第454話 【最終決戦】英雄 天童 進 & 天聖 スターリン-キル VS 勇者 天童 真 & 危機管理の仕事人 徳川 将司⑰
~匣内部 第伍階層 観戦室~
「私は・・・まだ戦えます・・!!」
徳川は切り裂かれた腹部を手で押さえ、アドミニストレータに訴える。
キルとの一騎打ち、完全に上を行かれてしまったが、負けを認めたわけではない。
こうして、現に立ち上がれる。
それなのに、一方的に観戦室に転送され、憤りすら感じていた。
「あら?徳川ちゃん―――往生際が悪いわよ。」
「私は一回、心様に不意を突かれましたが、負けてなどおりません。」
「それに・・・進様はどうなのですか?」
「私よりも先に地に倒れ、未だ立ち上がっておりません―――」
「私が戦闘不能として扱われ、進様が戦闘不能として扱われない―――」
「これは不平等なのではないでしょうか?」
徳川の言う通り、進はまだ立ち上がっていない。
戦意を喪失している。
それでも、戦闘不能として扱われることなく、フィールドに残っている。
「あの子もやっているから、ボクもやった。」
「なんであの子は許されて、あの子は許されない。」
「フフフ・・・まるで、小学生みたいな言い分ね―――」
「却下よ―――」
アドミニストレータは徳川の訴えを一蹴する。
「ほう―――、それでは納得のいく理由を教えてもらおうか。」
「審判に理由を求めるなんて、野暮ね。」
「でも、まぁいいわ、教えてあげる。」
「貴方はこれ以上やってもキルちゃんには勝てない。」
「そう判断したからよ。」
「勝てない?」
「確かに心様の成長速度は私の比ではない。」
「しかし―――、」
徳川は一旦そこで、言葉を止めた。
これ以上の問答は自分を惨めにするだけと判断したからだ。
「まぁ、そちらはそれでいいでしょう。」
「ですが、何故、進様は未だ戦闘不能として判断されていないのでしょうか。」
「それは、この試合が始まる前に貴方が自分で云ったことじゃない。」
「進ちゃんと真ちゃんの二人が決着を付けることこそがこの闘いの意味だと。」
「今の判定は貴方の要求に忠実に沿った結果よ。」
「ッ―――!!」
「貴方というお人は・・・!!」
徳川の額に冷たい汗が流れる。
ほんの少しだが、アドミニストレータに恐れを感じた。
あんな状態の進がまだ戦えると本気で思っているからだ。
「進ちゃんはまだ死んでいない、戦意を喪失しているだけ。」
「もし、このまま立ち上がらなかったらどうするつもりですか。」
「このまま立ち上がらなかったら?」
「そんなことを聞くなんて変な人ね。」
「勿論、真ちゃんがやりたいようにやるだけよ。」
「命を取るも、情けを掛けるも―――それは勝者の特権。」
「私が強制するものではない。」
助ける気はないと、あくまで中立な立場であると、そう云いたいわけですね。
徳川はそう理解した。
徳川の希望は進と真の和解。
しかし、今の立ち上がれぬ進ではそれは叶わない。
弱者はいらない。
真は容赦なく命を奪ってしまうだろう。
「致し方なしですか―――」
徳川はこの勝負を静かに見届けるしかなかった。
~匣内部 第伍階層 現想~
「希望、夢、理想―――」
「大半の人間が若いうちに持つ―――」
「自分はこうなりたい、これがやりたい―――」
「しかし、皆が抱くのは夢や幻想、大半の者がその理想を叶える為に自らの手を汚そうなどとはしない。」
「死に物狂いで足掻こうとしない―――」
「そうやって、ずるずる年月を過ごすこと、気が付けば後戻りできない年齢。」
「人は自分が思っている以上に人に興味がない。」
「誰がどこで何をやっていようなど興味がないのだ。」
「だから、皆が皆、中途半端な夢を持つことを否定しない。」
「まぁ、仮に否定しようが、本人が認めないだろう。」
「彼らは泥沼に半身浸った状態なのだ。」
「本人はもがいているつもりだろうが、その当の本人には力がないから抜け出せない―――」
「夢見心地状態、自分に酔った状態、自分はまだまだこれからだと、自分に言い聞かせ、具体的な打開策すら思案しない。」
「だから私は云うのだ―――」
「そんな愚かな若者達に向けてな―――」
「身の丈に合わない"夢"など持つなッッ!!」
「"理想"など語るなッッーーー!!!!!と。」
「はぁ、はぁ・・・何がいいたいの?」
「122番―――、貴様も私を倒そうなどという身の丈に合わない夢を持つのは止めろッ!!」
ボトっ―――
鈍い音と共に、キルの左腕が切断された。
「ッ―――!?」
キルは全く反応できなかった。
切断面は綺麗に斬られ、血が流れ出ている。
キルの左腕はすぐに力を失い、手に握りしめていた真の影はスルスルと真本人の足元へと戻っていった。
「ふむ。既に克服はしたが、私の影は返してもらうぞ―――」
「ッ・・・!!」
キルの額から冷たい汗が流れる。
キルさん!!
アルマが声を上げる。
既に身体はボロボロ。
一方、真の体力はまだまだ有り余っている。
分が悪すぎる。
まだまだやれるの―――!!
キルはアルマに言い聞かせる。
もし、自分が倒れてしまったら、次は進へ刃が向けられるだろう。
やるしかないの・・・!!
大丈夫、私は強くなったの―――
もう、以前の私とは比べ物にならないの!!
キルは真へ飛び掛かった。
光と影、二つの力を持つ少女。
全身に魔力を込め、精密な動きで真へ攻撃を仕掛ける。
その華奢な身体で、素早く動く。
トン、トン、トン。
鋭い拳足を真の五体へ叩き込んだ。
何発も何発も。
「ふん、無駄だ!!」
「その程度では私は倒せない―――」
それでも真は微動だにしない。
真にとって、それは涼風に等しい。
「ッ!!」
真は右手をキルの喉元へ突き刺し、頭から地面へと叩きつけた。
それは見事に決まり、キルは為す術がない。
「これでもまだ勝てないなんて・・・・どうすればいいの・・・?」
キルの頭の中に真に対する恐怖心が蘇った。
~匣内部 安眠室~
「うっ・・・う~~~ん。」
「ここは・・・どこぉ?」
少女はふかふかのベッドの上、目が覚めた。
伸びをして辺りをキョロキョロする。
真っ白な空間、ベッド以外、何も見当たらない。
ぼんやりとする頭の中で彼女はハッとした。
「そうだ!」
「進ちゃんは!?」
少女は立ち上がり、部屋を出た。