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第427話 【第肆回戦】不正天使 朝霧 鏡花 VS エンタメの仕事人 円能寺 律哉⑦


アーク内部 第肆階層 炎上する円状レッド・サークル

 

 アーク 第肆階層、燃え盛る業火の中、円能寺は落ちた。

 

 鏡花はその眼下に広がる轟々と鈍く赤く光る炎の渦を眺める。

 

 数秒後の先の未来を見通すことの出来る天眼を持つ鏡花。

 

 彼女には視えていた―――

 

 これは終わりなどではないことを。寧ろ、これは前奏曲プレリュードが終わり、後奏曲ポストリュードの始まりを意味しているのだと。

 

 「能力の低下は感じる・・・」

 「でも、まだそれほど気になるってカンジでもないわね―――」

 

 鏡花は両腕に着けられた炎上の腕輪をさすりながら、云った。

 

 体感的には大型トラック一台程度の重さが肩に乗っているくらいの感覚はある。

 

 しかし、天使である鏡花にとってそんなもの大した影響ではない。

 

 「熱い!熱い!熱い~~~ッ!!」

 業火に溺れる円能寺は声を上げる。

 

 炎上ポイント +10 +10 +10

 

 鏡花は試合が始まる前、この『熱い』という単語をNGワードに設定した。

 

 これで円能寺の炎上ポイントも30、超えて、さらに次の境界値50をも超えた。

 

 鏡花と同じように円能寺の両腕にも炎上の腕輪が装着される。それもいきなり二つもだ。

 

 「・・・・・。」

 しかし、鏡花に勝利の実感はない。

 

 油断など一ミリもすることなく、声を上げる円能寺から視線を外さない。

 

 「さぁ―――」

 「いい加減、その白々しい小芝居を止めてもらえるかしら?」

 「貴方がピンピンしていることは分かってるのよッ!!」

 「さっさと上がってきたらどうなの?」

 

 鏡花は下に向かって声を上げた。

 

 

 「・・・・・」

 円能寺はそれまでバタバタと手足を動かしていたことを止め、強張った顔の筋肉は一気に元に戻り、スッと平静を顔に出す。

 

 下は数千度を超える業火。

 

 そんな所に落ちたら常人だったら、丸焦げとなり息絶えるだろう。

 

 しかし、円能寺は選び抜かれたスカウト組であり、仕事人プロ

 

 そんな常識には囚われない。

 

 「業火って言っても結局はただのデータなんすよね~~!!」

 

 手元に写し出されたウィンドウに触れながら、その余裕の顔を見せた。

 

 円能寺の特技の一つ、『ハッキング』。

 

 あらゆる情報網に入り込み、自分の自由に処理を書き換えることが出来る。

 

 彼はこの女神が作りし、アークにすらも入り込み、情報データを書き換えた。

 

 「所詮この世は情報データで出来ている。」

 「どんなに勉強が出来る奴もスポーツが出来る奴も要はその情報データを操るのが上手いってだけなんすよね。」

 「アンタ達、女神様御一行も所詮はその情報データによってその強さが実現できているってこと―――」

 「結局アンタらも情報データに支配されてるんすよ~~」

 

 「あら?得意げによく喋るじゃない―――」

 「じゃあ、何?貴方はその情報データを完全に支配できているっていうの?」

 「そうじゃないでしょ―――」

 「貴方が出来ることは所詮、ただの上書きオーバーライド。」

 「創造することじゃない―――」

 「そんな貴方に私が負けるとでも?」

 

 

 鏡花は少し嘲笑うように言葉を漏らす。

 

 円能寺は燃え盛る業火の中から、飛び上がり何事も無かったかのようにフィールドへと舞い戻った。

 

 「そうは言ってないっす―――」

 「アンタの言う通り、俺に出来ることは所詮ただの上書きっす!」

 

 円能寺のこの『ハッキング』も今、天童グループの本社に残っている六谷から教わったもの。

 

 元々の本職ではない。

 

 あくまでただのスキルの一つでしかない。

 

 「貴方・・・」

 「その腕輪を二つも付けて何ともないわけ?」

 一つ付けるだけで、全身が押しつぶされそうな重圧が襲う腕輪を二つも付けているのに、それを全く感じさせない円能寺を前に不思議に思った。

 

 「・・・(二ヤリ)」

 

 「まさか・・・貴方・・・」

 「そのペナルティすらも書き換えたっていうの?」

 円能寺にとって、情報データを取り扱う以上、それは絶対に書き換えられるものだと認識している。

 

 彼は全ての物事において不可能だとは思っていない。

 

 それが彼を彼たら占める所以なのだ。

 

 「フフ・・・」

 「貴方、私以上に不正チートじゃなくて・・・?」

 鏡花の額から一筋の汗が流れる。

 

 「これから見せてやるっす―――」

 「本当の俺の力ってヤツを・・・」

 「遊戯領域ゲームテリトリー-もう一つアナザーフォーム!!」

 

 円能寺は、右手を上に向けて伸ばした。

 

 領域展開―――

 

 「現実リアルはただのゲームっす。」

 「どれだけ経験値を積めるか、どれだけスキルを習得できるか―――」

 「そして、どれだけ早く現実リアルがゲームと同じって気付けるかってことが、ソイツの人生の成功度を決めるっす。」

 

 円能寺は右手を前に構え、両足を前後に開く。

 

 さながら、武闘家の立ち合い。

 

 「行くっすよ―――」

 

 かつて、天童 真は円能寺という男をこう評した―――

 

  『円能寺ヤツ現実世界リアル仮想世界ゲームと認識している。そして、そう思っている者は総じて強い―――』

 

 と。

 

 消えた・・・?

 

 「ッ―――!?」

 

 今まで目の前にいた円能寺の姿がスッと消え、一瞬で鏡花の懐へ現れた。

 

 そして、鏡花の腹部へ強烈な掌底をヒットさせる。

 

 物理攻撃を完全に無効にしている鏡花へ何の魔力も宿っていないただの打撃を通す。

 

 本来なら何ともないハズなのに。

 

 何・・・?

 

 この力?

 

 鏡花は後方へと弾き飛ばされてしまう。

 

 「うーーん、やっぱりまだ君の《完全物理耐性》ってヤツは攻略出来てないなァーー」

 「女神様のチート能力へのチューニングはもう少し掛かりそう・・・?」

 

 頭を傾げて、悩む円能寺―――

 

 

 しかし、鏡花にとってそれは驚愕だった。

 

 目の前の男は自分の持つチート能力に対して大胆にそして真っ向から挑んできているという事実に。

 

 そんな者、初めての経験だった。

 

 自分のインチキ紛いの能力を前にしたとき、取る行動、それは諦めるか、逃げるか、もしくは理解せずに特攻をするか。

 

 その行動パターンがほとんどだった。

 

 しかし、目の前にいる男はどうだ?

 

 頭で理解してなお、それを真っ向から攻略しようと足掻いている―――

 

 そして、今痛みこそなかったものの、ハッキリと自分の視界から消える程のスピードで動き、ただの打撃で自分を吹き飛ばすほどの威力を発揮した。

 

 「何、この人間・・・・?」

 「面白い・・・。」

 

 と、鏡花はつい心に思ったことを口にしてしまった。

 

 円能寺はその言葉を聞き逃さない。

 

 グルンとこっちに顔を向け、にやけた口を見せこう云った。

 

 

 

 「でしょ―――?」

 

 

 

 現在炎上ポイント

 円能寺:55ポイント

 鏡花:31ポイント

 

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