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第296話 弟妹


~亜空間内 とある森の中~

 

 シュトリカム砦での激戦から1週間が経とうとしていた。

 

 自らの力不足を感じた進はリカントと共にこの亜空間内で実戦形式の特訓を行っていた。

 

 「その視界に入る全ての物を切り裂く威光―――プラウドオブウルフ!!」

 

 光り輝く餓狼が進に迫る。

 

 「ハアアアァ―ーーッ!!!」

 「身体強化のさらにその先―――超越強化ッ!!」

 肥大化していた全身の筋肉はどんどん収縮していく。筋肉が体内の内側に入り込むような感覚。

 

 全身の力が圧縮されていく。

 

 一切の音を立てることなく、静かに懐の天満雪月花に手を掛ける。

 「心は常に穏やかに保つ!!」

 「天童流抜刀術:上弦の月!!」

 弧を描くように腰を捻り、身体の中心を軸に独楽の様に高速で回転しながら、抜刀する。

 

 

   "斬るッーーー!!!"

 

 『斬り殺す』それだけに特化した剣術―――それこそが天童流剣術。

 

 故に目の前の障害物がなんであろうとも斬れないことはない。

 

 「ほう・・・私のプラウドオブウルフを切り裂くまでになったのか―――」

 

 特訓を開始して最強の細胞を自らの意思でコントロール出来るまでになっていた。進は修行を開始した当初とは比べ物にならない程強くなっていた。

 

 

 「この一週間で進・・・お前の戦闘能力は飛躍的な進化を果たしたッ!!」

 「その力があれば、お前の父親にも対抗することができるだろう!!」

 

 まるで、リカントは進の先生のように言ってくれた。温かさを感じていた。それは初めての経験だったかもしれない。とても心地のよい感覚。

 

 進にとって、武術とは、修練とは、戦闘とは、とても辛く苦しいものだった。幼い頃から意味も教えられることもなく父親に真剣を握らされ続け、行われ続けたきつく辛い剣術修行。そして、時折、垣間見える父親の残忍さ。それに耐える日々。

 

 何度トイレで吐き出したか分からない。何度あの公園に逃げたか分からない。敗けることが許されない環境。

 

 オレは強くなんかない。

 

 それでも強くあろうとした。

 

 父さんに認めてもらいたい。誉めてもらいたいその一心で頑張り続けてきた。

 

 だけど・・・父さんにとって、オレ達はただの実験動物モルモットだった。

 

 恨んでいないと言えばウソになるが、この一週間色々考えた結果、オレはこんな人間離れした力を受け入れることにした。それに呼応するように未央との闘いから使えなくなっていた治癒の白魔法は使えるようになり、色々なスキルが使えるようになってきた。

 

 自分が何者なのか知らなかった時は、自分が何者なのかさえ考える事はなかった。

 

 でも、もう自分が何者なのか知った。そして、それをある程度受け入れる・・・妥協することにした。

 

 自分を何の力も持たない普通の人間にしてくれってのは今更神に願ったって叶わない。

 

 だから、自分の中で折り合いを付けることにしたんだ。

 

 「ありがとう―――リカント!!」

 「お前って・・・本当はいい奴なんだな!!」

 

 「なっ・・・!そんな風に私の事を言うのは止めろ!!」

 「私は誰もが畏れる六魔将 リカントだ!!」

 「勘違いするなよッ!!今回、貴様の特訓をすることを申し出たのも全ては未央様の為だ!!」

 「決して、貴様のためなどではないッ!!」

 

 恥ずかしそうに赤面をするリカント。

 

 どうやら、この人狼褒め慣れていない様だ。

 

 コレが俗にいう"ツンデレ"ってヤツなのかもしれない。

 

 リカントはこの現時点で世界最強の男の称号を持っている。この上ない特訓相手だった。

 

 本当に感謝している。

 

 思えば、この世界に来た当初だったら、六魔将はみんな人間の命なんかゴミのようにしか思っていない"悪"だと考えていたが、リカントやエレナと会ってその考えは変わった。

 

 アイツらにだって、自分の中に信じている"何か"があるんだって分かった。

 

 今、協力してくれているのだって、その自分が信じているモノに従った結果なんだって・・・そう思う。サンドルが裏切ったあの時、リカントはまだしも、エレナはサンドルに付いて行くことだって出来たハズだ。

 そうしなかったのは、自分の中でサンドルのやり方が気に入らなかったのだろうと思う。

 

 それだけで、エレナは信用できる!と断言してもいい。

 

 「オイ・・・さっきからこっそり覗いてるヤツ!!」

 「出て来いよ―――ッ!!」

 

  ざわッ!!

 

 その辺を鬱蒼と生えている草木が少しだけ揺れた。

 

 「ちっ!!気付いてたのか―――!?」

 

 「べ、別にアナタの特訓の様子が気になったから見ていた訳じゃないの!!」

 「モロネェがアンタに弁当を持って行けってうるさいから来てやったのッ!!」

 

 茂みから出てきたのは、新とキルの二人。

 

 頭を掻きながら気まずそうにする新。

 

 そういえば、新もキルもオレの血の繋がった家族なんだよな・・・?

 

 その辺りの話はほとんどしていなかったし、今までの関係のままの方がいいかと思っていたが、いい機会だしその辺の事をこの二人に聞いてみるか?

 

 「なぁ―――オレ達って3人とも血の繋がった兄弟なんだよな・・・!」

 「その辺のことどう思ってんの?」

 オレは、新とキルの方見ながら、それとなく切り出した。

 

 「あぁ?おい、そりゃどういう意味だよぉ!?」

 

 「えっ?」

 「キルから聞いてないのか?」

 新は何のことか分かっていない様子だった。

 

 「何で私が好き好んでそんな話しなきゃならないの。」

 キルはそっぽを向く。

 

 「マジか・・・。」

 「でもお前、あの時その超聴覚で話の内容聞いてたんじゃないのかよ。」

 

 シュトリカム砦でオレと父さんが闘っていた時、すぐ近くでまた新も闘っていた。どうやら、話を聞くと新はあの時頭に血が昇っていたらしく、オレ達の話なんて聞いていなかったらしい。

 

 うん・・・まぁそんなことだろうとは思っていたが。

 せっかくなので、オレは新とキルに改めてオレ達が血の繋がった兄弟であることを伝えた。年齢からいうと、新の方が兄で、オレが弟、そんでもってキルが2つ程歳が離れた妹ということになる。

 

 オレ達は父親はおろか、母親からもそういった話を聞いたことがなかったらしい。

 

 母さんたちもオレ達の出生についてはハッキリ知らなかったのか?父さんなら記憶の改ざんなど容易に出来るハズだから、まだ何か秘密があってもおかしくはない。

 

 「へぇー、でこの子が俺達の妹ねぇ・・・」

 新が隣のキルの肩に手を当てる。

 

 「気やすく触るななのッ!!」

 

 まるで、怒り狂ったネコみたいに髪の毛を逆立て、威嚇している。怒っているのだろうが、相変わらず顔の表情は変わっていない。オレもしばらく、キル達の近くで生活をしていて、キルの微妙な感情の変化が分かるようになってきた。

 

 「まぁ、俺達が兄弟ってんなら仲良くしよーぜッ!!」

 「改めて俺の名前は唯我 新ってんだ!!」

 「天童と同じとこからやって来たんだ!!」

 新はキルの目の前で手を差し出す。どうやら握手を求めているみたいだ。

 

 「ふん!私はスターリン-キルなの!!」

 キルは差し出された手に握手を返すことなく、再びそっぽを向いてその場を離れようとする。

 

 名前を返すようになっただけ、この子も成長はしているようだ。

 

 そんなオレ達にひっそりとある脅威・・が近づいていた。

 

 

 ◆◆◆

 

 「今日も命があることに感謝―――」

 

 真の異世界召喚によって、現実世界から呼び出された男―――君島 悟流

 

 真より進達の抹殺の命令を受けたこの男はたった一週間で進が別の空間が、亜空間にいることを突き当てていた。

 

 2キロ先の崖から麓の森、進達が修行をしている所を眺めることが出来る。

 

 「まさか私が坊ちゃん達を手に掛けることになるなんて―――コレもまた天命ってやつですかね。」

 

 君島の目の前にあるのは、長距離狙撃が可能な対戦車ライフルTAC-50。12.7mm弾を使うボルトアクション式のスナイパーライフルで、大口径の銃口から放たれる銃弾は、固い戦車の装甲すら貫く。

 

 

 「あまり暗殺これは得意ではないんだけど―――」

 

 君島は俯せになり、グリップを握る。

 

 兄弟で会話をしている進の頭に照準を合わせる。

 

 まぁ、これでもプロなんで―――

 

 坊ちゃんとは何度も仕事を共にしたことがある。その類まれなる非凡な才で完成させた新薬は数えきれないほどだ。

 

 長年、知っている者、それもお世話になった者を手に掛ける。

 

 やりたい仕事かやりたくない仕事か言えば、やりたくない仕事に当てはまる。

 

 

 そんな時、君島の頭に浮かんだのは、自分の両親や恋人でもない。

 

 六谷 五人だ。

 

 あの男の顔が頭に浮かんだ。いつも気怠そうに仕事をする男だが、いざという時は『プロ』という言葉で自分を奮い立たせて、仕事を完遂するプロ中のプロ。

 

 「フッ、こんな時に思い浮かぶのがよりにもよって貴方とはな・・・。」

 

 君島は覚悟を決めていた。

 

 進達を殺す覚悟だ。

 

 君島はゆっくりと引き金を引く。

 

 社長である真の命令を完遂する。それがプロだから。

 

 

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