第291話 オレは弱い
~亜空間内 孤児院~
早く行かなきゃ―――
夢でマリーが気になることを言っていた。オレの杞憂ならそれでいい。
でももし、夢が正夢だったら・・・
「マリー・・・どこだ。」
しゃがれた声で呟く。
身体は白魔法によって、回復したが、気力の方はまだ戻っていない。
その証拠に声はガラガラだ。
「気配察知―――」
ここは亜空間内のジャハンナムメンバーが管理する孤児院。
傷付いたオレがここで眠っていたという事は闘い自体は終わったということになる。
あれから父さんたちはどうした?父さんに敗れたオレは何故まだ生きてる?
あの父さんのことだ、敗者には容赦なくトドメを刺すだろう。オレがこうして生きているという事は、あの父さんを止めた人がいるということになる。
進は気配察知のスキルで、周りの人の位置を把握する。
この気配は―――
奥の部屋に未央とリカント、モレク、それに新とフラムさん、リオン。
何か話をしているな。
内容までは聞きとれない。
ちょうどいい。話をしなきゃ、あれからどうなったのか。
進は足を引きずるようにみんなのいる部屋に向かう。
◆◆◆
「未央様!!今後は戦場に行かれる際は私におっしゃってください!!」
怒っている様子のリカント。未央はシュトリカム砦に向かう際にリカントに黙ってやって来たのだ。
「あ~~ハイハイ!分かった分かった―――」
「リカントちゃんは心配し過ぎだって!!」
「何をおっしゃいますか!!?」
「もし未央様の御身に何かがあってからでは遅いのですよ!!」
勢い余って、リカントは勢いよく目の前のテーブルを叩いたことで、テーブルを真っ二つに割ってしまう。
「今度からは気を付けるからさ!」
「そんな怒んないでよーー!!」
「本当に分かったんですか!?」
「・・・・・・」
「まぁいいでしょう―――」
「次からはお願いしますよ!!」
深いため息をつき、リカントは椅子に腰かけた。
ギギィ―――
!?
皆は一斉に扉の方を振り向く。
扉が開いたと思ったら、そこに立っていたのは、進だった。
「みんな―――!!」
「!?」
「進ちゃんッ!!」
「ススム君!?」
「天童ォーーー!!」
「進・・・もう起きても大丈夫なのか!?」
一番扉から近いところに座っていたリオンがオレの元へとやって来た。恐らく、手酷くやられたオレを見て、心配をかけてしまったのだろう。
オレは治癒の白魔法が再び使えることが出来るようになったことと、マリーの所在について尋ねた。
「ススム君―――その事なんだが・・・」
「すまないッ!!!僕がいながら・・・!!」
深々と頭を下げ、フラムさんが謝罪をしてきた。そこからフラムさんから詳しい事情を聴いた。
シュトリカム砦の地下でやって来た神殿騎士の男にマリーがついて行った事を知った。
「そうか―――」
オレは意外にも冷静だった。夢が正夢になってしまった。
しかし、その時点である程度の覚悟はしていたからそこまで驚かなかったのだろう。
逆にある決意が固まった。
「みんなお願いだッ!!」
「オレに力を貸してくれッ!!!」
今度はオレが深々と頭を下げた。
オレ一人の力では、マリーを連れ戻すことは出来ない。
今回の事でオレはそれをハッキリと実感した。
父さんだけでも勝てないのにガリア以上の神殿騎士たちが何人もいる。そいつらと全て相手をしてマリーを連れ戻す。これはもうオレ一人でどうこうなるとは思えない。
「オレは弱いッ!!!」
「マリーがアイツらについて行ったのも、元はと言えばマリーの気持ちを考えていなかったオレの責任だ!!」
「だからこそ、マリーに会う為に協力してくれ!!」
「天童―――テメェ何今更言ってやがる―――」
新は呆れた様子を見せながら、言葉を続ける。
「マリーちゃんは俺にとっても仲間だ!!」
「理由も分からねぇままどっか行っちまうなんて認めるわきゃねぇーだろッ!!」
「ススム君、コレは僕の責任でもある―――ぜひ、協力させてくれ!!」
「マリーは私の親友だ!!私も自分に出来る事はやるぞ!!」
新、フラム、リオンは協力することを快諾してくれた。
「あっ、進ちゃん~~~!!私も勿論、協力するよ♪」
「未央様ッ!?」
リカントは声を上げる。
リカントからしてみたら、マリーはただの人間、未央が自ら動くほどの価値があるとは考えていない。
「リカントちゃん―――マリーちゃんは私にとっても大切な友達だよ!」
「友達が悩んでいたら、困っていたら、手を差し伸べるのは当然でしょ?」
「マリーちゃんが神殿騎士の人達に付いて行ったのは何か理由がある筈だよ!!」
「その理由を聞いてみたら、私なら何か力になれるかもしれない!!」
「だったら、私も協力しなきゃ!!」
「~~~~うう!!?」
「分かりました―――不肖ながら、このリカントにも力添えさせてください!!」
「未央、リカントありがとう―――」
未央とリカントも協力してくれるようだ。
最後にモレクだが・・・
オレはモレクの方に顔を向ける。
「フム・・・私としては、お前たちの心意気に対して協力してやりたいが、生憎この身体だ!!」
「その代わり、ジャハンナムに協力をさせよう!!」
「モレク―――すまない!!」
「その代わり、進よ―――」
「今度、お前のその持っている刀を見せてもらってもよいか―――」
「あぁ―――それくらいなら構わない。」
モレクはオレが手に持つ天満雪月花に対して興味を持っている様だ。
この世界において刀はどうやら珍しい物らしい。
ベリヤも刀は持っているが、それほどの強度はない。
故にそれ以上の力を持つ天満雪月花はある意味異質なのだろう。
どうやったら、そのレベルの武器になるのかそれについてモレクは興味を抱いている。
「みんなに言っておきたいことがある!!」
「おう!何だよ!」
オレは改まって、みんなの方へ顔を向ける。夢の中で感じたオレの気持ちをみんなに伝えることにした。
「オレはマリーを無理矢理連れ戻したい訳じゃない!!」
「オレは以前から、大きな闘いがある度にマリーには心配をかけてきた。何度も引き留められたが、その度オレはその言葉に抗って、闘いに臨んだ。」
「それはオレの中のものさしで測った"正義"というただのエゴだった!!」
「そんなちっぽけな正義の為にオレはマリーに何度も悲しい顔をさせてしまったことに気付いたんだ!!」
「だからマリーがそのことでオレの元を去りたいと思っているならそれは仕方が無いと考えている!」
「オレは再びマリーに会う!!!」
「会って言いたいことがあるんだ!!ただ言いたいことがあるんだ―――」
「それを言った後、マリーがやはりオレの元から離れたいと言うなら、オレはマリーの意思を尊重したい!!」
「「いいんじゃね?/いいんじゃない?」」
新と未央がほぼ同時に賛成してくれた。
「だって、マリーちゃんも一人の人間なんだもん!ムリヤリ連れて行くなんてことは私もしたくない!でももしマリーちゃんがやっぱりここが自分の居場所なんだ!って思ってくれるなら私は快く迎え入れたいと思ってる!!」
「あぁ―――俺も同じだ!!」
こうしてオレ達は再びマリーに会う為、神殿騎士のいる聖王国を目指すことにした。