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第275話 虚無は満たされることを望んでいる


~亜空間内 エレナの魔法屋 地下尋問部屋~

 

 アップルの尋問中、突如として現れた真っ白な髪の少年―――アドラメレク直属の部下であり、魔王軍最強の四角の一角『虚無』のヌル。

 

 未央と六魔将を除けば、魔王軍最強との呼び声も高い存在。状況を見れば、拘束され尋問を受けているアップルの救助。しかし、ココはヌル達からしたら敵地のど真ん中もいいところ。こんな所に来るなんてよっぽど自分の能力に自信があるか、底抜けのバカのどちらかである。

 

 「これまた厄介なのが、来たみたいね。」

 ベロニカはすぐに戦闘が行えるように自分の使っているアイテムホルダーを取り出す。ベロニカのアイテムホルダーには常に炎、水、風、地の基本属性から始まり、敵の特殊スキルに対抗できるようなアイテムがいくつか内蔵されている。

 

 勿論、敵の全てに対応できるわけではないが、ベロニカの長年の戦闘経験から導き出された最適解がそこには集約されている。

 

 

 「ヌル・・・!ここに入り込むって事がどういうことか分かっているのかしら?」

 

 

 「ベロニカ・・・君じゃダメだ!」

 白髪で何を考えているか分からないような不思議な雰囲気の少年ヌル。15歳くらいの少年のような見た目だが、この男は只者じゃない。その力は六魔将に限りなく近い。いやもしかしたらそれすらも超えているかもしれない。

 

 「はぁ?」

 この男が自分より強いことが少し信じられない所もある。かつてと言っても何十年も前だが、六魔将達がお互いの部下を競い合わせて、部下の力を示す為の演習があった。ベロニカもエレナの配下としてそこに参加した。そこで初めてこのヌルという男と対峙したことがある。

 

  結果は惨敗だった。

 

 多分あれは努力でどうこうなる問題ではない。力や魔力、技、スピードそのどれもがこの男には歯が立たなかった。

 

 根本的にこの男には勝てないのだと、悟ってしまった。

 

 「ヌル!アタシの事を助けに来たのか!?」

 アップルも驚いたような顔をしている。まさか、来るとは思っていないかったのだろう。

 

 「命令だからね・・・。」

 ただそう言うと、ヌルはアップルの拘束具を手刀でバッサリと引き裂いた。まるで羊皮紙みたいに簡単に引き裂いた。

 

 「見逃してくれないかな?」

 穏やかな声でヌルはベロニカ達にそう言った。

 

 「貴方はバカですか?」

 「敵陣真っただ中に入り込んで、簡単に人質を持って帰れると思っているの?」

 

 ベロニカもアップルの戦闘には苦戦したのだ。簡単にハイそうですかと渡すわけにはいかない。

 

 例え刺し違えてでもアップルを引き渡すつもりはない。

 

 「君じゃ虚無を満たせない。」

 「だけど・・・そうだな。」

 「命令は実行させてもらうよ!」

 

 ヌルは左手に魔力を込める。

 

 「無魔法:虚無の爪ヴォイドクロー!!」

 

 放たれるヌルの無魔法。

 

 全長1メートルを超える白い手が現れる。

 

 全てを無にする鉤爪。

 

 「えっ・・・!?何で・・・?」

 

 しかし、その攻撃対象はベロニカやルミナスではない。

 

 切り裂かれたのは、先ほどまで拘束されていたアップル。

 

 「アドラメレク様より、君を処分しろと命令が出てね。」

 「敵に捕まるような弱者は殺せって言われたんだ!!」

 

 「ウッソ・・・!?」

 

 アップルの背後からバッサリと。残るのは深い深い爪痕。

 

 その場に倒れるアップル。既に瞳は輝きを失い、その息は途絶えている。ヌルはベロニカがあれだけ手こずったアップルをあっさりと殺してしまったのだ。

 

 「情報を敵に渡すくらいなら処分するってことね・・・。」

 ベロニカはヌルを睨む。

 

 「気に入らないわね。」

 「ルミナス・・・!私の後ろに下がってなさい!!」

 

 ベロニカは怒りを感じていた。自分の配下をこうもあっさりと処分する命令を出したアドラメレクとそれを実行したヌルに対して。

 

 アップルは少なくとも戦士としてはフェアだった。簡単に切り捨てていい戦士ではなかったとベロニカは思っている。高々一回の失敗で切り捨てていいわけがないのだ。

 

 そんな怒りを胸に秘めながら、ベロニカはヌルとの距離を保つ。いつヌルの魔法が自分達にも降りかかってくるか分からない。

 

 「少し、勘違いをしているみたいだけど、虚無はベロニカ達と闘う気はないよ!」

 

 

 「何ッ!?」

 

 「言っただろう。君じゃ虚無を満たせないって!」

 「それにアドラメレク様から命令は受けてないしね!!」

 

 どうやらヤツの言葉を信じるなら闘う気はないらしいが、それを簡単に真に受ける程ベロニカは甘くない。戦闘の構えは解かない。

 

 

 「その様子じゃ信じてはくれていないみたいだね!」

 「まぁせっかく久しぶりに君の顔を見れたんだ!」

 「君に良いことを教えてあげるよ!!」

 

 「良いことだと?」

 ベロニカは訝し気な表情で返答する。

 

 「昨日ついに虚無とディアブロにある命令が下ってね・・・!」

 

 

  「西の大国『魔導国』と南の大国『ブロワ王国』をそれぞれで滅ぼしたよ!!」

 

 「何ですって!?」

 「いくら貴方達二人が強くても魔導国もブロワ王国も大国なのよ!それをたった一日で滅ぼした・・・!?」

 「信じられないわッ!!」

 

 「まぁ信じてもらわなくても信じなくちゃいけなくなるさ・・・!!」

 「それじゃ、虚無は命令も遂行したし、帰るよ!」

 「じゃあね!」

 

 そう言うとヌルは煙みたいにフッと消えてしまった。

 

 「い、行かせて良かったんですか?ベロニカ御姉様。」

 ルミナスが心配そうな表情でベロニカを見つめる。

 

 「二人で掛かっても多分勝てなかったわ。」

 「それに貴方が無事ならそれでいいの!!」

 ベロニカはルミナスに抱きついて、ルミナスの頭を優しく撫でる。その心には絶対にエレナと妹たちを守ると再度誓いを立てていた。

 

 「それよりヤツは気になることを言っていた。」

 「魔導国とブロワ王国を滅ぼしたって・・・。」

 

 そのことに対する真偽を確かめねばならない・・・。

 

 このまま奴らの思い通りに事を運ばせていたら恐らく、私達姉妹に危害が加わることになる。そうなってからでは遅い。

 

 だから対抗手段を考えるのだ。

 

 ベロニカは動き出した。

 

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