。
勝手に入るのはよくないけど、少しお礼言うくらいなら大丈夫だよね?
自分にそう言い聞かせて、花は本社ビルの中へと入っていった。
まずは自動ドアの横にカードを読み取る機械があったので、借りたセキュリティカードを触れさせて、認証をさせる。
緑の丸マークが表示されたので、コレはOKだったということだろう。
自動ドアはすぐに開いた。
「良かった、このカード使えそう―――」
「よしっ、潜入開始だ―――!!」
12階 セキュリティ管理室はこっちから行けるか―――?
花はエレベーターに乗り込み、12階のボタンを押す。
ゆっくりとエレベーターは動き出し、上に行っているのが分かる。
ここまで、特にセキュリティカードを使う所もなさそう。
多分、部屋に入るときに使うのかなとか考えていると・・・
12階に到着し、エレベーターの扉が開いた。
「えぇーと、どっちだろう・・・」
扉の開いた先は左右どちらにも行けそうで、突き当りでさらに左右に分かれている。
「けっこう広そうだ―――」
「お目当てのセキュリティ管理室はどこなんだろ?」
花は一瞬迷いかけたが、親切なことにこの階の地図のような物を壁に見つける。
「おぉー、ここをこういって、行けば着くな―――」
一安心した花はその地図通りの場所へと向かう。
テクテクテク・・・
「ここかぁ―――」
分厚い鉄の扉に隣にセキュリティカードを読み取るリーダがある。
ここにカードを当てれば、入れるようになるってことか。
ピッ!!
ガチャ―――
セキュリティ管理室のロックが解除された。
「よしっ―――」
「入ってみるか・・・」
少しドキドキしてきた。
普段は割と大胆な方なのだが、この時にはそんな花も心臓の鼓動が速くなっていた。
「人は・・・誰もいないか?」
開いた扉から頭だけ出して、部屋の中を確認する。
中に人の気配はない。
部屋の中には大量のPC端末に何枚ものモニターがある。
部屋の奥には所謂サーバラックが視え、何台ものPCがピコピコと点滅を続けている。
デスクの間には大量のコードやら配線があり、いかにもIT系の職場という感じだ。
六谷さんの机はどこだろ―――?
花は周囲を物色する。
「てか、来てみて思ったけど、学校とかと違って、座席表とかないんだ・・・」
うかつだった・・・
そりゃそうか、社会人の仕事場に座席表があるわけないし、あっても必ずしも見えるところになんて貼っているとは限らない。
「う~~ん、分からないなー」
「一回出直すか―――」
そう思っていた矢先、背後から声が聞こえた。
「おい、そこで何してる!!」
花はびっくりして振り返る。
そこにはまさに探していた六谷さんがいた。
「六谷さんッ!!」
花はたまらず笑顔になった。
探していた人物に出会えたのだから―――
「君は―――あの時の女子高生?」
どうやら六谷の方も自分のことを覚えていたらしい。
だったら話は早い。
「そうです!!」
「えっと、六谷さんが去った後、この名刺が落ちていて―――」
「それであの時のお礼が言いたくて・・・その・・・」
事情を察した六谷―――
だからと云って、部外者が勝手にこんな所まで入ってきていいはずが無い。
それにどうやってここまで来れたのか―――、セキュリティカードがないとここまで来れないハズだ。
六谷は花のことを外部からの刺客ではないかと警戒していた。
「事情は大体わかったが、君はどうやってここに―――?」
「ココはセキュリティカードがないと入れないハズだが。」
「えっと、それはですね・・・」
花は自分が鍜治原の姪であることを伝え、ここに来るまでの経緯を説明した。
「そうか―――、君は鍜治原さんの・・・。」
「全く、あの人はいくら親族だからと云って、勝手に社内のセキュリティカードを託すなんて・・・」
頭を掻きむしる六谷。
全く、鍜治原さんには本当に困らせられる―――、先日、急にあっちの世界から連絡があって、千堂を始末しろと謂われたこっちの身にもなってほしい。
実験対象であった唯我 新の母親 唯我 日向を監視していた千堂を始末するって仕事が増えてこっちは寝不足なんだよ―――
六谷の眼もとの隈が酷い。まぁ、それはいつものことだが。
その様子から自分は六谷を困らせてしまったことに気付く。
「あ、あのごめんなさい―――」
「私が勝手にこんな所まで来てしまったばかりに・・・」
「うーん、まぁ過ぎてしまったことはしょうがないけど―――」
「それにその名刺、一応メールアドレスが書いてあったから、お礼ならそこに連絡くれれば対応したよ。」
六谷は名刺の下の方を指さした。
「あっ!?ほんとだ!!」
名前の方ばかり気にしていて、連絡先が書いてあったことに気付かなかった。
花は自分の迂闊さにイヤになる。
「まぁ、分かればいいさ―――」
「それじゃあ、会社の外まで送るから、この部屋から出ようか―――?」
六谷は花の肩に手を回し、部屋から出るように促す。
そして、エレベーターのボタンを押し、一呼吸する。
うん、大体分かった―――
彼女が外部からの刺客である可能性は―――0パーセント。
彼女の言っていることにウソはない。
あのセキュリティ管理室で何かを解析したような形跡もなかった。
よって、この子は間違いなくシロだ。
このまま、無傷で解放しても問題ないだろう―――
一応、部下に監視は付けさせておくべきか?
うーーん、でも通常業務に加え、能力者達の管理の方もなー稼働取られるんだよなー
「あっ、エレベーター開きましたよ!」
花がそう云って、六谷はハッと我に返る。
「おぉっと、ゴメン―――」
「外まで送る約束だったね―――」
そう、二人がエレベーターに乗って、下の階へボタンを押した。
エレベーターが下の階へと動き出す。
いつもなら何でもない行為なのだが、六谷はそれがすぐにいつもと違うことに気付いた。
ピシッ!!
まるで空間に亀裂が入るような音―――
「ッ!?」
六谷は思わず、階層を示す表示を見た。
「やられた・・・!!」
「進む階層は関係ないってことか―――」
「そんなものはただの演出で重要なのはエレベーターに乗るっていう行為そのものだったってことか!!」
「えっ―――!?」
六谷が突然、そんなことを言いだし、花は思わず六谷の方を向いた。
下へ向かっているハズのエレベーターの階層がドンドン上に向かっている。
階層の表示はバグって「??」になる。
エレベーターの中の明かりは消え、一気に空気が冷たくなる。
「停電!?」
花は驚いて、六谷にしがみつく。
「そうじゃないよ―――」
「俺達は嵌められたんだ。」
「異世界の女神様にね―――」
「それって・・・どういう意味ですか?」
一体自分たちはどこに連れていかれるのか。
花は何か異常事態が起こっているということを察する。
チンっ!!
エレベーターの扉がゆっくりと開く。
外から一気に眩いくらいの光に照らされる。
そして、鈴谷 花、六谷 五人の二人は迎えられる。
どことも知らない異世界『ヌバモンド』に―――