第462話 MISERABLE
~王都 聖ミラルド 大通り~
「ウヒヒヒ・・・コレは凄い―――」
「人間だけでなく、狂暴な魔獣や魔族の死体までありますねェ―――」
「コレは良質な不死者が作れそうデスヨ。」
ベルデはいい気分で街中の死体を拾っては、収納のスキルで異次元へと格納していた。
ここはネクロマンサーであるベルデにとっては、まさに宝の山。
死者を蘇らせる実験を行っている彼にとって、実験のサンプルが多いに越したことはない。
「待っていてくださいねェ―――」
「もうすぐデス・・・もうすぐデスから―――」
「愛しの妻に、愛娘よーーー!!」
ベルデのその眼は狂気に満ちていた。彼はその身を"魔"に魅了され、"魔"を追い求める。
「そこのお前―――ッ!!」
「こんなところで何をしているッ!!」
しかし、ここは戦場―――
宝探しをする男に敵が現れるなんてことは可能性として十分に考えられる。
幾人かの住民を後ろに一人の騎士風の男がベルデに声を掛けた。
「おやおや・・・貴方はあの時の赤髪の・・・・。」
「お、お前は・・・!?」
フラムの顔が強張った。
「フラムン、そのお爺ちゃんと知り合い?」
ヴィクトルは呑気に尋ねた。
フラムとベルデは以前、ガリアの基地で遭遇していた。
ベルデの実験で生み出された死霊達と対峙したが、ベルデと本格的な戦闘になる前に彼に逃げられてしまった経緯がある。
「フラムさん・・・気を付けてください―――」
「あの方から途轍もなく嫌な雰囲気がします―――」
「あの人はもはや人間ではないのかもしれないです。」
「美しく麗しいお嬢さん―――、人間であるかどうかはさして大した問題ではないのに、まるで人間でないことが悪であるかのような失礼な物言いデスね。」
「貴方達だって、そこの方々は人間ではないデスよね?」
ヴィクトル達、ジャハンナムを指差しそう云った。
「んーー?まぁ、確かにボク達は人間じゃないね―――」
「でも、何だろう―――、正義の味方?ってヤツかな。」
ヴィクトルはそう答えた。
「おうおう、そうだぜ!!ジジイ!!」
「俺は泣く子も黙る、バルバス様だ!!」
「こちとら、正義の味方やってんだよッーー」
「バルバス・・・それじゃあ、完全に"悪役"だよ・・・」
ヴィクトルはバルバスの言葉に呆れて、溜息を一つ吐いた。
「どういう理由かは知らんが、人間だけでなく、魔族や魔物の死体を拾い集める―――」
「そんな輩を見過ごす訳にはいかんな―――」
メルクロフは眼鏡の位置を整え、ベルデに敵意の視線を送る。
死してなお、その身体を利用しようとする者に嫌悪感を抱く。
死者の尊厳を奪う行為―――
メルクロフは戦士として、それが許せなかった。
そして、それはメルクロフ以外の他の者達も同じだった。
「みんな―――、気を付けてくれ。」
「ヤツは高位のネクロマンサー、不死者を生み出し、使役するぞッ!!」
フラムが皆に注意喚起する。
「やれやれ、お互い見て見ぬフリをすればいいモノを。」
「穏便にとはいかなそうデスネ。」
ベルデは魔道具である杖を手に持ち、戦闘の構えを取った。
「皆さんは下がっていてください―――」
「危険です。」
フラムが保護していた住民たちにそう云った。
そして、フラムとジャハンナムも臨戦態勢に入る。
「ジジイ!分かってんのか~~~ww」
「こちとら、上級魔族5人にAランク冒険者がいるんだぞ―――!!」
「テメェみたいな老いぼれ相手にならないんだよォ!!」
バルバスが吠える。
そんなことベルデだって百も承知だ。
それでも戦闘をするつもりなのだから、何かしら策があるのだろう。
「ヒヒヒ・・・そんなことわかっていますよ―――」
「手勢が足りないというのなら、足せばいいだけデスヨ。」
「漆黒の暗渠より悪鬼を招かん―――出でよ!サモンダークネス!!」
ベルデの周囲に次々と高位の不死者が召喚される。
「コレは驚いたでござる。」
「あの御仁、未央様と同じ術を使うのでござるな・・・」
「もうベリヤン!!敵に感心してる場合じゃないよ!!」
「たくさん出てきちゃったじゃん―――!!」
「ボク等で処理しないと街が大変なことになっちゃうよッ!?」
「どうやら高位のネクロマンサーであるというのは本当みたいだな―――」
「みんな―――、私とフラムであの老人を叩く、他の皆は道を切り開いてくれッ!!」
メルクロフはフラムとジャハンナムメンバーに指示した。
「分かった!!」、「りょ!!」、「了解でござる!!」、「分かったわ!!」、「了解ww」
~王都 聖ミラルド 中心街~
「シン様―――」
「私と決闘をお願いします―――」
リカントは真剣な眼差しでそう云った。
「このオレと闘いたいって云うのか?」
シンは少し笑みを浮かべると、リカントにそう云った。
「ハイ―――」
「そうです。」
500年以上前の記憶がリカントの頭に蘇る。
ねーねー!!
リカント、二人で面白い魔道具作ってみたんだけど、どうかな―――?
幼い頃のシンとエレナ。
よく二人で魔道具を作って、出来たら自慢そうに自分に見せてくる。
そんな幼少期。
しかし、今自分の前にいるシンは当時の面影を残しつつ、そこに立ち塞ぐ敵。
言わなくても分かる―――、シンは世界を混沌に導こうとしている。
「アリス様でも同じことをしたと思います。」
「いいだろう―――、一対一だな。」
「受けてやる。」
地上最強の男、リカントにはその自負があった。
それでいて驕ってはいない。
ただ、一人武人として闘いを申し込む。
リカントのヤツ―――、案の定、決闘を申し込みやがった。
これで、シンが少しでも弱った所を見せたら、俺様が背後からグサリと刺してやれるぜ。
サンドルはニヤリと笑みを浮かべる。
「合図はそうだな。」
「オレが今からこのペンダントを手から離す。」
「このペンダントが落ちた瞬間が開始の合図だ。」
「それで問題ないか?」
シンはそう云った。
リカントはコクリと小さく頷く。
火の手が回る街。
騒がしいはずの周囲もこの時だけ、無音となる。
シンがペンダントを手から離した。
ペンダントがコツンと地面へ落ちた。
刹那―――
戦闘が開始された。
リカントは即座に超集中状態になる。
その鋭い拳足をシンの方へと向けた―――
「リカント―――知っていたか?」
「世の中は不幸でいる者が強い―――」
「不幸を知っている者が強い―――」
「親に恵まれ、仲間に恵まれ、才能に恵まれ、運に恵まれ―――」
「そんな幸せな者は決して理不尽に生き続けてきた者に勝てない。」
「不幸でいるということは、幸福であることを求め続けるということ。」
「どうすれば幸福になるか追求し続ける。」
「与えられた幸福を享受し続ける者は決して考えない。」
「どうすれば、"幸福"になれるかなんて―――」
「だから、幸せな人生を送ってきたお前は不幸で居続けてきたオレには勝てない!!」
「混沌魔法:不幸な人生!!」
シンはリカントの方へ手をかざした―――
その瞬間、リカントの全身から血が噴き出す。
「グ・・・グオオオッーー!!」
リカントの悲痛な声が聞こえた。
「そ・・・そんな!?」
ベロニカは衝撃のあまり青ざめた。両手を口に当て、目の前の光景が信じられないでいた。
地上最強の男であるリカントはこんなに簡単にやられないと心のどこか奥底でそう思っていた。
それがこんなにもあっさりとやられてしまうなんて―――
「現実はとても理不尽だ―――」
「いつ命を落としてもおかしくない。」
「ココはゲームの世界でもなければ、アニメの世界でもない。」
「ましてや小説の中でもないんだ。」
「人は"死ぬ"―――」
「それもあっさりと、簡単にだ。」
「現実にHAPPY ENDはあり得ない―――」
「リカント―――地上最強と謂われ浮かれていたか?」
「所詮お前は、オレやアリス、天童 真のいない世界線でナンバー1と謂われていたに過ぎない!!」
「ナンバー2、ナンバー3でしかないんだよ。」
「うぅ・・・アリス様・・・未央様・・・申し訳ございません。」
リカントの最後の視界に写るのは無機質なシンの瞳。
リリア―――、長く待たせてゴメン・・・今、そっちに行くから。
聖王国滅亡のこの日、地上最強の男 リカントは死んだ―――