第426話 【第肆回戦】不正天使 朝霧 鏡花 VS エンタメの仕事人 円能寺 律哉⑥
~匣内部 第肆階層 観戦室~
円能寺と鏡花、二人の闘いを観戦室にて見守る進達。
「あの二人は何故わざと炎上ポイントを上げているのだ―――?」
リオンが不思議そうに尋ねる。
ルールの説明を聞いた限り、炎上ポイントを上げる利点は全くない。それなのに円能寺は明らかにわざと炎上ポイントを増やしている節が見て取れる。
そして、円能寺がわざと炎上ポイントを上げている節を感じ取り、鏡花もその流れに乗じるように炎上ポイントを増やし始めた。
「円能寺は元々、世界的に有名なプロゲーマーだった。」
「そんなヤツが初めのアドミニストレータのルール説明を聞いた時、何か気付いたことがあったのだろう。」
「ヤツがわざと炎上ポイントを稼いでいるように見えているのも、その気付いた何かが関係しているとしか思えないな。」
「鏡花の方も円能寺に便乗して炎上ポイントを上げ始めたのは、恐らく円能寺の動きを見て、何かを察した・・・・」
「第弐回戦、管理戦争でもアドミニストレータが説明していないルールが存在した。」
「鏡花はその可能性があると踏んで、円能寺と同じように炎上ポイントを上げ始めた。」
「まぁ、状況を説明するとこんな所だろう―――」
「では、あの二人はその何か分からないルールがあるかもしれないで動いているということになるのか・・・?」
「あぁ―――」
「そういうことになるな。」
仕事人で積み重ねた経験値による勘だろう。
~匣内部 第肆階層 炎上する円状~
金網の下から炎の熱気が吹き上がる。
あの天使も俺がわざと炎上ポイントが稼いでいることに気付いたみたいだな。
オーラの強い人格に変わった円能寺。
彼は二つの性格を持つ。
一つは無気力で、穏やかな性格。
もう一つは嗜虐的で知略と野心に満ちた性格。
どちらも円能寺という性格の一部である。
鏡花はそんな円能寺の変化を見て、解離性同一性障害と判断したが、一つの身体に二つの精神が宿っているのは進や未央も同じである。しかし、円能寺の場合、進や未央とは違い円能寺は精神的なトラウマが原因で元々一つであった人格の裏にもう一つの人格が生まれてしまった。
どちらも円能寺の一部であるため、記憶は共有している。
なので彼の場合、多重人格というよりも実際の所は変身と言った方が正解なのかもしれない。
「フッ・・・」
「不正能力者って言っても大したことないんだな―――」
円能寺は煽るように鏡花に向けてそう云った。
「何ですって・・・!?」
と鏡花はイラついた表情で反応する。
「だって、そうだろ―――」
「結局、その力ってのは自分で血の滲むような修行したり、どうすればより効率よく強くなれるか考えたり、必死に努力して得た力ってわけじゃない。」
「誰かからポンと与えられて得た力だ。」
「そんなヤツが何を勘違いして、周りの人間より偉くなった気でいる?」
円能寺のその言葉で、円能寺の炎上ポイントが少し下がる。
円能寺の炎上ポイント:25ポイント
おっと―――
こういうセリフは逆に下がるんだな。
円能寺は内心そう呟く。
鏡花はその言葉を受け、再びため息をついた。
そして、言葉を続ける。
「貴方達、人間のそういう所、ホントうんざりですわ―――」
「それって、とどのつまり私に嫉妬しているってことなんでしょ!」
「自分以外の誰かの境遇が羨ましくて、そういうこと言っているだけなんでしょ!」
「努力や知略があっても勝てなきゃゴミ!!貴方達じゃないそう言ったのは―――」
「だからそんな戯言、私に勝ってから言ってくれないかしら!」
鏡花の炎上ポイントが増加する
鏡花の炎上ポイント:31ポイント
鏡花が先に最初のボーダー30を超えた。
『ここで、鏡花選手に最初のペナルティーで~っす!!』
女神アークのアナウンスが入る。
鏡花の両腕に炎のような文様の入った腕輪が装着される。
「これがペナルティ―ってことね・・・」
ペナルティーを受けたことで、鏡花の使用できるスキルが制限され、能力値が半減した。
とは言え、元々のスキル数が膨大である鏡花にとってまだそこまで痛くはない。
鏡花がそのリングを付けた瞬間、円能寺が動いた。
「先にペナルティ受けてくれて感謝ァーー!!」
「アンタの言う通り、ぶっ殺してやるよォ!!」
鏡花に向かって走り出す。
超幸運状態の円能寺はほぼ無敵状態。
「超幸運状態サイコーッ!!」
「ヒット確定!」
「クリティカル確定!」
「勝利確定ィィーー!!!」
いつの間にか長剣を手にした円能寺が鏡花へ斬り掛かる。
「貴方、馬鹿ァ!?」
「私がこの程度の能力制限で動きが弱まると思ったら大間違いよ―――」
「裏魔法:不正級炎の槍」
鏡花が手をかざした瞬間、幾重にも展開される魔法陣。
そして、そこから生み出される幾千もの炎の槍。
「な、何だァ!!」
「こりゃ!!」
「ふざけてんのか!!」
瞬間的にこれほどまでのエネルギーが作り出されるという現象を目の前に円能寺が吼える。
「アンタがどれだけ神がかり的な回避を見せようが関係ない―――」
「全て燃やし尽くせばいい―――」
「ほら―――」
「貴方ゲームが得意なんでしょ?」
「だったら、躱してみなさいよ!!」
「弾幕ゲーみたいにさ!!」
鏡花の合図とともに打ち出される幾千の炎の槍。
「チ、チクショーーッ!!」
円能寺は叫ぶ。
円能寺も必死に避けるが、一つ、そして、また一つと炎の槍は円能寺の身体に刺さる。
「い、威力も桁違いなんだな・・・」
「グオオオォォーー!!」
猛スピードで押し寄せる炎の槍で徐々にノックバック、後退させられる円能寺。
まさしく土俵際でともいうべき、金網の際で必死に耐えるが―――
数の暴力。絶えることのない炎の槍に、なす術無し。
下は絶え間なく燃え盛る業火。
そんな中に円能寺は落ちた―――
「所詮、人間なんてこんなもんでしょ―――」
「エンタメの仕事人?」
「貴方が落ちていく様面白くも何ともなかったわよ・・・」