第442話 【最終決戦】英雄 天童 進 & 天聖 スターリン-キル VS 勇者 天童 真 & 危機管理の仕事人 徳川 将司⑤
~匣内部 第伍階層 現想~
キルさん―――!!やりましたね!!
キルの背後に聖女アルマの精神体が現れる。
聖光気を身に着け、パワーアップを果たしたキル。
徳川相手に聖光気を纏った魔法を撃ち当てる。
徳川にとって不意の一撃だった為、確実に捉えていた。
しかし、キルの胸の内の疑念は晴れていない。
徳川はまだピンピンしているの―――
聖女アルマに心の中でそう云った。
えっ―――!?
アルマは驚いた。
てっきり今の攻撃で徳川に大きなダメージを与えたと思っていたのに、キルからは全く効いていないと聞かされたからだ。
「安易に追撃を行わない判断―――」
「素晴らしいですねェ―――」
魔法の衝撃によって生まれた砂煙の中、立っている徳川の影が視えた。
「何かを成すということにおいて、最も大切なことは"危機感"を持つこと―――」
「常に"危機感"を忘れてはいけません。」
「弱者であればある程、この"危機感"というものが薄い。」
「もしかしたら、誰かがやってくれるだろう、こうだったらいいのに―――等という淡い期待など持たない。」
「常に自分の予想に反した緊急事態をどれだけ事前に想定できるか―――」
「それが生物にとっての強さの指標となるのです。」
「その"危機感"に比べたらただ腕力が強いや魔力値が高い、技術力が高いなどというのは二の次、三の次。」
キルの予想通り、徳川はピンピンしている。
薄ら笑いまで浮かべている始末だ。
「貴方はそうだっていいたいの?」
キルは飛び出した。その手には収納のスキルより取り出した、ミスリル製のハンマーを手にして。
両手で力強く握りしめたハンマーを徳川の顔面目掛けてブチ当てる。
「《物理完全無効》―――」
「私の低位の物理攻撃など意味ありません―――」
キルのハンマーは徳川の顔面にヒットしたが、ニヤッと不敵な笑みを浮かべ、キルと眼が合う。
「ミスリル製の武具は魔力を宿すの―――」
「魔力を込めたら、どうなの。」
「ハアアァァーーーッ!!!」
キルの発声と共にキルの手から白魔法の魔力が込められていく。
ハンマーの芯から金属の装飾が光り、金属部分へ流れる。
魔力を宿したハンマーは徳川にも流れようとする。
「単純な物理では無駄だと悟り、魔力を込めてきましたか―――」
「ですが、無駄です。」
「私には《衝撃完全吸収》、《魔力完全吸収》の二つのスキルも持っております。」
「低位~高位の魔力や衝撃は完全に吸収することができます。」
あらかじめ、徳川は真のユニークスキル《ダウンロード&インストール》のスキルによって、強力なスキルを付与してもらっていた。
「ッ―――!?」
キルさん―――!!
すぐさま、キルは無駄だと悟り手に持っていたハンマーを放し、大きくバックステップで後退した。
「フフフ・・・」
「どれだけ、手練れの戦士と言えども、私のような平凡なサラリーマンに手も足も出ない。」
「これからはそういう時代が来るのですよ―――」
謙遜なのか、どうか分からないが、徳川は自分のことを平凡なサラリーマンだと言った。
徳川、本人が本当にそう思っているのか、それともこの場だけの皮肉なのかは本人にしか知り得ない。
「でも、それは所詮、人の力で得た力なの―――」
キルは一言そう云い放った。
極上の気分を満喫している徳川を前に。
「・・・・。」
徳川ゆっくりと視線をキルの目に合わせる。
「本当の強さってのは、戦場でしか得られないの―――」
「"危機感"が大事だと、貴方もさっきそう言ったの。」
「何の努力もせずに得られた力で、本当に危機感が得られるとは思えないの―――」
「ククク・・・」
「ハハハハハーーー!!!」
キルの反論に対して、徳川は大粒の涙を流しながら、腹を抱えて笑い出した。
「ええ。全くもってその通りでございます―――」
「私も全く同じことを思います。」
「元々、我々の計画で全ての人類に力を与えると言っていますが、それは全く無力な者に対してある程度有能にするというもの。」
「つまり0だった者を1にするということです。」
「しかし、それは心様の言う通り、真なる強者を生み出す為のものではございません。」
「あくまで応急処置、きっかけにしか過ぎません。」
「世の中にはあまりにも0の持たざる者が多いということです。」
「元々1だった者を100に引き上げるということではございません。」
「我々のような1以上の存在にとって、社長の《ダウンロード&インストール》で得られるスキルは単なるショートカット、お刺身のツマのような飾りにしか過ぎないのですよ。」
「偉く自信を持っているの―――」
「"危機感"が聞いて呆れるの―――」
「ええ―――」
「ですから、心様は絶対に《物理完全無効》なんかのスキル程度は乗り越えてくると考えております。」
「そして、私に真なる危機感を与えてくれると―――」
「確信しております。」
キルさん―――!!
心配そうな声でキルの名前を呼ぶアルマ。
ただ淡々と徳川の語りを聞くキル。
でも自然とキルには余裕があった。
アルマと融合したことで自然と自信に満ち溢れていた。
自分でもこんな感覚は初めてのことだった。
「こんなにも心地いいとは思わなかったの―――」
誰かと身体を共有する。
聖女アルマの何者をも包み込む、その良心が自分の身体に流れ込んでくる。
元より、影なる漆黒の感情しか持っていなかった自分の身体。それらに混ざり合う。
光と影が中和する感覚。
「ほう―――」
徳川が一声、感嘆を発する。
キルの身体から影の魔力と白の魔力が噴出する。
「優しい光は新たな影の力を引き出す礎となれ―――ッ!!」
「極大影魔法:白影融合!!」
キルの詠唱と共にキルの新たな戦闘スタイルがここに爆誕した。
白と黒のカラーが混じった装束に瞳の色が左右それぞれ白と黒に分かれる。
バチバチと戦闘の素人でも分かるくらいに強大な白魔法と影魔法のオーラを身に纏う。
「心様―――」
「それが切り札と言うことですか―――」
嬉しそうな笑みを浮かべる徳川。
本来なら戦闘中に嬉しさを露にすることなどないが、天童家の者と戦闘できる嬉しさがリミッターを外れてしまっている。
「それじゃあ、いくの―――」
そう云った瞬間、キルが動く。
徳川の視界からキルの姿が消えた・・・・かと思ったら、瞬間すぐ目の前に現れた。
融合したキルの最初の攻撃はグーパンチだった。
何の魔力も帯びないグーパンチ。
それが徳川の頬を打ち抜く。
「ただの拳・・・!?」
されど、その威力や、徳川の胴体を無造作に理不尽に何回転もさせ、宙を舞った。
平面で出来た白い壁に徳川の身体は打ち付けられた。
「グハアァァーー!!」
耐衝撃吸収、高位物理吸収スーツも意味を成さない。
《物理完全無効》、《衝撃完全吸収》も意味を成さない。
この瞬間、キルはスキルという概念を超えた。
徳川の言うところの1以上の存在。
キルはそれに成った。
自分でもそう実感していた。
「ふう・・・まだまだ慣れないの―――」
「あっさり倒しちゃったらゴメンなの―――」