第270話 【親子対決!?】天才 天童 進 VS 天災 天童 真③
~シュトリカム砦内~
これが一般的な家庭の親子喧嘩と言えるだろうか?
これが一般的な家庭の反抗期と言えるだろうか?
これが一般的な家庭の親の躾と言えるだろうか?
Non!!Non!!Non!!
この二人において一般的なんて言葉は存在しない。幼少期から真剣による斬り合いを修行として取り入れていた天童流剣術―――死ぬかもしれないという死の恐怖を常に感じることで恐怖を克服するトレーニングを行ってきた二人だ。
「天童流剣術:三日月!!」
進は野球の投手がアンダースローを投げるように天満雪月花を下から上へと振り上げる。
天童流剣術 三日月は天童流最速の技。
斬り上げた剣圧を相手にぶつけ、敵を切り裂く。その威力は相手の五体を容易に切断する程。
「天童流剣術:満月!!」
三日月が来ることを分かっていたかのように、真は天剣-童子切を地面に突き刺し、足で地を蹴り上げ、自らの身体を空中で一回転させる。
進の放った三日月の剣圧は真の満月の威力に殺され、相殺されてしまう。
天童流剣術 満月は己の剣を地面に突き刺し、ムーンサルトを行うことで攻撃と防御を同時に行うことの出来る技。本来は敵の懐に入り、己の身体と剣を空中で一回転させ、敵を縦に真っ二つ―――一刀両断するという恐ろしい技だ。
先ほどからお互いに繰り出される天童流剣術の数々―――敵を斬り殺すことに特化した一子相伝の古流剣術。多種多様、変幻自在の技の数々、どれか一つでも無防備の相手に放たれれば、それは敵の急所を抉り、早々に敵を無力化できるだろう。それが天童流剣術なのだ。
全時空を探しても天童流剣術を使える者は、天童家の男児以外に存在しない。
決して他の者には真似出来ない。
身体の柔らかい幼少期から全ての天童流剣術を使うことが出来るように酷い苦痛の伴う肉体の矯正をする。
その苦痛を何年も経てやっと身に付けることが出来るのだ。
「"最強の細胞"の活性化が手に取るように分かるぞッ!!」
「進よ・・・!感じるか!?解るか!?己の力が全ての生物の頂点へと至ろうとするその感覚がッ―――!!」
「アンタは何故、オレや新に多種多様な生物の細胞を植え付けた!?」
「そうまでして何者にも負けない生物が作りたかったと言うのかッ!!」
「何者にも負けない生物??」
「それは少し違うな!!」
進の問いに答える真。
真は天剣-童子切を上下左右に何度も振るっている。己の調子を確認している?そんな素振りを見せていた。
「私の作りたい者はあくまで人間を超えた人間だッ!!」
「進ッ!―――お前は検体No.2【天才】だ!」
突然、そう言い出した真。勿論、進には真の真意は分からないが、何となく今までの話の流れで察しは付く。察しは付くが・・・もし本当にそんなことをしていたのなら、この男は本当にどうしようもない人間だ。
「そして―――新!アイツは検体No.1【超人】!!」
「それがお前たち二人が生まれた時のコードネームだ!!」
「お前たち二人を作るのには本当に苦労した!!」
真はまるでこれから苦労話を語り出しますよと言わんばかりに深い深いため息を吐き出した。
「何て言ったって、人間以外の生物を何千種類も材料として確保して、その内の優良な遺伝子のみを抽出し、お前たちの肉体へ少しずつ植え付けていったんだもんな!」
「一歩間違えれば、それは人間ではない『化け物』へと変異することだって容易に考えられた!!」
「金だって掛かった!それは国家予算規模のな!いや、参った参った!!」
「人だって何人も死んだ!実験材料を手に入れる為、ヌバモンド以外の世界にも行ったりして、金で雇った兵士達を使って、現地の者を襲わせたりしたもんだからな!」
「現地の者達はそれはもう見苦しい抵抗を見せていたよ!!」
「せっかく私が言ってやったのにな!君たちの死は決して無駄にはならない!だから安心して逝けってな!!」
真と進の間に数秒間の沈黙が生まれる。満足げに話を終える真に対して、進は必死に理解しようとしていた。
今の父親の話の内容を。
信じたくはないが、信じざるを得ない。
「なっ!!分かっただろう??」
真は妙に落ち着いた顔でオレに語り掛ける。
なんだこの腹の底から煮えくり返るような気分は・・・!?
"悟ったような顔をしやがってッ!!!"
「アンタは・・・ただの大量殺人鬼だ・・・!!それも罪のない大勢の人達の。」
オレはプルプルと怒りで震えていた。
「違うな!!あれは人類が更なる進化をする為に必要な犠牲だ!!」
「現にそのおかげで進と新という二人の完璧な存在が生まれたッ!!」
「そう・・・!『天才』と『超人』であるお前たち二人が『新たなる進化』を人類にもたらすのだッ!!」
「勝手言ってんじゃねェーーーッッ!!!」
進吠える。
進は地面を強く踏みつけ、勢いよく真の方向へと飛び出す。
真は右手に握っている天剣-童子切を大きく右から左へと薙ぎ払う。
"振りが大きいッ!!?"
恐らくこれは撒き餌―――ワザと隙を見せて、オレの反撃を誘うつもりだ。
しかし、この男にオレが勝つにはその撒き餌に喰いつくしかない。
進は天満雪月花を地面に突き刺し、空へと飛翔した。
ふわっと―――それはまるで柔らかい羽毛のような、静かに舞う雪のような。
そうして真の薙ぎ払いを避けた進は浮き上がった最高点―――空中にいながら空中を蹴った。
地面に突き刺した天満雪月花を手に取り、今度は一変して地面にこれでもかという程、張り付く。
それはもう地面と身体がくっつくギリギリで。
その眼はまるで獲物を狙う蛇みたいな爬虫類の眼だ。
「脱力からの一刀―――緩急による対応不能の一撃!!」
「天童流剣術:暁月!!」
その一撃も天童流剣術の一種だった。
力を抜いたように宙を舞った後に最高速度で地を這い低い姿勢のまま斬り込む。それが天童流剣術 暁月。
進は瞬間的に真と接敵し、そのまま斬り抜いた。
間違いなく手ごたえはあった。
ボトボトと鈍い音が真の方から聴こえた。赤い液体と共に、真の左の親指と人差し指、中指が第一関節よりブラーんと垂れさがり、ブチンと音を立てて地面に落ちた。
"オレの技は父さん相手でも通用する!!!"
進は実感した。十年以上勝てなかった父親相手にも本気で殺す気で放った自分の技は通用することを。現実世界では真剣で斬り合っていたとはいえ無意識にセーブしている節があった。それが今は全くない。進は殺す気で真に斬り掛かっている。
"通用するんだ・・・!!オレの天童流剣術は!!"
真の自らの腹部を守る為、左手で防御をしていた。真はわずかに進の斬り込んだ方向をずらすことに成功していたのである。ただし、その代償として自らの指を3本犠牲にしていた。
だが、腹部を斬られ、一瞬の内に絶命させられることに比べたら安い物だ。
それに真にとっては指が数本切断させられたことなど痛くも痒くもなかった。
「白魔法:エクストラヒール!!」
真の足元に何重にも複雑に描かれた魔法陣―――進が良く知る魔法。
それは"治癒の白魔法"
瞬く間に今斬ったばかりの真の指は元通りに復活していた。
「ッーーーー!?」
コレは今まで自分が他の相手に行っていた戦法と一緒だ。
一気に絶望感が襲う。
『前衛と回復を一人で行う』
つまり前衛の戦士が自らのケガを治すヒーラーまで行うってことだ。
弱いわけがない。
今まで敵に行ってきて勝利を収めてきた戦法を今度は自分が喰らってしまう。
全く皮肉な話だ。
「そりゃオレに聖女の血が流れているなら、父さんにだって流れていてもおかしくはないよな・・・。」
治癒の白魔法は聖女の血が流れていなければ使用できない。
それがこの世界の理らしい。
「どうした?もうおしまいか?進ッーーー!!」
「クッーーー!」
そんな時だった。真の影が伸びた―――
「影魔法:這いよる影!!」
真の背後より突如として現れるスターリン-キル!!
両手に持った大鎌を大きく振り上げる。
「気付かないとでも思ったのか?122番!!」
父さんは気付いてる。
何かしらの察知スキルか?いや、あの人はそんなもの無くても敵の気配はすぐに感じ取れる。
何て言ったって、現実世界で常に命を狙われていたんだ。敵意を即察知する術は既に身に付けているハズ。
「フンッ!!」
振り返り、激突する刀と大鎌―――その一撃で真の命を奪えないと悟るとキルはクルクルと宙を回転し、オレの隣にやって来た。
コレは傍から見たら親子喧嘩―――真剣を振り回した命懸けの親子喧嘩。それは一般的とは決して言えないかもしれないが、子どもが親に対して反抗するという点においては親子喧嘩と言えなくもない。
だったらこの子にもその親子喧嘩に参加する権利はあるはず。
真のDNAの一部を持つ。正当な真の子どもであるスターリン-キルにだって参加する資格はある。
勿論、その立場は子ども側である進に付く。
かつて命懸けで闘い合い、進は殺そうとまでしたこの少女が進と共に闘ってくれる。
「私もオジさんには借りがあるの!!」
「全く―――化け物と一緒に闘うのは気が引けるけど、オジさんを殺る為なら仕方ないの!!」
一回、溜息を吐くと、キルは前を向いた。
これから始まる―――父親である"天災" 天童 真とその子どもである"天才" 天童 進と"天才" スターリン-キルによる真剣勝負が。




