第422話 【第肆回戦】不正天使 朝霧 鏡花 VS エンタメの仕事人 円能寺 律哉②
~匣内部 第肆階層 炎上する円状~
次なるステージ。
匣内部 第肆階層 炎上する円状。
円状の金網の上が今回の二人が闘う舞台。
足元に広がるは絶えることのない業火。
自然と汗が出る程の熱気が下から吹き上げてくる。
「第壱階層とは違ってここはめちゃくちゃ暑いっすねー」
円能寺は足場である金網を踏んだりして、強度を確かめる。
「・・・・。」
「こりゃ、落ちたらヤバいだろうなーー」
鏡花と円能寺―――二人は、互いにこの燃え上がる戦場で向かい合う。
「それじゃあ―――」
「この第肆回戦『炎上する円状』のルールを説明しますね~~」
女神アークが今回の闘いのルールを説明し始める。
「炎上する円状・・・」
鏡花は小さく呟く。
女神アークの眷属である鏡花といえども、進側の参加者である以上、今回の闘いのルールについては知らない。
ただ、女神アークの考えることは共に過ごしてきた年月が長いため、なんとなく分かる。
あの人は遊び心で何でも実現できる。私たちが闘い合っている所を上から眺めて楽しみたいってことが一番だと思っている。
だから、この闘いのルールもそういった遊び心が入っているハズ。
「えっーーー、この第肆回戦基本的にはこれまでの試合と同じで、制限時間は一時間、どちらかが戦闘不能になるか、降参宣言をするまで闘ってもらいます。」
「今まで通り、スキル、魔法、武器の使用は自由。」
「この燃え盛る炎の上の金網が今回のバトルステージ。」
「今回は、その基本ルールに加え、一つルールが追加されます。」
「それが"炎上ポイント"。」
「炎上ポイント・・・?」
鏡花は何となく、その言葉で嫌な予感がした。
「昨今の世の中は、モラルのない行動や不適切な発言をすると、正義を振りかざした者達にそれはおかしいとまるで親の仇のように叩かれる―――」
「いわゆる"炎上"ってやつね。」
「この第肆回戦はその"炎上"がテーマ。」
「この第肆回戦中、お互いに不適切な発言をするとこの炎上ポイントが溜まります。」
「そして、先に100ポイント溜まった方が敗北となるから気を付けてね。」
「なるほど―――」
「お互いに発言に気を付けながら闘うってことっすねー。」
円能寺は不敵な笑みを浮かべ、女神アークの言葉を理解する。
彼の頭の中には既に闘いのイメージをデザインし始めていた。
「不適切な発言・・・?」
鏡花は女神アークの言葉が引っかかっていた。
「ただ―――」
「炎上ポイントがある一定の数値を超えた場合、その都度報いを受けてもらうから―――」
「へぇ・・・」
「ペナルティってやつっすか。」
円能寺が言葉を挟む。
「そう―――」
「その通り、炎上ポイントが30,50,80を超えた時にその人はペナルティ―――」
「何かしらの報いを受けてもらいます―――」
「それは面白そうっすね―――」
円能寺はワクワクしていた。
女神アークのペナルティという言葉にも怯える様子を一つ見せることなく。
退屈を紛らわす為のゲームみたいに考える。
「まぁ、徐々にポイントがたまっていくのもつまらないと思うから、今回はさらにボーナス的な意味でお互いにNGワードを決めてもらうわよ―――」
「お互いにこれから3つのNGワードを決めてもらいます。」
「そして、その言葉を云った相手プレイヤーはその瞬間に10ポイントの炎上ポイントが加算されます。」
「つまり、そのルールを上手く利用すれば、逆転ってこともできちゃうわけ―――」
「今から3分間時間を取るから、お互いによく考えて決めてね―――」
なるほど―――
あの人が考えそうなルールだ。
鏡花は口に手を当て、思考を働かせる。
鏡花の目の前にウィンドウ形式で、3分間のタイマーが表示される。
そして、タッチパネルのような形の入力フォーム。
そして、件のNGワードに対する注意書き。
・単語のみ設定可能
・NGワードは3つまで設定可能(設定しなくてもよい)
・設定文字は5文字以内
・設定は日本語のみ
・人名・地名などの固有名詞は設定禁止
・魔法名・スキル名は設定禁止
・「てにをは」などの単語以外の設定禁止
・現実世界、またはヌバモンドに概念として存在しないものは設定禁止
・自分が設定したNGワードと同様の言葉を相手が設定していなければ発声可能。
・試合中の1分以上、無言の時間が続いた場合、ペナルティで10ポイント上昇
「さて・・・」
「どうしようかしら―――」
鏡花は3分間という時間を使い、NGワードを考えた。
「―――・・・」
「まぁ、こんなところでしょうね―――」
鏡花も円能寺も入力を終えた。
「それじゃあ、二人とも入力し終えたみたいだから、始めるわよ―――」
「第肆回戦開始ィ―――!!」
女神アークの開始の合図が響いた。
こうしている間も両者の足元からは激しい熱気が吹き上げる。
「いやーー、こんな可愛い女の子と闘えるなんて、光栄だよ。」
「楽しい試合にしようね―――」
円能寺はニコニコしながら、鏡花に近づく。
手を前に出し、握手を求める。
既に開始の合図は出ている。
程よく短い整った髪型に、綺麗な黒いビジネススーツに目立たない紺色のネクタイを付けている。
軽いノリだが、愛想がよく仕事が出来そうな男―――
それが、円能寺の第一印象。
大半の者がそう感じるだろう。
鏡花は円能寺から差し出された手を前に視線を外さない。
「ほら―――」
「握手だよ。」
「せっかくこれから闘うんだからさ―――」
「お互い楽しい思い出にしたいじゃん?」
これから殺し合いをするのに仲よく握手ですって―――?
怪しすぎる。
鏡花は思考する。
あまりにも不自然で警戒しない訳がない。
鏡花はこの円能寺という男のことを多少知っている。
大聖堂での戦闘はブラックボックスより見ていた。
『遊戯領域』という自分の領域を展開するユニークスキルを持っている。
やはり彼も仕事人というだけあって、勝利の為なら何でもするようだ。
しかし、そのデータだけが全てではない。
鏡花はスキルを発動させる。
《天眼》発動。
鏡花の両眼が白く光る。
鏡花はその手を眺めるが、応じることはない。
「俺の握手には応じないっていうのかい?」
「全く、最近の若い子は礼儀がなっていないのかな―――」
「握手くらいしてくれても・・・」
「この後、貴方の握手に応じれば貴方は私へ不意打ちの攻撃してくる―――」
「逆に応じなければ、貴方は表向きは不満を述べるが、その裏で私の力量を測り、頭の中で戦略を練り直す―――」
「この場合は、貴方のその握手に応じない方が良手でしょう―――」
「ッ―――!?」
「へェ・・・君、いい眼を持ってるみたいだね―――」
「うん、いい―――」
「ねぇ、俺が君に勝ったらそれ頂戴―――」
円能寺は不敵な笑みを浮かべながら鏡花へそう云った。