第274話 今日はこれから尋問をします
~亜空間内 エレナの魔法屋 地下尋問部屋~
進達がシュトリカム砦へ行っているのとほぼ同時刻、エレナの魔法屋の地下でアドラメレク直属の部下の一人であるアップルが身動きが取れないように拘束されていた。
「ウゥーーウッ!!」
顎には喋ることのできないように拘束具が付けられ、胴体は凝ったデザインの装飾が散りばめられた椅子に鎖でグルグル巻きにされた状態。
真っ暗な地下室の扉が開かれる。
「暴れられる程度には身体は治ってきたようね!!」
地下の扉を開けて入ってきたのは、ベロニカ。そしてそのベロニカの後ろをくっつくようにルミナスも入る。
魔族は皆、強弱の違いはあるが、再生能力を持っている。
上級魔族クラスともなると、半死半生の状態から1、2日程度で動ける位までには回復する。
あれだけの電撃で丸焦げにされたアップルもその魔族の再生によって、ある程度まで回復していた。
「あ、あの・・・ベロニカ御姉様・・・なんでアップルさんをここへ・・・?」
ここはエレナの魔法屋の地下。普段は魔具の開発や研究を行うために使っている。隣の部屋は様々な書物や合成素材が置いてたりするが、ここは主に捕らえた魔物を押し込めたりする用の部屋。
昨日、倒したアップルをとりあえず、ここへ捕縛しておいた。
ベロニカの目的はただ一つ、このアップルからアドラメレクがこれから何をしようとしているのかを聞き出すこと。
「事情聴取よ!事情聴取!!」
「何はともあれ、まず第一に優先すべきは情報!!」
同じ魔王軍にいてもアドラメレク達に関する情報はベロニカもほとんど持っていない。正直、昔からエレナを尊敬し、その後を着いて歩んできたベロニカは、男という存在があまり知らないし、好きでもない。
サンドルやアドラメレクといった暴力を至上とするような魔族とは馬が合わないのだ。普段ならあまり関わりたいとも思わないのだが、一番に考えているエレナを守る為ならそうも言ってられない。
「モゴモゴォ!!!」
アップルはベロニカを前にして激しく興奮している様子だ。しかし、拘束具が邪魔をして上手くしゃべれない。
「今から貴方には聴きたいことがあるの!!」
「少し大人しくしていてくれないかしら。」
「今から拘束具を取るけど、間違っても反抗はしようとしないこと!!」
流石にアップルでもガチガチに縛り付けられている現状で、上手くベロニカとルミナスの手を掻い潜ってこのよく分からない場所から抜け出せるとは思っていない。
そのことをベロニカだって分かってはいるが、万が一も考えられるので、アップルには拘束具を外す前に事前に調合しておいた粉末の薬を嗅がせる。
「ン"ンッーーーッ!!!」
薬を嗅がせられたアップルは全身の血管が太く浮かび上がったかと思うと、数秒の後にはまるでさっきまで暴れていたのがウソのように脱力していた。
ベロニカがアップルに嗅がせたのは、いわば鎮静剤のような物。
本来は暴れ狂う魔獣などを大人しくさせる為に使用するのだが、上級魔族のアップルもそれに負けず劣らず凶暴なので、今回使用することにした。
これで暫く、こちらに敵意を持っていたとしても全身に力が入ることはないはず。
アドラメレクがこれから何をしようとしているのか聴くことも少しは楽になるというモノ。
ベロニカはビリっとベロニカの口に装着していた拘束具を取ると、力の抜けた瞳のアップルはダラダラと唾液を垂らした。
この薬を使うとこうやって、大量の唾液が生じてしまう。コレがこの薬の効いている証拠だ。
「貴方にちょっと聴きたいことがあるんだけど!!」
「答えてくれるかしら!?」
「アドラメレクはこれから何をしようとしているのかな?」
ベロニカは笑顔でアップルに尋ねた。
「テメェ!!アタシの身体に何しやがった!?」
ベロニカを一直線で睨みつけるアップル。ベロニカに対する敵意はあっても身体に力が入らない。
ただ睨みつける事、喋ることしかできない。
ベロニカはそんなアップルの右手の掌を容赦なく短剣で突き刺す。
「ッーーー!!?」
「質問してるのはこっちの方なの!!」
「質問に対する答え以外答えないでくれる?」
長年、一緒にエレナの配下として従事してきたルミナスは知っている敵対する者に対するベロニカの容赦のなさを。普段はルミナスとナデシコに対してはこれ以上ない位優しいのだが、敵と判断した者にはこれ以上ないって位冷酷になる。
"あの状態のベロニカ御姉様は怒らせない方がいい・・・!!"
横でアップルの掌に短剣を突き刺すベロニカを見て心の中でそう呟いた。
「あ・・・あのアップルさん・・・。」
「ベロニカ御姉様を怒らせない方がいいですよ!!」
横からルミナスが口を出す。アップルの身を案じての事だった。
そんなルミナスの気遣いは寧ろアップルにとっては最高に忌み嫌う所であった。
「ルミナス・・・!アンタ・・・アタシを馬鹿にしたわね!!」
「えっ・・・!?いや私は別にそんなつもりじゃ・・・!?」
必死に両手を振って否定するルミナス。
「アタシはね!!アンタみたいにいつもコソコソ、ビクビクと誰かの後ろにへばり付かなきゃ生きていけないようなヤツに虫唾が走んのよ!!」
「ネェッ!!貴方!妹を脅かさないでよねッ!!」
ベロニカはアップルの顎をくいっと引き寄せ、右手でバシンッと強烈な平手打ちをお見舞いする。
「それより、さっきの質問に早く答えてくれないかしら!!」
ベロニカは今にも手に持った短剣でアップルの全身を切り刻みそうな勢い。
「アドラメレク様がこれから何をしようとされているかなどアタシは知らない!!?」
「まぁ・・・例え知っていたとしてもアンタらなんかに教えるわけないでしょッ!!!」
きっぱりとそう答えるアップル。今更彼女に拷問や暴力に対する恐怖などはない。
それよりも寧ろ、アドラメレクに見放され捨てられる方が怖いのだ。
「あら、そう・・・答える気はないのね・・・!!」
ベロニカはこの世界有数の優れた魔具師の一人。
拘束された相手の口を割らせるための道具などいくらでもある。
ベロニカがアップルの口を割らせる為、使用する魔具をどれにしようか考えているそんな時だった。
拘束されたアップルの背後より声が聴こえた。
それはこんなところにいるハズが無い男の声。
「虚無は求める・・・虚無を満たしてくれる者を!!」
「何で・・・貴方がココに・・・?」
ベロニカは突然の訪問者に驚いた。
何故、どうやってこの場にという事ももちろんだが、興味が無いと思っていた。
「ベロニカ御姉様・・・!?あの人は一体?」
ルミナスはこの突如現れた男の事は知らなかった。元々内気な性格であまり外の事を知ろうとしなかった。目の前の男が魔王軍に所属していることは分かるが、誰とまでは知らない。
「"虚無"のヌル・・・!」
「貴方も名前くらいは聞いたことあるでしょ!」
「アドラメレク直属の部下の一人にして、私と同じ最強の四角の一角。」
「そうね・・・この男について言えることはただ一つ恐ろしく強いって事だけ・・・!!」
ベロニカはゴクリと生唾を飲み込んだ。