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第461話 DESPAIR


~王都 聖ミラルド 中心街~

 

 「リカント様・・・あの人は・・・?」

 

 ベロニカその異様な風貌の男に警戒心を持つ。

 

 それにどこかで見たことがある顔だ。

 

 「似てます・・・あの人の顔、進さんに似てます。」

 

 「あの方は、アリス様のご子息―――シン様だ。」

 

 「まさか、アリス様に息子がいたなんて・・・初耳です。」

 

 「そのことは魔王軍の中でもトップシークレットだからな。」

 「知っているのは、私とサンドル、そしてエレナだけだ。」

 

 この3人は今の魔王軍でも古株、初期からいたメンバーだ。

 

 「魔王アリス様はとても人徳に優れ、誰にでも優しい御方だったと聞きます―――」

 「でも、あの人からは、とても良くない気配が漂っています。」

 

 そうだ、ベロニカがシンに対して最も警戒していたのは、シンから滲み出るオーラ。

 

 隠し切れない程の死臭に禍々しい魔力。

 

 「そうだな・・・。」

 

 リカントはシンの方へと顔を向ける―――

 

 「シン様―――、今の貴方様は、私の"敵"と考えていいのでしょうか―――?」

 

 リカントは拳を握り、前に構える。

 

 答えなんか、本人の口から聞かなくても本当は分かっている。

 

 今、このタイミングで死んだと思っていたシンが出てくる。

 

 それが何を意味するか、察せない程、愚かではない。

 

 「リカント―――、お前はオレに敵対するのか?」

 

 「アリス様は義を重んじる御方でした―――」

 「そして、私もそうでありたいと尊敬し、付き従っていました。」

 「アリス様は生前から貴方様にそれはそれは深い愛情を与え、義を重んじるように育てておりました。」

 「ですが、今の貴方様からはそれを感じません。」

 

 「リカント、お前はお前が気に入らない育ち方をオレがしているから、歯向かうというのだな。」

 「そう言っているのだろう。」

 

 「そう思ってもらって結構です。」

 「全てはアリス様の為―――、あの御方の御意思です。」

 

 リカントは知っている。あの日、シンが死んだとされた日―――、アリスとシンは争っていた。

 

 そして、最期にアリスは泣く泣くシンを殺そうとしたこと。

 

 そうせざるを得なかったということ。

 

 もし、このままシンを生かしておけばいずれ世界が終わると予見していた。

 

 だから、アリスはシンを殺そうとした。

 

 もし、自分の前に再び、シンが現れるのであれば、それは自分が始末を付けなければいけない。

 

 あの日のアリスの意志を汲み取る為。

 

 「おいおい、殺気を立てるなよ、リカント―――」

 「せっかくの同窓会だぜ―――」

 「あの頃の面子メンツを集めたってのに、お前も少し愉しめよ。」

 

 そう云うと、シンの後ろから二人の人物が現れた。

 

 サンドルとエレナ。

 

 「サンドル!?」

 

 「エレナ御姉様―――!!」

 

 リカントとベロニカはそれぞれ声を上げた。

 

 「たくよ・・・メンドーなことになっちまったぜ。」

 

 サンドルはその長い髪を右手で掻きながら、億劫そうにしている。

 

 「・・・・・・・・。」

 

 エレナは何も言葉を発しない。

 

 意識がないようにも見て取れる。

 

 ボーっとして虚ろな様子だ。

 

 「貴様アアアァーーーーッ!!!!」

 「エレナ御姉様に何をしたアアァーー!!!」

 

 ベロニカは怒りでブチ切れ、声を荒げる。

 

 「姉さんはオレが付いてきてとお願いしたのに、拒否したんだ―――」

 「そんなことあり得ないだろ?」

 「だから、こうやって言うことを聞かせるようにしたんだ―――」

 

 シンはエレナの頭の方へ手を向ける。

 

 エレナは何も言わず、少し身を屈める。

 

 シンは手をエレナの頭を撫でるように左右に動かす。

 

 シンのニタアァ~~と気味の悪い笑みがリカント達に向けられた。

 

 「ッ―――!!」

 

 エレナのその従順なペットのような挙動対して、ベロニカは怒りで頭がどうにかなりそうだった。

 

 「貴様、卑怯だぞ!!」

 「そうやって、エレナ御姉様を操って―――」

 

 「お前―――さっきから"エレナ御姉様"だと?」

 「姉さんの家族は"オレ"だけだッ!!」

 「貴様は妹でもなければ家族でもない!!」

 「それなのにさっきから何だ?姉さんが大切な人だというのなら、オレに向かって来たらいい―――」

 「オレに勝てたら、姉さんに掛けた魔法を解いてやろう。」

 「それとも貴様はあれか?口だけか?」

 「気に入らない現実があるのなら、自らの力で変えてみろ―――ッ!!」

 「足掻いて見せろ―――ッ!!」

 「そうやって、自分の得たい現実が、手に入るというもの。」

 「口だけの奴に未来などないッ!!」

 シンはそう云った。

 

 シンの力がどれほどか、分からない。

 

 しかし、ここまで謂われたらベロニカも黙ってはいない。

 

 「剣を抜けッッ!!そして、正々堂々と私と闘えッ!!」

 

 「放してください―――リカント様!!」

 「私はヤツをぶっ飛ばして、エレナ御姉様の正気に戻さねばなりませんッ!!」

 

 リカントはベロニカを行かせまいと手を強く握る。

 

 「止めろ!!」

 「お前一人でシン様とサンドル、エレナ3人と闘って万に一の勝算はない!!」

 「お前自身それはよく分かっているだろう?」

 

 「・・・・ッ!!クソッ!!」

 

 ベロニカの力が弱まった。

 

 そんなこと嫌って程、分かっている。

 

 六魔将クラス2人にそれと同格かそれ以上の相手と闘っても勝てる見込みなど0に近いことくらい分かっている。

 

 それでも許せない気持ちの方が強いただそれだけだ。

 

 「リカント様・・・お願いです!手を貸してくださいませんか!!」

 

 ベロニカは懇願する。

 

 エレナを助ける為。

 

 「ふむ・・・そうだな。」

 「だが、相手の出方次第だ。」

 

 

 「サンドル―――、貴様は何故、シン様に従っている?」

 

 リカントはサンドルに問いかけた。

 

 苦虫を潰したような顔で答えるサンドル。

 「俺様がこの坊ちゃんが嫌いなこと知ってんだろォ?」

 

 「だったら何故―――?」

 リカントは続けた。

 

 「そんなこと、簡単だ―――」

 「俺様より強ェからだよ―――」

 

 サンドルはそう答えた。

 

 「そうか、サンドル―――」

 

 リカントはサンドルの狙いを読んだ。

 

 サンドルは狡猾で残忍な男だ。

 

 警戒するべき相手に対しては最初従うフリをする。

 

 昔からそうだ、アリス様にも、未央様にも最初は従ったフリをして、いつか裏切る。

 

 今回もヤツはシン様に従ったフリをして、機を見て裏切る算段なのだということを悟った。

 

 であれば、サンドルの方はさして問題ではない。

 

 

 「シン様!シン様!」

 「聖王国内のこのお宝の山―――もとい、死体の山本当に回収しちゃっていいんデスカ?」

 

 シンの後ろからまた新たに小汚い風貌の老人が現れた。

 

 老人の名はベルデ-ヴァ-ファルマール、公国の高名なネクロマンサー。

 

 「あぁ、問題ない―――好きなだけ持っていくといい。」

 

 「魔導国とブロワ王国の時の件も大変お世話になったのに、また今回もこのような機会が貰えるとは・・・まったく私はとても幸せ者デスヨ。」

 「研究者冥利に尽きるというものデス。」

 

 「フフっ・・・そうか、貴様の力、期待しているぞ―――」

 

 「ハハッーー!!このベルデ-ヴァ-ファルマール、貴方様に永遠の忠誠を誓います!!」

 

 ベルデは再び闇へ姿を消した。

 

 「何だ・・・あの男は・・・」

 リカントは突如現れたその老人に忌避感を覚える。

 

 何万という別の死体の匂いがこびり付いて、消えない嫌な臭い。

 

 ベルデからそんな匂いがした。

 

 

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