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第403話 【第弐回戦】銀獅子姫 リオン VS 擬態の仕事人 百鬼 紗霧⑭


【第四ラウンド表】

アーク内部 第弐階層 戦場~

 

 昔から歌を歌うことは好きだった―――

 

 王城の中で、暇なときいつも空を見上げて、太陽の下―――

 

 頭の中で心地の良いリズムが生まれた。

 

 気づいたらレンガ造りの塀の上に登り、眼下に広がる城下町で生活をする国民に向けて、歌っていた。

 

 じいには危ないと止められていたっけ―――

 

 

 「リオン姫―――」

 「貴方の歌は兵士を強化することはできても貴方自身を強くすることはできないッ!!」

 「一対一の勝負を申し込んだ時点で貴方に勝ち目はないッ!!」

 

 百鬼は体操のアスリート選手のように―――

 

 いや、それ以上に縦横無尽な動きでリオンを翻弄する。

 

 「風の精よ―――」

 「全てを切り裂く刃となれッ!!」

 「翠魔法:疾風の刃シルフィソード!!」

 

 百鬼は風を自由自在に操り、身を任せる。

 

 魔法を詠唱し、無数の風の刃をリオンへ向ける―――

 

 「銀魔法:銀幕の盾!!」

 銀魔法は守護系統の魔法。風の刃程度なら簡単に防げる。

 

 「銀魔法―――」

 「守りに特化した魔法ですか―――」

 

 百鬼は脳内のデータベースから魔法の知識を引き出す。

 

 彼女の頭の中には現代魔法から古代魔法までの知識がインプットされている。

 

 「直接、肉体を傷つけるのはやはり難しいみたいですね―――」

 

 「擬態する気体アトモスフィア!!」

 

 吹き荒れる風の中、百鬼の右手が光る。

 

 風に任せ、細菌を散布する。

 

 「ッ―――!?」

 

 リオンの手や足が徐々に青くなっていく。

 

 「な、何だこれは―――!?」

 

 

 流石にリオンも動揺する。

 

 細菌による腐食化。

 

 リオンの肉体を朽ちさせる戦法。

 

 「ならば―――」

 「極大銀魔法:銀幕のオーラ シルバーベール!!」

 

 リオンは全身に銀の膜を纏う。

 

 物理防御、魔法防御性能だけでなく、自然治癒能力まで向上させる。

 

 第二ラウンド裏で使用した魔法と同様の魔法だ。

 

 「よし!これなら―――」

 

 リオンは全身の腐食化を防ぐ。

 

 そもそも純粋な銀は基本的に錆びない。

 

 リオンの銀魔法は百鬼の擬態する気体アトモスフィアにとっていわば天敵なのだ。

 

 だが、そんなこと百鬼も百も承知だ―――

 

 「リオン姫、貴方のその魔法を待っていました!」

 「極大魔法は発動までに隙ができる!!」

 「そこを叩くのは当然です!!」

 

 「ッ―――!?」

 

 リオンの喉元へ百鬼の仕込み刀が迫る―――

 

 「これで私の勝っ―――!?」

 

 

 百鬼は勝利を確信したその時、自分の足が何者かに掴まれていることに気付く。

 

 

 「なっ!?」

 

 

 リオンを守っていた兵士の一人が虫の息になりながら―――

 

 地面にうつ伏せになりながら―――

 

 百鬼の足首を掴んでいた。しっかりと、動かぬように。

 

 百鬼のバラまいた毒でその身が死へ近づいているにも関わらず、彼を動かすのは主君を守ろうとする意地だった。

 

 

 「クッ―――!?」

 「なんで―――!?」

 「私の擬態する気体アトモスフィアを浴び、何で動けるッ!?」

 

 

 「ありがとう―――」

 「其方の作ってくれたチャンスは無駄にはしない―――」

 

 

 「不意打ちや毒を許したのだ―――」

 「まさか卑怯だとは言わぬよな?」

 リオンは百鬼に問う。

 

 

 先ほど自分が言われたことを百鬼にもお返しする。

 

 

 「えぇ―――」

 「勿論ですよ―――」

 百鬼はたじろいだ様子で答える。

 

 

 刃が届かないなら、翠魔法で―――

 

 百鬼は勝利を急くあまり、判断を誤った。

 

 「魔法だったら私の方が疾いぞッ!!」

 

 「獣王剣技:獅子の波動ガオウ・ブレイク!!」

 

 リオンは自らの闘気を解放する。気高く力強い銀獅子の魂が刃に宿る。

 

 無防備な百鬼へ全力でブチ込む。

 

 「いっけええェェーーー!!!!」

 

 

 「ッッッッーーー!!!」

 

 

 天童グループ製特注スーツの防御性能を貫通するほどの一撃。

 

 

 百鬼は声を上げる間もなく、力なく宙を舞う。

 

 リオンの渾身の一撃により、彼女の意識はトンでいた。

 

 ◆◆◆

 

 百鬼は薄れゆく意識の中で、夢を見た。

 

 

 「明日香―――?」

 

 ふわふわと浮いたような感覚がある。

 

 そこに立っていたのは、死んだはずの親友である明日香だった。

 

 

 「紗霧―――」

 「久しぶりだね―――」

 

 もしかしたらこれは夢なのかもしれない―――

 

 紗霧はそう思った。

 

 それでも、明日香に会えたのは素直に嬉しい。

 

 「私―――」

 「明日香みたいになれなかった―――」

 

 あぁ―――

 

 ゴメンーーー

 

 私、泣きそうだ―――

 

 脳裏に浮かんだのは、明日香の最期。

 

 どうして、親友の悩みに気付いてやることができなかったんだという自責の念。

 

 あの時、手を掴んでも帰ることを止めていたら―――

 

 また未来は変わっていたのかな?

 

 

 「ふっ―――」

 「紗霧は馬鹿だなー」

 「紗霧は紗霧のままでいいんだよ―――」

 

 明日香は笑っていた。

 

 「明日香・・・・。」

 

 どうしよう言葉が出ない。

 

 

 「私、紗霧の歌―――」

 「また聞きたいな―――」

 

 

 明日香がそう云うと、視界が再びぼやけた。

 

 

 「~~~♪」

 

 

 紗霧の口は自然にリズムを刻んでいた―――

 

 いつもステージで歌っていた曲を口ずさんでいた―――

 

 

 そうだ―――

 

 私は今、リオン姫と闘っていたんだ―――

 

 

 「百鬼殿・・・・。」

 

 リオンは空を見上げる。

 

 百鬼の変化に気付いた。

 

 小さいがその口で歌を口ずさむ彼女を―――

 

 

 「私は絶対に勝つ―――!!」

 「勝つのは私だアアァーーー!!!」

 

 戦意を取り戻した百鬼がリオンへ向かって、突っ込む。

 

 

 「擬態する気体アトモスフィア-ラストソング!!」

 

 百鬼の歌により活性化した細菌達が、みるみる増殖し、リオンを襲う。

 

 

 「グッ・・・・!!」

 「ッッッッ―――!!!」

 

 銀魔法すら貫通するその力をリオンは防ぎ切れなかった。

 

 

 

 「ハァ・・・ハァ・・・・。」

 

 

 息も乱れ、仕事人プロとしての責務を果たす。

 

 

 第弐回戦 最後に戦場に立っていたのは、擬態の仕事人プロ 百鬼 紗霧だった。

 

 

 

 

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