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第475話 【最後の転移者】異変


~現実世界 鈴谷宅~

 

 それはいつものような朝―――

 

 鈴谷 花は、まだ眠たい眼を擦りながら、ベッドから起きてくる。

 

 「花ーー!!早く、学校に行く準備しなさーい!!」

 花の母親の声も耳から入って、そのまま出ていく。

 

 何気なくテレビのリモコンのスイッチを押して、電源を付ける。

 

 いつも通りの朝のニュースが映る。

 

 「今日のニュース時間です。」

 「昨夜未明、都内世田谷区のコンビニで火災が発生し、重軽傷者5名を超える被害を出しました。」

 「幸いなことに隣家に火は燃え移ってはおらず、火は消防隊によって速やかに昇華されたのとのことです。」

 「なお、容疑者とみられる男は20代前半の男であり、その場を取り押さえた警官によると『自分は突然、超能力に目覚めた―――』と供述しているようです。」

 

 ニュースキャスターは淡々と用意された原稿を読み上げる。

 

 「えっと、何ですかね―――、『超能力』って。」

 「そんなものが存在するなら、見てみたいものですよ。」

 

 半笑いの司会者、まるで容疑者の供述を信じている様子はない。

 

 「『超能力』―――ッ!!」

 

 花はその言葉に食いつき、テレビの画面を凝視する。

 

 鈴谷 花は超能力に関するトピックが大好物な少女だ。

 

 「お母さーん!!」

 「テレビで超能力者が出たって言ってるよ~~!!」

 

 朝からテンションが上がり、さっきまでの眠気が一気に吹き飛んだ。

 

 「も~~、花ったら、そんなのデマに決まってるじゃない―――」

 

 母親も一切信じていない様子だが、そんな母親の言葉など耳に入らない程、興奮してテレビに注目している。

 

 「えっー、それでは『超能力学』に詳しいT大の小池教授をスタジオに迎えましたので、少し話を聞いてみましょう―――」

 

 司会者に紹介される超能力に詳しい謎の識者―――

 

 「『超能力』というものは実際に存在しうるものなのでしょうか―――?」

 

 紹介された小池先生は落ち着いた物腰で説明を始める。

 

 「ええ、大半の人は信じられないことかもしれないですが、超能力は実際に存在します―――」

 「最近、私の研究室の方にもそう云ったある日突然、超能力に目覚めてしまったと相談を受け、私自身目の前でその様子を拝見しました。」

 「ただ、その人の個人情報に配慮して、これ以上は言いませんが―――」

 

 会場はどよめいていたが、その真偽をこれ以上探るようなことはなかった。

 

 結局、誰もその教授の話を信じていなどいなかったからだ―――

 

 しかし、画面にかじりついて見ていた花だけは、目を輝かせていた。

 

 超能力は絶対にあると信じていたからだ。

 

 他の誰もが信じていなくてもそんなこと気にしない。

 

 自分は信じていればいい―――

 

 彼女はそう思っていた。

 

 「早く学校に行きなさーい!!」

 

 母親の声でようやく学校に出る準備を始める。

 

 「行ってきまーすっ!!」

 

 天童や未央達が行方不明になってから数カ月が経過したけど、私は元気だぞ!!

 

 もう泣くのは止めた。

 

 みんな、必ずどこかで生きている。

 

 アイツ等はしぶといからな―――

 

 そうだよな・・・天童、未央、唯我・・・

 

 いつもの学校へ行く通学路。

 

 いつも通りの風景だったが、何かがいつもと違っていた。

 

 「カラス・・・?」

 

 大量のカラスが河川敷の水辺を飛び回っている。

 

 何か赤い物が見える―――、何だろうと、花は制服のスカートを手で抑えながら、緩やかな斜面を転ばないように注意して下る。

 

 「何もないところにカラスは集まらない―――」

 

 大方、誰かがこんな綺麗な川にゴミでも捨てたんだろうと、思っていたが、予想は簡単に裏切られた。

 

 「ッ―――!?」

 

 

 そこにあったのは身元が分からない程にバラバラにされた死体だった。

 

 

 「誰がこんなヒドイことを・・・!!」

 

 花は急いで警察に連絡した。

 

 警察には発見時のことを詳しく聞かれたので、可能な限り詳細な説明をした。

 

 遺体の身元はどうやらこの辺りに住んでいた女子大生の方だったらしい。

 

 外傷は酷く、何かとてつもなく鋭利な刃物で両手足を切断されたみたいだった。

 

 人の力であんなに綺麗に人体は切れないと、警察は話していた。

 

 何か大掛かりな機械でも用いないとああはならないとのことだ。

 

 確かに天童みたいな剣の達人ならいざしらず、大抵の人は刃物を扱ってもあんな感じで斬るのは不可能だ。

 

 普通は人体を切断する場合、骨が刃先に当たって、斬れないので、骨を折ることになるって何かの本で読んだことがある。

 

 こんなことがあったので、今日は学校を休んだ。

 

 確かに朝からショッキングな場面に遭遇したとは思ったが、自分でも思ったほどのショックはなかった。

 

 多分、普段からネットで猟奇的な画像やスプラッター映画などで耐性があるからだろう。

 

 それにしてもあの死体、不思議だった。

 

 何であんな何の変哲もない川に死体が放置されたのかもそうだし、警察が言うようにどうやってあんなバラバラに死体を処理できたのかも分からない。

 

 もしかしたら、今朝のニュースのような超能力者の仕業?

 

 「なーんて・・・そんなわけないか。」

 

 「あっ、牛乳切れてる・・・」

 「コンビニで買いに行こうかな―――」

 

 冷蔵庫の中から牛乳を飲もうとするが、どうやら今は切らしているらしい。

 

 牛乳を飲んで身長を伸ばしたいと思っている花は牛乳を飲まないともやもやしてしまうので、コンビニへ買いに行くことにした。

 

 「ふぅーー、買えたーー!!」

 「よかった、よかった―――」

 

 満足気な顔の花。

 

 両手にビニール袋を引っ提げて、帰宅中。

 

 そんな花の前方から茶色いTシャツに黒いジャージのズボンで、眼鏡に肥満体型の男がブツブツ言いながら、歩いてきた。

 

 うわっ・・・なんだあの男、きったない格好だな―――

 

 そう思っていたが、どうみてもヤバい感じの男だったので、目は合わせないで、その場を通り過ぎようとする。

 

 しかし、花の容姿が男の視界に入ってしまう。

 

 「女子高生ェ・・・!!ヤるぞ!!」

 「俺は人にはない"力"を手に入れたんだ―――!!」

 

 男はブツブツとそう云い、気持ちの悪い笑みを花に向ける。

 

 「ッ―――!?」

 花はその男と目が合ってしまう―――

 

 その顔を見た時、花は背筋が凍ってしまった。

 

 「君・・・いいね―――」

 「いい身体してるよね・・・!!」

 

 口から涎を垂らす、その男。

 

 既に外は薄暗く、街灯がチカチカと点滅している。

 

 人通りは少ない。

 

 「な、なんだよアンタ―――」

 「私になんか用かッ!!」

 

 「グヘヘへ・・・昨日の夜は女子大生に試したから、今度は女子高生なんてのもいいなぁ―――」

 

 男の醜悪な顔が花に迫る。

 

 昨日の夜は女子大生って、まさかコイツがあの死体の人を・・・!?

 

 花は歯をカタカタ震わせて、何歩も後ずさりをするが、コンクリの壁に当たってしまう。

 

 男の吐息が聴こえる。

 

 「ねぇ・・・君は『超能力』って信じる?」

 

 

 カタカタカタカタ・・・!!

 

 花は恐怖のあまり、震えて声が出せない。

 

 「ついこの間、気付いたんだ―――」

 「俺には人には無い力が目覚めたんだってことにね―――」

 

 男は勢いよく、手を水平に振る。

 

 すると、金属製のガードレールが一瞬にして綺麗に切断された。

 

 まるで鋭利な刃物で斬られたかのように。

 

 「どうやら俺は空気を圧縮して鋭いカッターみたいにして飛ばせる能力に目覚めたみたいなんだ―――」

 

 

 『超能力』!?

 

 花はその光景に驚いた。

 

 まさか目の前の男がいつも自分が憧れていた超能力を使っていることに。

 

 あの女の人を殺したのもこの人なんだ―――

 

 あんなにも自分がワクワクしていた力を

 

 こんな使い方するなんて―――

 

 途端に男が許せなくなった。

 

 花は男を睨みつける。

 

 「何だァ!?その反抗的な眼は―――」

 「いや、こうやって反抗的な眼の女をヤるってのもそそられるなァーー!!」

 

 男は花の細い腕を掴む。

 

 「ちょっと、放してよッ!!」

 「助けてー!!誰か助けてーーーッ!!」

 

 花は叫んだが、ここは人通りが少ない。

 

 「無駄だよー!!」

 「例え誰か来ても俺のこの力を使えば、誰も手は出せないよ―――」

 「グフフフ・・・!!」

 

 花はもうダメかと思った―――

 

 しかし、その時、男の背後から猛スピードで蹴りが飛んできた。

 

 「ぐへェ!!」

 

 男は無様にコンクリの壁に叩きつけられる。

 

 「な、何をするんだァーー!!」

 

 「何をするってそれはこっちのセリフだ!ボケッ!!」

 「今朝、力の暴走したヤツのせいで人が死んだって聞いてやってきたが、アンタみたいな悪党が早々に力を悪用していたとはな―――」

 

 「だ・・だれ?」

 花は突然現れた知らない会社員風の男性に困惑した。

 

 まさか正義の味方・・・?

 

 

 「俺は・・・まぁ、名乗るほどの者のもんじゃないっす―――」

 

 会社員風の男はそう云うと、さっきの能力者と向かい合った。

 

 「テメェ!!誰に喧嘩売ってると思ってんだァ!!」

 「俺は人の枠を超えた能力を手に入れたんだぞーーッ!!」

 男は圧縮した空気を会社員風の男へと飛ばす。

 

 「危ないッ!!」

 

 「見えない空気のカッターっすか。」

 「百鬼さんの使うスキルの方が何倍も速く、見えにくく、範囲も広かったんで―――、大したことないですね。」

 会社員風の男がそう云うと、猛スピードの風のカッターを足で蹴り飛ばした。

 

 「なっ!?」

 「まさか―――、アンタも能力者か!?」

 

 「能力者―――?」

 「そんな大層なもんじゃねーよ!!」

 「俺はただの"社畜ゾンビ"だッ!!」

 

 会社員風の男の二―キックが顎に炸裂する。

 

 「グアァァっーー!!」

 

 ドスンッ!!

 

 コンクリに叩きつけられ、意識を失う。

 

 会社員風の男は100kg近くありそうな男の身体をひょいっと持ち上げて、どこかへ去ろうとする。

 

 「ま、待って―――!!」

 「あの・・・お礼がしたいので名前を聞かせてッ!!」

 

 花は腰を抜かして動けない。

 

 男を呼び止めようとするが、そのまま何も言わずに去ってしまった。

 

 しかし、男の去った後、そこには名刺が落ちていた。

 

 さっき激しく動いた時に落としたのだろう―――

 

 その名刺の名前にはこう書かれていた。

 

 『天童グループ第一事業部 セキュリティ管理部 六谷五人』

 

 

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