第269話 【親子対決!?】天才 天童 進 VS 天災 天童 真②
時は15世紀後半―――日本は所謂、戦国時代を迎えていた。日本全国様々な実力者たちが群雄割拠をしていた時代。
毎日、人が人を斬り、斬られ、死んでいく。
実力がある者がのし上がる下克上の数々―――
そんな時代に生まれたある流派。
それこそが『天童流剣術』。
全てを斬り殺す剣術。
斬り殺すことにだけ特化したその剣術は人知れず戦国の時代に生まれた。
斬る対象は何も人だけでない。
刀、槍、甲冑、弓矢の武具から始まり、肉食獣、岩石、大木―――果ては"死"すらも斬ったとされている。
「なんだよ!?"死"って?"死"を斬るってどういう意味だよ!」
幼いオレは初めて天童家に保管されている歴史書を見てそう思ったのを今でもハッキリと覚えている。
この時、オレは知らなかったんだ。死を斬るってのが如何に恐ろしいことなのかを。
「―――父さん・・・なんだよ!?コレ!!?」
オレは余りに酷い血生臭さから手で鼻を覆っていた。
それは突然だった。いつもと同じように道場に来たら、自分の知らない男が"斬られていた"。
それも見るも無残な形で。
首から下が既に切断されており、胴体は床に転がっていた。
父さんは斬られた男の頭の血がべっとりと付いた髪の毛を左手で握り締めていた。
「進か?」
「ふむ・・・ここは少し散らかっているから、今日の稽古は庭でやろう。」
「少し外で待っていなさい。」
父さんは冷静だった。
人を一人斬り殺しているにも関わらず、冷静過ぎた。
「父さん・・・その手に持ってるのって・・・!?」
オレは恐る恐る聞いた。
オレはまだこの時、6歳の時でこの時から真剣を握らされていた。刀であぁやって人を斬るんだと初めて実感した。それまでも父親と刃を交えてきたが、それはあくまでも"修行"であり、"実践"ではない。
アレが人の死だと・・・初めて実感したんだ。
でも、さらに恐ろしいことに死んでなかったんだ。
その時の事はハッキリと目に焼き付いている。首を斬られたハズの男がまだ呻き声を上げ、苦しそうにしているではないか。
「あぁ・・・これか?」
「今、愚かにも私の命を狙おうとした愚か者だ!」
父さんはまるで物みたいに手に持った首を床に叩きつけた。
べちゃりと生々しい音と共に血肉が飛び散り、オレの足元まで首が転がってきた。
「ウ"ゥ・・・ゴロジテクレェ・・・。」
"なんで首だけの人間が喋れるんだ!?"
オレは吐き気の余り、思わずトイレで吐き出していた。
戻ってくるともうそこには何もなく。残っているのは、血の付いた畳と襖だけだった。男の頭部も胴体も消えていたんだ。
父さんも何事もなかったかのように稽古を始めようとしてた。この時のことを聞いても何も答えてはくれないだろう。答えることに父さんは意味を感じないからだ。
だが、オレはあの時ハッキリと視た。
父さんに斬られ、絶命しながらも確かにあの男は生きていた。
アレこそが天童流の"死"を斬るという事だ。
昆虫などは胴体を斬っても暫く生きていることがある。同じように人間もごく短い時間は頭を斬られても意識があるケースが存在する。
天童流剣術を極めた結果、父さんの斬撃は斬られた人間に斬られたことを意識させないことだって出来るのだ。
そんなこともあったがそれは夢だったのかと思うようにオレの日常は戻っていた。
えっ?警察に言ったらどうかって?そんなことしても無駄さ。
相手は父さんの命を狙ってきたんだ。正当防衛にされるだけ。
それになにより、父さんの力は大きすぎる。その力は警察という司法の遥か上。
だから、見て見ぬふりをするしかないんだ。
天災から身を守るにはただ過ぎ去るのを待つのみ。
それが天災 天童 真に対する対処の最適解。
―――と昔のオレなら考えていただろう。
だが、今日オレはこの男を"斬る"。
この男はオレが想像していたよりも遥かに許せないことをやっていた。
~シュトリカム砦内~
「彼の名刀 童子切安綱は、試し切りで積み上げられた6体の遺体を一刀両断し、さらにその遺体を乗せていた台座まで切り裂いたとされている。」
「その童子切安綱をモデルに私が作成した刀剣 天剣-童子切」
あの刀剣は父さんの愛刀―――見た目はあの有名な国宝である童子切安綱に似ている。刃長約80cm、中反りが大きく、逆丁子の刃紋が刻まれている。
勿論その切れ味はモデルの元となった童子切安綱にも劣らない。
「天童家は武家の家系―――天童家に生まれた男児は須らく真剣の携帯が義務付けられる。」
「フッ・・・とは言っても現代の日本でそんなことをしたら間違いなく、通報される。」
「だが、今だに天童家の男は携帯とは言わないまでも持っている!!自身の身を委ねる至高の刀剣をッ!!」
「私の場合はこの天剣-童子切・・・そして、進!コレはお前の物だ!!」
そう言って、父さんがさらに収納のスキルから取り出し、放り投げたのはオレの物だった。
「お互いがお互いの刀剣を握ってこそ、我々の立ち合いになる!!」
「そうだろ?」
父さんの顔は余裕そのものだ。自身に満ち溢れている。自分が斬られるとかそんな考えは一切ないそんな余裕だ。
父さんの渡してきた物。
これはオレがこの世界に来る前に家に置いてきたオレの刀剣。
懐かしささえ感じる。
『天満雪月花』
モデルは彼の名刀 三日月宗近。刃長約80cmに銀色の輝く美しい刀身、雲の合間に浮かぶ雪のように見える刃紋、コレはかつて日本にいる時にオレが作った物だ。
天童家の男は、自分用の刀として一振り作る習わしになっている。
オレはこの『天満雪月花』、父さんの場合は『天剣-童子切』。
オレの使用していた神聖剣はオレの白魔法の力が使えなくなっている今、ただのブロードソード以下の剣になってしまっている。
父さんの持ってきたこの天満雪月花は寧ろオレにとって僥倖と言っても過言ではない。
「父さん・・・オレにこの刀を持たせて良かったのか?」
「この刀は今からアンタを斬る裂く刃となるんだぞッ!!」
オレは剥き出しの闘志を父さんにぶつけ、天満雪月花を鞘から引き抜き、状態を確認する。
「進・・・お前はそう言ってこの私に勝てた事があるのかね?」
「純粋な斬り合いに関していえば私は所謂"最強"なのだぞ?」
自身を最強と自負するこの男―――天童 真の言葉に嘘偽りはない。戦国の世であっても剣でこの男に勝てる者はいなかっただろう。
しかし、ここはヌバモンド―――魔法やスキルが存在する世界。如何に現実世界で最強のこの男でもこの世界では違うはず。
オレは魔眼の能力を発動し、父さんのステータスを視る。
オレは唖然した。
父さんのステータスに。
「マジかよ・・・!?」
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名前:天童真
種族:人間
性別:男
Lv.90
クラス:勇者
残SP: ??SP
◆状態◆
◆パラメータ◆
体力:855
筋力:810
魔力:800
物理抵抗力:800
魔力抵抗力:850
精神力:895
器用さ:710
素早さ:850
◆装備◆
武器:天剣-童子切(+150)
防具:なし
◆アクティブスキル◆
《白魔法Lv.Max》《収納Lv.Max》《剣生成Lv.Max》《暗剣技Lv.Max》《聖剣技Lv.Max》《闘気砲Lv.Max》《全神経集中Lv.Max》《酸素生成Lv.Max》《記憶操作Lv.Max》《催眠Lv.Max》《全体化Lv.Max》《復元Lv.Max》《不可侵領域展開Lv.Max》
◆パッシブスキル◆
《異世界語翻訳》《冷気完全無効》《空気摩擦軽減》《物理完全無効》
◆ユニークスキル◆
《ダウンロード&インストール》
◆称号◆
現実世界の覇王
異世界より召喚された勇者
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父さんのステータスは六魔将並みじゃないか!?
もしかして未央が前魔王のステータスを引き継いだように父さんも前勇者のステータスを引き継いでいるのか?
「どうした怖気づいたのか?この天童 真に!!」
やるしかない。
今更、オレに退くという選択肢はない。
進は迷うことなく、真へと刃を向けていた。