第446話 【最終決戦】英雄 天童 進 & 天聖 スターリン-キル VS 勇者 天童 真 & 危機管理の仕事人 徳川 将司⑨
~匣内部 第伍階層 現想~
「・・・ぐぅう・・・ぅ!!」
刹那的な時間の中、真の苦しそうな息遣いが聴こえる。
大きく眼を見開く進。
キルの一言で感傷的になることを止め、闘いに集中していた。
「よっしゃーーッ!!」
観戦室で見ている新の声がスピーカー越しで聞こえてくる。
いきなり背後から斬られ、そのまま地面へ倒れ伏すかと思いきや、真は左手で地を掴み、足を蹴り上げた。
「暗器かッ!?」
真の革靴には小型の刃物がむき出しになっている。
緊急時にむき出しにして敵を切り裂く為に真が仕込んでいる携帯用の武器だ。
後ろへのけ反る進。
そのまま、真は左手を軸にして、脚を大きく開き回転させる。
キルの足を払い、バランスを崩す。
「安っぽい手なの―――!!」
「今更、そんな小細工通用しないの!!」
キルも戦闘の天才。武器学だけでなく、武器を用いない格闘術、武芸にも精通している。
いつ何時、襲われるか分からない世界、当然不意打ちの類は常に警戒している。
キルは真の抵抗を難なく躱し、逆立ちの態勢になっている真の顎を蹴り上げ、少し手が浮いたところ、眼前に真の腹部がやってくる。
思いっきり蹴り飛ばす―――
「むぅ―――!!」
物凄い衝撃音と共に真の身体は吹っ飛ばされた。
「キル・・・お前、やるな―――」
「父さん、相手に今の動きは―――」
進は幼少期から武芸を仕込まれてきたから今の動きがどれだけ凄いのか分かる。
キルは恐らく、実践の中で今のような呼吸、動きを体得したのだろうと把握した。
「社長―――」
「ご無事ですか―――」
吹っ飛ばされた真の傍へ、徳川が馳せ参じた。
キルの影魔法での拘束が解けたようだ。
「やるではないか―――」
「シュトリカム砦での戦闘の時とは段違いだ―――」
嬉しそうな真。その手と膝は地に着き、まっすぐに進達を見ている。
背中からは赤い血がダラダラと流れている。肉を切り裂くところまではできたが、まだ浅かったようだ。致命傷には至っていない。
「おぉ・・・!!」
「何ということだ―――」
「まさか、社長が傷つけられようとは―――」
徳川は驚いたような表情をする。
「少し、手傷を負ってしまったようだ―――」
「だが、無問題」
「白魔法:ヒール!!」
真は治癒の白魔法を使用し、背中の傷を治療し始める。
「ふむ―――、治りが遅いな。」
「完全に切り口が再生しない―――」
「進の天童流剣術が進化しているようだ―――」
「ッ!?」
「これは驚きました。」
「まさか、進様も社長と同じ領域にまで達したとは―――」
徳川が少し慌てている。
天童流剣術の極地。『全てを斬る』ということ。どうやらいつの間にか天童家に残された古文書に記載されていた領域にまで足を突っ込んでいたみたいだな。
「天童流剣術の起原は戦国時代、その時代に妖術とまで云われた呪われた剣術、それが天童流剣術。」
「どんなものでも斬り、物質だけでなく概念までも斬ったとされる。」
「剣術だけでなく使用者の精神力までもが、天童流剣術の中に秘められているが故の結果だろう。」
「これから、どういたしましょうか―――」
「この徳川も進様を狙うべきでしょうか?」
徳川が真に確認する。徳川と真、これからの戦略を確かめる。
徳川は真の指示を待つ。
「やはり、あの二人は兄妹だ」
「生来よりの動きが完全にシンクロ、理解し合っている―――」
「呼吸をするようにお互いの動きを把握していなければ、さっきの動きはできない。」
「では、私めも・・・」
「不要だ―――」
「ッ―――!?」
「だからこそ―――」
「まずは私一人で、力の差を思い知らせてやる―――」
「徳川、貴様はそこで見ていればよい。」
「ハッ―――、かしこまりました。」
徳川は一歩後ろへ下がる。
逆に真が前へ出る。
その眼をギラつかせて。
その瞳は全てを吸い込むような銀河のような瞳だ。
天童 真 VS 天童 進 & スターリン-キル。シュトリカム砦での闘いの再来。
言わなくても分かるな―――
―――分かっているの
父さんを殺す気でヤル。付いてこい―――
―――命令するななの。
オレはキルと心の中で会話していた。
無意識のうちに、闘いに集中しすぎて、気付かなかった。あまりにも自然な行為だったから。
オレとキルは深い深い海の中を潜っているような感覚だった。それは深い集中状態。
「来いッ―――」
「息子たちよ―――!!」
「全力で相手をしてやるッ!!」
もうオレは迷わない―――
進とキルは思いっきり地面を蹴り、手には武器を持ち、真へ迫った。
お互いの命のやり取りをする為。
この親子の距離数メートル。
キルは無言で左へ進路を切り替える。
オレだけ、父さんと正面で向かい合う。
「黒魔法:黒穴!!」
真の手に黒い球体が生み出され、放つ。
それは全てを飲み込む、黒い球体《黒穴》。
それは未央の魔法。
「ありゃ、未央ちゃんの魔法じゃねェーか!!」
観戦室のガラスに張り付く新。
魔王の血も持っている父さんなら可能だろう、不思議には思わない。
全てを飲み込む球体ならこっちも無限のエネルギーを飲ませてやればいい。
「極大白魔法:無限光子撃!!」
進は手のひらに光の球体を生み出し、黒穴へ放り投げた。
周囲を強烈な光が照らし、耳を劈くような音を鳴らす。
まるで未央戦の再現だ。
「強烈な光は濃い影を生み出すの―――」
「極大影魔法:天にあるものの写しと影と(コピー&シャドーインヘヴン)!!」
ブワッとキルの足元から、黒い霧が放出された。この影魔法はキルがこれまで狩ってきた英雄たちの霊魂を戦士として使役する魔法。
数十体の英霊たちが真を取り囲む。
そして、一斉に攻撃を開始した。
「無駄なことを―――」
「《剣生成》発動。」
真は童子切を床に突き刺すと、新たな剣を二本生成した。
「聖剣技:聖連破光殺!!」
「暗剣技:闇光乱命剣!!」
相反する光と闇の剣技を使い、英霊たちを瞬殺してしまう。
「聖剣技と暗剣技の両方を同時に使用できるなんてとことん規格外なの―――」
魔王と聖女二つの遺伝子を持ち、善悪の感情を持たない真にだからこそできる芸当。
剣技の発動後、そのあまりの威力に生成した二本の剣はボロボロに崩れ去った。
「だが、隙はできた―――」
「ありがとう―――キル!!」
衝撃音と影によってできた煙の中、風を突き抜け、天才 天童 進が真の懐まで侵入する。
素早く童子切を手に握り、天童流剣術を放つ真。
「天童流剣術:十六夜!!」
十六夜は間合いの中では回避不能の剣技。
迎え撃つしかない!!
そう判断する進。
「天童流剣術:震 十六夜!!」
十六夜の進化系で対抗する進―――
「進ッ―――!!」
キルの声が聞こえる。
光速な斬り合いを行う両者。
互いに一歩も譲らない。
一手のミスが致命傷となる。
しかし、刹那的な斬り合い、命のやり取り、親子の対話、この瞬間を二人は幸せだと感じていた。




