第448話 【最終決戦】英雄 天童 進 & 天聖 スターリン-キル VS 勇者 天童 真 & 危機管理の仕事人 徳川 将司⑪
~匣内部 第伍階層 現想~
「素晴らしいです―――」
後方で闘いを視ていた徳川。真を称賛するように言葉を漏らす。
何回、オレは負ければ、この男に勝てる―――?
どうやったらこの男に勝てる―――?
進は腹を斬られ、血がドロドロと流れ出る。
立てない。
もう、どうだっていいや―――
立ち上がる気力すら沸かない。
血が赤い。床が冷たい。それともオレの身体が冷たくなっている?
ここで父さんに勝って、それでどうなる?
そもそも、何でオレはこんな命懸けで闘っている?
聖王国の人の為?
未央を傷つけられたことが許せなかったから?
それとも、何気ない日常を取り戻す為?
そうだった、元の世界に戻って、平和な生活を取り戻す為に闘っているんだった―――
でも、父さんはその現実世界を変えてしまった。
もう、戻ってもそこはオレの知っている元の世界じゃないかもしれない。
そんなところに戻って本当に価値があるのか?
平和な生活が待っているのか?
元の世界に戻って、みんなを元に戻す方法を探して、それでもそれが叶わなかったら?
絶対に元に戻る保証なんてない。
もういいっ・・・!!
もう疲れたよ―――
考えても仕方ない―――
このまま、父さんに殺された方が幸せなのかもしれない。
希望や闘争心、理想への想いまでも斬り捨てるそんな一閃。
天童流剣術は物質だけじゃなく、人の想いや物理法則、概念、ありとあらゆる存在を"斬る"。
「フフン―――♪」
「やっと大人しくなったか―――」
「全く、子どもとは手の掛かるものだな―――」
真は地に倒れる進を見下ろし、そう云った。
「やっと機会が回ってきたの―――!!」
立ち尽くす真に向かって殺気を露にするキル。
「暗黒武技:影落とし」
背後からの一撃。狙うは真の影。
大鎌で真の影を切断する。
「ッ―――!?」
「コレは・・・!?」
真の全身がまるで地面に縫い付けられたかのように動かない。
指一本動かせない。
動くのは口のみ。しかし、これでは魔力を込めることもスキルを発動することも難しい。
キルの『影落とし』は相手の影を切断し、本体と影を分離させる技。
「本体が動くから影も動くの―――」
「じゃあ、逆に影が動けなくなったら、本体はどうなると思うの?」
真の影がキルの手元でバタバタともがいている。
キルはその影をしっかりと握りしめる。
「チッ・・・余計な真似を―――」
「私としたことが・・・一生の不覚だ―――」
真は舌打ちをし、キルを睨む。
本来の真なら、不意打ちであろうとも、今の攻撃を躱すことは何ら難しいことではなかったであろう。
しかし今の攻防―――天童流剣術奥義『静寂の月食』に加え、《魔眼》の時間を捻じ曲げるという大技を使用した真。
流石の真もそんな大技の連続使用により、少しの隙が生じた。
その隙をキルが突き、『影落とし』を成功させた。
キルの手に真の影がある限り、真の動きは制限される。
気力を削がれ、倒れる進。
キルの『影落とし』によって、動きを封じられる真。
勝負は決したかに思われたが、ここで両者、動けない―――
動けるのはキルとそして・・・
「徳川―――」
「命令だッ!!」
「その小娘から何としても私の影を取り戻すのだッ!!」
真は後ろに控えていた徳川に命じた。
「ハッ!!」
徳川は一礼し、キルの前に躍り出る。
「進ッ―――!!」
「貴方の"覚悟"はそんなものなの―――!?」
「みんな貴方のことを"英雄"と呼んでいたのッ!!」
「クロヴィスの街の人たちだけじゃない、モレク様や他の魔族でさえも―――」
「確かに貴方のおかげでクロヴィスだけじゃなく、穏健派の魔族たちは平和に過ごせているの。」
「前は平和なんてくだらないとさえ、思っていたけど、クロヴィスの闘いが終わって、改めて感じたのーーー」
「ジャハンナムのみんなやモレク様と過ごせることが嬉しくて幸せだったの―――」
「クロヴィスの人達も、私たちが貴方達を傷つけたのに、それを許してくれて、みんな優しくて―――」
「だから―――私も貴方のことムカつくけど、貴方の実力だけは認めているのッ!!」
「元の日常に戻るんでしょ―――!!」
「"天才" 天童 進がこんなところで立ち上がれないなんてないのッ!!」
「貴方は私のお、・・・"お兄ちゃん"なんでしょ―――ッ!!!!」
「だから、立ち上がってよ―――ッ!!!!」
おぼつかない口調でキルは言葉にする。
進に対する気持ちを。
「・・・・。」
それでも微動だにしない進。
彼は今、闘争心の抜けた抜け殻のような状態。
キルの声は聞こえてはいる。
しかし、心は落ちていた―――
「何でなの・・・。」
キルさん―――
キルの心の中で聖女アルマが心配そうな声を出す。
しかし、キルは落ち込んでいるわけではない。
寧ろ、その逆、進は絶対に立ち上がる。
進は必ず戻って来る―――
そう信じていた。
闘争心を漲らせ、武器を手にする。
「素晴らしい、兄妹愛です―――」
「私、感激致しました―――」
拍手をしながら、キルの前に立つ徳川。
片手には真の影。
徳川は真の影を取り戻す為、剣を抜く。
キル VS 徳川の勝負が再び始まろうとしていた。




