第295話 現実世界からの刺客
~聖王国王都 聖ミラルド城 とある一室~
元々は物置として使われているであろう一室。古びた家具が埃を被っている様から何年も人の出入りが無いことが伺える。
天童 真はちょうどいい部屋を見つけたと思い、勝手に入っていた。
特にカギなどは掛かっていなかった為、すんなりと入室することが出来た。真はこの誰もいない部屋である実験をしようと考えていた。
この実験が成功するか五分五分といった所。
その内容と言うのが、真の瞬間記憶能力と瞬間技術習得能力の二つの力を駆使し、再現する。
かつて、数回、自分の目の前で行使された御業―――
視えざる者だけが使える次元を渡る秘術。
つまり、ヌバモンドと元の地球を行き来する為の秘術だ。
全てを理解した訳ではないが、目の前で行われたその行為がどういう原理になっているか、ある程度の把握は出来た。
「よし、準備は出来た―――」
足元に複雑に記載をされた魔導式。幾重にも張り巡らされた魔法陣。等間隔に置かれた高位の魔石。そして、腕を切り裂いて垂らした自らの血液。
それら全てを真は一時間足らずで用意していた。準備自体は全て視えざる者がやっていたことを真似ている。原理もある程度は把握しているが、恐らくこのままでは決定的な何かが足りない。故に失敗する可能性も捨てきれない。
その足りない何かを視えざる者に会った時に聞き出さなければいけない。それさえ分かれば私は手に入れることが出来るのだ。
奴だけが自由に行使できる異次元へと自由に行き来する術が。
「視えざる者・・・貴様の最大のミスは私の目の前でその秘術を見せてしまったことだ。」
「超次元転移門!!」
真の足元に張り巡らされた魔方陣が次々に光り出す。
中心の光は特に眩しい。その光が徐々に集合して、光の門を作り出す。
エレベーターを使用しない転移。いわば強制的に人や物を転移をする方法。それこそが超次元転移門。次元同士のチャンネルを繋げて、転送を行う。しかし、その通信路は現状、アドミニストレータの整備されていない道を使うから、もしかしたらエラーが発生する可能性がある。
―――ッ!!!!
「さぁ―――来るがよい!!!」
「我がシモベよッッーーー!!!」
これは実験だ。
元の地球から特定の人物を召喚することが出来るかの。
そして、真は成功したのだ。
「フム・・・やはり、最初に呼ぶべきは貴様と考えていたぞ―――」
満足そうな表情を浮かべる真。
「―――!?」
白衣を着た大柄の男がそこには立っていた。
「社長―――!?」
「いや、確か、社長はヌバモンドへ行っておられるハズ・・・。」
大柄の男はいきなり先ほどまでとは違う場所に転移させられたことによって、頭の中が混乱していた。
「私は本物だ―――そして、ここはヌバモンド!!」
「私がお前をこの世界へ召喚したのだ―――天童グループ医療技術開発事業部所属 君島 悟流 君」
「へぇーここはヌバモンドですか。」
「ってことは、またあの異能力が使い放題って訳だ!!」
「社長―――またあの力を使える日が来るなんて・・・幸甚の至りですッ!!」
この世界へ召喚され、たった数分で既に慣れを見せ始める悟流。
真が彼の高い能力を評価しているが故に、一番初めにこの世界へと呼び寄せた。
この君島 悟流という男は、ヌバモンドへ来るのはこれが初めてではない。
以前、ヌバモンドで行われていたキル達のような幼い子どもに対して実施していた魔導式を用いた人為的に"天才"を生み出す実験にも携わっていた。
「君島君―――君にはやってもらいたいことがある―――」
「ほぉ・・・なんでしょう?」
「私は貴方に命を捧げています―――貴方が死ねと言うのならば、喜んで死にましょうッ!!」
君島 悟流こそ天童グループに在籍する社員の見本のような存在。その狂信的な真に対する忠誠心の塊のような男だ。
「息子たちの始末を頼みたい―――ッ!!」
「それはまた難儀な仕事ですね・・・!」
真は、進達の命を刈り取る為、天童グループの社員を刺客として送り込むことになる。




