第423話 【第肆回戦】不正天使 朝霧 鏡花 VS エンタメの仕事人 円能寺 律哉③
~匣内部 第肆階層 炎上する円状~
朝霧 鏡花は女神アークに作られた天使の内の一体。
女神によって異質な力と自我を与えられ世に誕生した。
鏡花の主な役割は女神アークのサポートや身の回りの世話、そして有事の際にその身体を女神のバックアップとして受け渡す為の器である。
そのスペックは女神によって与えられたこともあり、努力せずに伝説級の怪物達を遥かに超えた能力を備えることができた。
時間停止や完全物理無効、状態異常完全耐性、空間圧縮、全属性魔法使用可、聖剣生成、全武器達人化、身体能力超強化など・・・一つでも持っていたら英雄になれる程のいわゆるチート能力を数十、それに加え、並の冒険者が体得するのに数カ月から数年要する汎用アクティブ、パッシブスキルを計3000程、使用することが可能となっている。
そんなハイスペックを超えた究極スペックの彼女―――
まず、常人が彼女と戦闘を行えば一瞬で消し炭となる。
それどころか近代銃火器を手にした一個軍団ですら彼女の前では相手にならない。
例えば、かつて進が敗北した六魔将サンドルと相対したとしても、彼女なら一瞬で勝負を決める実力がある。
そんな彼女が円能寺という高々、人間の一体と戦闘をするとなったら、これはもう円能寺に勝ち目など端からありはしない。
だが、鏡花は手を抜かない。
まずは数秒後の未来を視ることの出来る《天眼》のスキルを発動した。
これは聖天使クラス以上の聖なる信仰を受けたクラスのみが使用できるスキル。
「ねぇ、その眼―――」
「俺が君に勝ったら頂戴よ―――」
円能寺は懲りずにそう云った。
彼は欲しいと思った物は絶対に手に入れようとする。
「いやよ―――」
鏡花は即答で断る。
円能寺の炎上ポイントが3上がる。
チラッと両者は自分たちのウィンドウを確認する。
これが不適切な発言ってわけね。
一回で炎上ポイントは3上がる?
いや、まだ分からない。
発言の程度によってポイントの増減は異なるかもしれない。
第弐回戦の管理戦争の時でもアドミニストレータが説明したルールの他に裏ルールのようなものがあった。そのあたりも警戒を怠らないようにしないといけない。
アドミニストレータの説明が全てではないと肝に銘じる。
鏡花はそう思った―――
しかし、円能寺という男―――今の発言を取り消さない。
「ねぇ?俺が勝ったら、その眼くれるよね?」
さらに禍々しさが増している。
彼が特に何かスキルを発動した様子はないのに、何かに取りつかれたかのように鬼気迫るモノを感じる。
「ッ―――!?」
この男―――
何かがおかしい―――
どこかが狂っている・・・鏡花はそう感じた。
さらに円能寺の炎上ポイントは3増加する。
「えぇ―――」
「いいわよ―――」
今度はあえて円能寺の提案に乗ってみた。
元より、負ける訳などないと思っていた。
自分は絶対神に作られた完璧な存在なのだと、鏡花は自身を評価していたからだ。
「やった!?」
「言ったね?もう取り消しはなしっすよ―――」
先ほどの鬼気迫る何かが少し減り、最初の軽いノリの雰囲気を取り戻していた。
こんなやり取りをしているが、戦闘は既に始まっている―――
《身体能力超強化》発動。
《スキル並列発動可能化》発動。
《スキル発動時間超短縮》発動。
《全武器装備可能化》発動。
《聖剣生成》発動。
《剣星》発動。
《四属性付与》発動。
《物理耐性無効化》発動。
《魔法耐性無効化》発動。
《絶対見切り》発動。
《永久自動追尾》発動。
鏡花は次々と自身のスキルを発動させていく。
この時、円能寺が『発動』という言葉をNGワードにしている可能性がある為、発声は行わない。
相手は天童グループの仕事人、勝つ為ならどんなことをしてくるか分からない。
スキルにより生成した聖剣をその手に剣へ能力を付与していく。
女の子の細腕には似合わない大剣を片手に持ち構える。
勿論、元々の身体能力も高い鏡花にはその剣の重さをほとんど感じることはない。
圧倒的な力で短期決戦へと持ち込もうとする。
鏡花の手にはバチバチと凄まじいエネルギーを放つ聖剣。
「わおっ!」
「凄いっすねーーー!!」
「こりゃ、俺少しヤバいかも(笑)。」
「何なの―――」
「この男の余裕は・・・!?」
決まれば、一撃で終わるような攻撃をこれから行おうとしているのに反撃の一つも見せない円能寺のその余裕。
その余裕を警戒して、鏡花は《天眼》のスキルで数秒後の未来を見通す。
「一撃で終わらせます―――」
スキルを解放した鏡花は閃光のような一撃を円能寺へと放った―――
ズバアアァーーッン!!
雷鳴が鳴り響くような轟音。
匣内部の部屋は全てスキルや物理衝撃によって傷が付かない構造になっている為、鏡花たちの立っている足場が崩れることはなかったが、もしそうでないなら今の一撃で簡単に裂けていただろう。
円能寺は声を上げる暇もなく、円能寺は倒れた。
「ふぅ・・・。」
鏡花は息を一つ吐き出す。
それはまるで一仕事終えたかのような―――
「これで私の勝利ですね―――」
鏡花はそう呟いた。
しかし、その瞬間―――
鏡花の炎上ポイントが10加算された。
「ッ―――!?」
どうして?
勝負は終わったはずでは?
鏡花は驚いた。
そして、すぐさま円能寺を斬り捨てた所に身体を向けた。
すると、そこには死んだはずの円能寺がフラッと立ち上がっていた。
「いやーー、危なかった、危なかった・・・。」
「この世界がゲームみたいで助かったっす。」
ボロボロの状態の円能寺。
「体力が全快の状態から一撃で死ぬような攻撃を受けた時、HPを1残す―――」
「《一筋の希望》のスキルが発動したっす。」
彼はそう云った。
ギリギリの状態の円能寺―――
しかし、彼の表情は余裕そのものだった―――
これは女神様からチート能力を授かったチート能力者に、世界トップランカーのゲーマーが磨き上げられた経験と戦略、そして精神で挑戦するっていう。
そんなお話。