第458話 進化する英雄②
~匣内部 第伍階層 観戦室~
進が立ち上がる少し前。
「社長の勝ちですね―――」
「進様や心様には現状を変えて欲しかったですが、これもまた運命。」
徳川は両腕を組み、勝負の行く末を見守る。
進が倒れ、キルも倒れ、戦場で唯一その両足で立つ天童 真。
勝負は真の勝利に思われた、しかしその時、一人の少女がどこからともなく現れた。
「あっーー!!いたいた!!やっと見つけたよぉ~~!!」
「みんな、こんな所にいたんだね~~~!!」
「未央ちゃんッ!!」
鏡花は手を口に当て、驚いた様子を見せる。
数時間前まで瀕死の状態だった少女がここまで回復するなんて―――
流石は魔王アリスの力を引き継いだというだけのことはあるか。
などと考えたが、そんな事よりも素直に一人の友人が回復したことを喜ぶ。
「何だ何だァ~~~」
「ッ!?」
「未央ちゃん!!」
「未央ッ!?」
新やリオンも未央の出現に気付いて、駆け寄ってきた。
二人とも感動の再会で、未央の手を強く握った。
「ちょ、ちょっと―――、二人とも強く握り過ぎだよ~~!!」
「ん―――、あぁ、すまない。」
「あまりにも嬉しくて、ついな・・・」
リオンは未央の言葉でハッとなりその手を放す。
「それより、二人とも進ちゃんは?」
「私、進ちゃんに言わなきゃいけないことがあるの―――」
未央は真剣な顔つきで尋ねた。
「進ならホラ・・・あそこだ。」
巨大なモニターに映し出される進。
そこには生気の失った顔の進がうつ伏せになって倒れている。
そして、その隣にはキルが進の背中に重なるように倒れている。
その姿はまるで進を守るような、寄り添う形で。
すぐ近くには自分を倒した真がキルの返り血をその顔に浴びながら、近づいている。
「ねぇ・・・女神様―――」
「お願いがあるの―――」
未央は真面目な顔でアドミニストレータに懇願した。
~匣内部 第伍階層 現想~
一度、絶望に堕とされ、膝を折った男が立ち上がること、それが何を意味するか。
成長、覚醒、進化―――、コレは兆しだ。
全ての人類が進化に至る為の―――
どんな人種、国籍、言語、その思想に至るまで―――、全ての人間が恋焦がれる理想。
こうでありたいという欲望。
「白の人格と手を組んだか―――」
真の無機質な瞳が進を突き刺す。
もう屈しない、父さんといえども負けたくない、そう思った。
「どれだけ綺麗事を述べようが、所詮この世は結果が全て―――」
「どこまで非情になれるか―――」
「何かを得る為に別の何かを斬り捨てられるか―――」
「人間はどこか心の内で、両方を得たいと望む。」
「しかし、そんな甘えたことを言っているから何も得ることが出来ない。」
「必要なのは斬り捨てる覚悟だった。」
「オレはアンタを超える為なら悪魔にだって力を希う―――ッ!!」
「フンッ!!ならばやってみるがいい―――」
「私は口だけの輩が一番嫌いだ!!」
臨戦態勢入る真。バチバチの闘志をむき出しにする。
「進・・・」
キルは霞む視界に確かに進の姿を捉えていた。
安堵した―――、自分のやったことは無駄ではなかったと安堵し、再び眠りについた。
意識を失ったキルはアドミニストレータのジャッジにより、戦闘不能とされ、観戦室まで転移させられた。
電光掲示板に映し出されたキルの名前の横に『×』と表示される。
やっと進と真の二人きりの世界になった。
もうそこは完全に二人の世界。
親子の空間。
「何度敗けようが立ち上がり、その度に力を増して立ち上がる。」
「私の求める理想の進化。」
「本来人類があるべき姿。」
「・・・・・・。」
進は真の言葉を黙って聞いていた。
「皆、物事に対して失敗を恐れすぎている。」
「恐怖すること自体は特別間違ってはいない―――」
「だが、大抵の人間はその恐怖のあまり在りもしない"壁"を感じる。」
「"自分みたいな人間"と己の評価を低くする。」
「その考えこそが"弱者"なのだ―――!!」
「どんな人間にだって、壁など本来は存在しない―――、存在してはならない!!」
「人類は空を飛べない、水の上を歩けない、岩を砕けない、ライオンより速く走れない―――」
「誰が決めたのだ?そんなこと。」
「それはお前たちが勝手に決めたことだろう―――」
「自分達の"可能性"を何故、"可能"に変えない?」
「私は成し遂げる―――、神すら行えなかった偉業を。」
そう云い終えると、進と真の戦いが再び始まった。
全てのステータスが2000を超え、さらに急速な勢いで増加をしていく進。
3桁のステータス限界を超え、真へ己の力をぶつける。
「力の増加を感じる。」
「もはや、この世界の摂理すら、貴様にとって"甘え"なのだな。」
「あぁ、そうだ。」
「退屈な力だ。」
「だがな・・・父さん―――アンタを超える為にオレを全てを投げ打つ覚悟だッ!!」
「魔眼発動!!」
「魔眼発動!!」
両者の魔眼が力を振るう―――
時を操る魔眼同士、その力で時間が歪む。
両者その手に持つ刀剣で斬り合う。
お互いの天童流剣術の全てをさらけ出す。
速いとか遅いとかそんな次元じゃない。
幾千の刃が飛び交う危険地帯。
大岩が瞬時にサラサラの砂に変わるそれほどの空間。
「フ・・・フハハハーーー!!」
真は笑い出す。
「面白い!!面白いぞ!!」
「進ッ!!」
「私は退屈していた―――この世界に!!」
「何故、自分以外の人間は"弱者"なのか―――」
「自分以上の"強者"は存在しないのか―――」
「誰も私を"理解"できないのか―――」
「いつも考えていた。」
「だから、貴様たちを創った、全ての人類を進化させればいずれ、自分に匹敵する人間が続々と出てくる。」
「私は待っていたのだ!!」
「自分に匹敵する英雄を―――ッ!!」
そう口にする真は何だがとっても嬉しそうだった―――




