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第431話 【第肆回戦】不正天使 朝霧 鏡花 VS エンタメの仕事人 円能寺 律哉⑪


 コレは過去の話。

 

 まぁ、15~17年くらい前の話になるのかな。

 

 そんなに昔の話じゃないから、安心してくれ。

 

 そのころ世界はテロだとか、核兵器がどうとかで国際問題にもなったりしていた。

 

 そんな時期のことさ。

 

 ~ロシア極東 ハバロフスク~

 

 「そのガキ、まだ眠ってるのか―――?」

 

 薄暗いスーツに派手なネクタイを付けた、目つきの悪い男が護送車の中、もう一人の連れの男に向かってそう云った。

 

 大の男が何人も乗れるような大型の車で二人の男が向かい合う形で任務に取り掛かっている。その二人の男の傍でまぶたを閉じ、静かに眠る白髪の少年。その身体には毛布が掛けられている。

 

 護送車の中には二人の他、その少年と運転手が別で一人いる。

 

 「仕方ないっすよ―――」

 「長旅で疲れてるんすよ―――」

 

 もう一人の男がそう云った。

 

 「ったく・・・呑気なもんだぜ―――」

 「国光さんが現地で待ってるんだろ?」

 「こんな所見られたら、俺達はどんなお叱りを受けるか分かんねェーぜ。」

 

 目つきの悪い方の男の名前は、『荒木 大樹』。天童グループの前身である株式会社 天童所属の男性職員。

 

 「国光さんなら分かってくれるっすよ―――」

 「あの人が欲しいのは"特別な力"を持った人材―――」

 「結果さえ出せば、多少の粗相は見逃してくれるっすよ♪」

 

 そして、もう一人の明るい色のスーツを着た方の名前は『円能寺 律哉』。同じく株式会社 天童所属の男性職員。

 

 「お前なぁ・・・」

 「何でまた―――ガキの世話すんのにガキ寄こすんだよ・・・うちの会社は・・・」

 

 荒木は頭を抱え、大きなため息を吐いた。

 

 円能寺という男、見た目も小柄でどう見ても未成年。

 

 二回りは年上の荒木はそんな円能寺を見て、明らかに経験値の足りなそうな若者と仕事をすることになったと思いガッカリしていた。

 

 「そうやって、歳だけ喰ってりゃいいってもんじゃないっすよ―――」

 「人間、結果が出せる奴が重要なんすよ―――」

 

 円能寺はガッカリしている荒木に対してそう云った。内心子どもに見られてガッカリされたことに腹が立ったのだろう。

 

 そんなやり取りをしていると、うるさかったのか、二人が監視をしていた子どもの目が覚めた。

 

 「・・・・っ!」

 「おじさん達・・・・誰?」

 

 

 眠たそうな眼で二人を視る白髪の少年。

 

 その眼は一切の動揺を見せない。

 

 「俺の名前は円能寺―――円能寺 律哉っす。」

 「こっちの怖そうなオッサンが荒木さんっす―――」

 

 円能寺は明るく自己紹介をした。

 

 「オッサンってあのな~~!俺はまだ31だ!!」

 「オッサンって歳じゃねェーよ!!」

 

 荒木は呆れた声でそう云ったが、円能寺の懐疑的な視線が刺さる。

 

 「ウッソだ~~!」

 「だって、荒木さんめちゃくちゃ髭面だし、サングラスもしてるし、ぱっと見は完全にヤクザっすよ~~」

 

 「誰がヤクザじゃ、誰が!」

 

 「ねぇ・・・何でボク、ここにいるの・・・?」

 

 少年は二人に説明を求める。

 

 どうやら少年は記憶がおぼろげでここに来るまでの記憶がないらしい。

 

 二人はその少年が何者かということを知っていたが、それをどう説明するか、事前に取り決めていた。

 

 二人は顔を見合わせて、円能寺が説明を始めた。

 

 「君は選ばれたンすよ―――」

 

 「選ばれた・・・?」

 

 「俺達がいるここは、ロシアの極東 ハバロフスクっす。」

 「今、世界ではテロや戦争が頻繁に起こっているっす。」

 「君にはその戦争で役に立ってもらおうと思って、こうして日本から連れてこられたって訳っす。」

 「ここまでは分かったっすか―――?」

 

 明るい口調で説明をしているが、円能寺の言っていることはめちゃくちゃだ。

 

 たった一人の少年にいきなり選ばれただとか戦争で役立ってもらうだとか、そんな荒唐無稽な話すんなり受け入れられるはずはない。

 

 しかし、白髪の少年はすんなり首を縦に振った。

 

 

 荒木はそんな二人を目の前で見て不気味に感じたという。

 

 コレが実験的に作られた子ども。この少年は頭で理解して首を縦に振った。

 

 このガキは円能寺が言ったことが自分にはできると確信しているんだ。

 

 この少年はいわば商品なのだ。

 

 ロシア軍に対する軍事兵器の一種として今回、彼らに貸し出した。

 

 この少年がロシアに益を生み出す。そう触れ込み、莫大な金と引き換えに渡した。そして、俺達はコイツのお目付け役というわけだ。

 

 "天才"を人為的に生み出す実験。

 

 そして、いずれは世界に存在する全ての人間を、人間を超えた存在へ進化させる。

 

 それが社長である天童 真の目的。

 

 今はまだ賛同する人間の数も少なく、規模も小さいがそれはいずれ世界を掌握するという確信が荒木にはあった。

 

 そして、それは近い将来、現実のものとなった。

 

 

 「二人ともお疲れ様です―――」

 

 護送車を降りた三人を出迎えたのは、『国光 智明』という男。彼も株式会社 天童所属の男であり、後の第三事業本部の事業部長となる男である。

 

 「いや~~疲れましたよ。」

 荒木はそう云った。

 

 円能寺もそっと大型の車から降り、荷物を取り出している途中だった。

 

 「円能寺君は少し残ってください―――」

 

 国光に呼び止められた円能寺を残し、二人は用意された軍事施設に泊まった。

 

 「オメェ・・・名前ないんだろ?」

 「呼ぶのに苦労するから俺が付けてやるよ。」

 

 「―――、そうだな。」

 「誰でもない・・・でノーワン(No One)なんてどうだ?」

 

 荒木は少年に対して適当に名前を付けた。

 

 少年は首を縦に振り、了承した。

 

 こうして、三人はそれから共同生活を送ることになる。

 

 少年に与えられた仕事は簡単に言えば、軍事アドバイザーだった。

 

 ロシア軍に対して、少ない情報から内部の敵、外部の敵、そういった敵の推測、事前に防止すること。

 

 そして、世界中で起きている戦争への軍事介入作戦の指揮を補助。

 

 少年には戦争の戦局、次に打つ最善の手が何かが視えていた。少年にもそれが何故かは分からないけれども超能力みたいに次に何をすれば少ない損失で大きな利益が生み出せるのかが分かってしまう。

 

 それこそが天童 真が彼に施した実験の賜物。

 

 人を超えた人の力の片鱗に他ならない。

 

 ロシア軍の軍人たちに直接指示を出すのでは、子どもの言ったことだと信じてはもらえないので、あくまでもアドバイザーとしての立場を取っていた。

 

 戦局を正しく見ることの出来る少年、ノーワン。

 

 ノーワンの存在はロシア軍司令官 アシモフからも認められていった。

 

 基本的にノーワンの世話役は円能寺が行い、荒木はロシア軍人に戦闘術の訓練指導をする。

 

 円能寺は持ち前の明るさからノーワンの話し相手にもなっていた。

 

 「今日はこんなゲームを取り寄せてみたっすよ―――」

 

 円能寺の手には画面が二つ付いているゲーム機があった。

 

 それを楽しそうにノーワンに紹介する。

 

 元々ゲーム好きの円能寺。

 

 この滞在生活も1年以上続いていた。

 

 退屈をさせないようによく日本からゲームを取り寄せてはノーワンにも勧めていた。

 

 「円能寺―――」

 「次はボクのターンだろ?」

 

 「いやいや、ノーワンはターン終わったばっかじゃないっすか。」

 

 「―――やっぱ、円能寺はつよいな。」

 

 「今度、ボクの分もゲーム取り寄せてくれよ。」

 

 「おっ、ノーワンもこのゲーム気に入ったんすね―――」

 

 「う、うん―――」

 

 「分かったっす―――」

 「ノーワンの分も取り寄せておくっす―――」

 

 

 「・・・。」

 

 「円能寺―――」

 「ありがとう・・・」

 

 

 少し恥ずかしそうに言い淀みながら、視線をずらすノーワン。

 

 「俺もゲームを楽しんでくれる人が増えて嬉しいっす―――」

 

 

 「おっ、ノーワン、髪染めたんすね。」

 

 

 「あぁ・・・円能寺みたいな黒髪がいいなって思ってな。」

 

 

 「円能寺、どうした?最近疲れてるようだけど―――」

 「俺に出来ることがあるなら言ってくれ?」

 

 

 「大丈夫っすよ―――」

 「ちょっと休めば、元気になるっすよ―――」

 「それより、今度ドラクエの新作が出るらしいんっすよ。」

 「PS2で出るみたいなんで一緒にやりたいっす―――」

 

 「あぁ、それは楽しみだな―――」

 

 

 

 「―――っ、ノーワン。」

 「起きろ、ノーワン。」

 

 

 「荒木・・・?」

 

 

 

 

 「いいか、落ち着いて聞いてくれ―――」

 


 「円能寺が死んだ―――」

 

 

 「えっ・・・!?」

 

 

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