第411話 【第参回戦】自由人 唯我 新 VS 統率の仕事人 鍜治原 望⑦
~これは新がヌバモンドへやってくる前の出来事~
「違う―――」
「そうではないッ!!」
「もっと集中するのじゃ!!」
道場に敷かれたマットの上、新は座禅を組み、気を溜める修行をしていた。
そんな新を怒鳴りつけるのは、師範代 合気の達人 春園 源治郎。
仙人のような風貌、彼は名家である春園の当主。以前、娘の春園 春奈のお見合い騒動の際、新の思いの強さ、気合を源治郎は偉く気に入り、彼に合気を学ばせることにした。
新としては、合気など習う気もなかったが、自分がここで修行しないと春奈をまたお見合いさせるぞという半ば脅しを源治郎から受けてしまい、仕方なくやっているという次第だ。
勿論、勝手にしろと言ってやりたかったが、春奈のことを自由にしてやりたいという思いもあり、ここに至った。
だが、合気の修練は思った以上に苦戦を強いられていた。
「分かってんだよッ!!ジジイ!!」
「黙ってろッ!!」
と、まぁ、不良少年が武術を習得しようとしているのだ。
こんな口論もしばしばである。
「ワシの見込み違いじゃったか―――」
「そんな口を聞くというなら、お前に春奈はやれんぞい―――」
「いや~~困ったのじゃ~春奈の相手は別の男を探すかの~~」
源治郎は片目を閉じ、試すような口ぶりで新に云った。
このジジイ・・・!!
俺が断れねェーからって春奈を引き合いに出しやがる・・・・!!
「あぁ!?」
「そりゃズリィだろーッ!!」
「第一、春奈は物じゃねェーんだッ!!」
「自由にしてやれよッ!!」
新は立ち上がり、源治郎を指差し反論する。
「フォッフォッフォッ!」
「どうなのじゃ?やるの?やらないの?」
「やるっつってんだろッ!!」
「こんな気の操作なんて俺にかかりゃ楽勝だっつんだよッ!!」
源治郎相手にイキリ立つ新。源治郎に怒鳴りつけるとぶつぶつ文句を言いながら、再び座禅の構えを取り、集中し始める。
「フォッフォッフォッ!」
源治郎はそんな新を見て、嬉しそうな表情を浮かべていた。
この少年はもっと強くなる。
源治郎はそう確信していた。
源治郎の予想通り、この後すぐに新は気の操作を完璧に行えるようになるのだった。
~匣内部 第参階層 匣の闘技場~
「おっと―――」
「これじゃ、オレっちが手を汚したみてェーじゃねーか!!」
「まぁこれは銃だから、セーフだろ?」
独り言のように鍜治原は云った。
「・・・・・・。」
新は左右の太ももにそれぞれ2発ずつ銃弾を受けた。
鍜治原はまだ煙が立っている銃口をまじまじと観察する。
「深淵の影―――」
「ご苦労だったなー!!」
鍜治原は手に持った銃を新に向け、そう云った。
その隣には2メートルは超える、黒い悪魔。『深淵の影』の姿がある。
この悪魔も鍜治原が召喚した魔物。
《万物使い》のスキルで使役している一体。
「この銃はな~~」
「さっき、コイツに拾いに行かせた―――」
地面に膝を付く新を座りなら見下ろす。
「なんだと―――?」
そんな鍜治原を見上げる新。
「テメェがオレっちの人形達に夢中になっている間にコイツに取りに行かせたのさ―――」
鍜治原は親指で後方を指差す。
そこには既に何もない。
だが、鍜治原は回収した。
その悪魔に天より降ってきた匣の中身を自身の匣の指輪を用いて。
「深淵の影はオレっちの影とリンクしている。」
「オレっちがわざわざ動かなくても、コイツに行かせれば匣の指輪は使えるのさ!!」
「随分と余裕な顔浮かべてられるよなァ!!」
「俺はテメェにこんなに近づいた―――!!」
「テメェにだってこの意味が分かんだろッ!!」
近接戦闘を得意とする新、一対一の喧嘩なら彼は敗けない。
「いや~~それにしてもすげぇーな!!銃」
「説明書には《必中の弾丸》って書いてある―――」
「こんな猛獣みてェに動き回るヤツにでも当たるんだな―――」
鍜治原は新の言葉など意に介していない素振りを見せる。
「聞いてんのかよォ!!」
「ア"ァ"!?」
新は怒号を上げる。
「・・・・・・。」
鍜治原の冷たい視線が新を突き刺す。
「テメェ―――何か勘違いしてるんじゃねェ―か?」
「部下を蹴散らしたらオレっちに勝てると思ったか?」
「近接戦闘ならオレっちに勝てると思ったか?」
「違ェーってんなら試してみるかッ!!」
新は勢いよく殴り掛かった。
全身から溢れ出る闘気をその拳に込める。
その両足の痛みなど気にすることもなく―――
アァ―――
やっぱり
馬鹿はいつまで経っても馬鹿だな・・・・
「《万物使い》!!」
鍜治原は右手をかざす―――
鍜治原と新の間に眩しい程の光が生まれる。
「ググゥ・・・・!?」
「どーなってやがんだ―――」
「か、身体が動かねェーッ!!」
新はその場で立ち尽くす。
自分の身体が自分の意志で動かせない。
自由が―――
奪われる。
「オレっちの《万物使い》は全てを支配できる―――」
「勿論、それはテメェとて例外じゃねェーんだよッ!!」
新は何も抵抗できず、身体を震わせる。
「動けッ!!動けよォーーッ!!!」
新は叫ぶ。身体を左右に揺らして、何とか鍜治原の支配下から抜け出そうと試みるが、変わらず動けない。
「クククッ・・・・!」
「無駄だよ無駄!!」
「さぁ―――」
「勝負も幕引きだァ―――」
「新ァァ~~~もう少し左だーー」
鍜治原の声に合わせて新の身体はジリジリと左に寄る。
「そうそう・・・その位置だ。」
ちょうど、鍜治原と同じ一直線上だ。
「よ~~し、よし―――」
「そのまま、その位置から動くなよ~~」
「オレっち、射撃はそんなに得意じゃねェーんだからよォ~~~」
鍜治原は銃口を無防備に立っている新に向ける。
「あっ、そうだ―――」
「深淵の影―――」
「テメェが撃つかァ~~??」
鍜治原は隣で立っている深淵の影に尋ねるが、深淵の影は両手をブンブン振って断る。
「しょーがねェーな!!」
「最後はオレっちが引き金を引いて終わりってか~~!!」
カチャリと音を立てて、照準を合わせる。
「じゃあな―――」
「新くんよ―――」
「クッソーーッ!!」
新の悔しそうな声が空しく響く。
バンッ!!
と大きな音を立てて、新の眉間目掛けて引き金を引いた。
その衝撃で新の身体は吹き飛び―――
その刹那、偶然にも空から匣が出現、倒れた新の上へ落ちてきた。
500kgを超える匣に押しつぶされてしまう。