第443話 【最終決戦】英雄 天童 進 & 天聖 スターリン-キル VS 勇者 天童 真 & 危機管理の仕事人 徳川 将司⑥
~匣内部 第伍階層 現想~
「コレが私の新しい力なの―――」
キルは自らの手のひらを見つめる。
いつもより遥かに溢れ出る力。
この力が何なのか感覚で分かった。
「《異能を打ち破りし者》・・・」
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《異能を打ち破りし者》
あらゆるスキルの影響を受けない。
防御系スキルを貫通する。
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「お見事です―――」
「ですが―――、この徳川もこのままやられるような弱者ではございません。」
「キル・・・」
「アレがアイツの進化した姿なのか―――」
進はキルの覚醒を眼で追っていた。
「どうした?進よ―――」
「この私を前によそ見とは余裕じゃあないか―――?」
容赦のない真の連撃。五月雨の剣撃。降り注ぐ矢のような衝撃。
真の滞空時間は常軌を逸している。
一挙手一同、この男の動きは最高級。世界のアスリートが束になっても、軍隊を用いても勝てない男。
羽のような柔らかいステップで地に着地すると、童子切を突き出し、肘を引いた。
「天童流剣術:雨月!!」
人体の急所を的確に狙う猛スピードの突き。それが天童流剣術:雨月。
雨月の狙いはランダムであるかのように見えて規則的である。
同じく天童流剣術を習得している進であれば、雨月を退けることはそう難しくはない。
父さん―――
オレに雨月は通用しない―――
そんなこと父さんは百も承知のハズ。
何を狙っている?
嫌な胸騒ぎがしたので、進は剣の射程距離から離れ、バックステップで大きく後退する。
「天童流剣術:三日月!!」
今度は飛ぶ剣圧、天童流最速の剣術、三日月を真は放つ。
これなら射程距離は雨月より遠い。
「天童流剣術:新月!!」
進は三日月の剣圧を新月で一刀両断する。
「まだまだこんなものじゃないだろ―――?」
不敵な笑みを向ける真。
「ようやく身体が温まってきたところだ―――」
「今まではウォーミングアップだったってことか―――」
やけにオレのことを試すような技が多いと思ったら、そういうことか。
進と真にしかできない対話。今までの攻防も並の戦士なら立ち入る隙すらない程のハイレベルな戦闘。それをこの親子はただのウォーミングアップだと云う。
とことん規格外のバトル。
ここからさらにバトルが激化するかのように思われた―――
しかし、その時、真っ白な部屋の床、壁、天井全てに同じ映像が流れた。
「ここで一回、このフィールドの特殊ルール、ある映像を流しま~~す!!」
闘いの水を差すようにアドミニストレータのアナウンスが入った。
確か、試合開始前に闘いの最中に何度か映像を流すと言っていた。
それがこれか・・・
だが、この映像は一体なんだ?
進はそこに映し出された映像の場所に見覚えがあった。
そこは進達が現実世界で通っていた神代学園の校舎。
映し出される教室、部室、廊下、体育館、グラウンド、通学路に至るまで―――
進がこの世界にやって来る前に生活をしていた空間だった。
「コレはオレと未央・・・。」
そこに映し出されたのは、通学路で楽しそうに話している進と未央、しばらくするとそこへ新もやって来る。そして新の後ろから鏡花や花もやってきた。
みんなで楽しそうに歩いて通学しているシーン。
そして、シーンは切り替わり、教室のシーンへ。教室ではいつも通り授業を受けているオレや未央、そして居眠りをする新。
いつもと変わりない日常。
そして、放課後部室へ行くオレ達。
これはオレ達の日常・・・?
「映像の最後に『天童 進の理想』と表記があった。」
「コレがこの第伍回戦の特殊ルールか・・・」
真はそう呟いた。
「そう―――」
「今、映し出された映像、これは進ちゃんの理想―――」
アドミニストレータの声が聞こえる。
「一体、何のつもりだ!?」
オレはアドミニストレータに向かって叫んだ。
「進ちゃんが望んでいるのは、こういった何気の無い日常―――」
「周りの人間が楽しそうに日々を過ごしていくそんな日常。」
「でも、コレが『現実』」
映像はさらに続いた。
「なっ・・・!?」
次のシーンはこれまでのこの世界にやってきて進が闘ってきた数々の勝負。
ゴブリンや地龍に始まり、サンドル、ガリア、新、ゲオルギ、キル、モレク、未央・・・
数秒ずつだが、確かにそこには過去の戦闘が映し出される。
オレは何気ない日常を求め、元の世界に戻る為、これまで闘い続けてきた。
次に映し出されたのは、オレがこの世界にやって来る前にやってきた正義の執行だった。
悪人をその刃で裁く瞬間、悪人の命をその手で奪う瞬間が映し出された。
「天童君・・・」
「天童―――」
「進がまさか―――」
「こんなことを・・・」
その壮絶なシーンに観戦室の新とリオンは言葉を失う。
「アドミニストレータ・・・!!」
「オレのこれまでの行いが間違いだったとでも言うつもり!?」
「間違っていないさ―――」
「我が息子よ―――」
映像の中であるのに剣を振り払ってきた真。
「クッ・・・!?」
「どうした?」
「映像が流れようが、何をしようが勝負は続行中だ!!」
「集中力が足りんぞッ!!」
容赦のない真。その攻撃に対応する進。
アドミニストレータは何がしたい?
こんな過去の映像をオレに見せて、何がしたいんだ!!
「オレは自分の行いを後悔などしていないッ!!」
真へ痛烈な一撃を放つ進。真はその衝撃を受けると、空中で三回転し、華麗に着地を決める。
「ええ―――、進ちゃん」
「貴方はそうでしょうね。」
「でも、貴方に殺された人たちは本当に納得しているでしょうか?」
次の映像ではオレが殺していった人間たちの怨念に満ちた表情が映し出された。
「確かにオレがその手に掛けた者達は納得なんてしてないだろうな―――」
「誰だって自分の命は可愛いものだ。」
「だが、裁判の実刑なんかは奴らには生温い!!」
「誰かが直接裁かなければいけなかったッ!!」
「誰かが手を汚さなければいけなかったんだッッッ―――!!」
「その誰かが偶々"オレ"だっただけのことなんだッッ!!」
進は言葉を荒げるようにそう云った。自分の感じていること、考えていることを全て訴えるようにそう云った。
理解されなくてもいい。支持されなくてもいい。それでも伝えたかった。嘘は付きたくないから。
「素晴らしいです―――」
徳川が笑顔で拍手をしている。
真も満面の笑みを浮かべ、満足気だ。
「進ちゃん―――」
「勘違いしないで。」
「私は別に貴方がやってきたことを責めるつもりはないわ―――」
「ただ、この最終戦の趣旨―――、それは『理想と現実』。」
「つまり、理想に対して現実がどれだけ乖離しているか。」
「それを貴方達に理解してほしいのよ―――」
「語るだけの理想に意味なんてない―――」
「そうでしょ?真ちゃん。」
「フフ・・・その通りだ。」
「語るだけの理想に意味などない―――!!」
「この高校に進学したら―――」
「この企業に就職したら―――」
「この人と付き合うことになったら―――」
「100万円貯金をしたら―――」
「などと達成してもいない未来を皮算用してる愚か者共よ!!」
「そんなものは達成してから"言え"ッッ!!」
「そんな理想だけを口にする者など愚の愚―――!!」
「目標に向かって、何をしなければいけないか、どうやったら出来るか、何が必要か。」
「それを考えることの出来ない、イメージできない人間が理想を語ってはいけないのだッ!!」
真は持論を展開する。
そして、進の現実に対する映像がさらに切り替わる。
そのシーンに進達はさらに衝撃を受けることとなった。