第268話 【親子対決!?】天才 天童 進 VS 天災 天童 真①
~シュトリカム砦内~
進と真が再会の会話をしている一方、真と共に来たサリオスはあることに気付いていた。
"何だこの反応は・・・!?この光は・・・!?"
自身の右手にはめている指輪がほのかに光っているではないか。
"まさか・・・この近くにアドラメレクが探し求めているエルフの国『ガラドミア』へのカギがあると言うのか・・・!?"
サリオスはこの場の空気感が真によって支配されつつあることを感じ取る。やはり、あの御方と同格であり、行動を共にしていただけの事はある。サリオスの見立てでは、現状あの天童真に勝てる者はこの場にいないと判断していた。例え英雄と呼ばれる少年でも勇者として召喚された真の戦闘力には及ばないと、そう感じていたのだ。
ならば・・・
私はこの光に従って、行くのみ・・・。
そう判断したサリオス。
「グレガー!」
サリオスは小声でグレガーを近くに呼び、今後の指示を行う。
「私はしばらくこの場から消える。戦闘の指揮はグレガー、君に任せる。」
「―――で、もしそうなった場合、―――するんだ!」
「うん!!!分かったよ!サリオス!」
無邪気な笑顔で答えるグレガー。パッと見少年のように見える彼は、サリオスの言葉通りこの後動くことになる。
真のみならず、サリオス、グレガーも個々で動き始めていた。
そんなサリオス、グレガーだけでなく、このシュトリカム砦へやって来たのは、もう二人いる。
「この人たちに聖なる加護を・・・!!」
「白魔法:エリアキュア!!」
状態異常を解除する高範囲の治癒魔法。
聖女アルマとその聖女を護衛する神殿騎士第三師団団長アンジェ-メル-エンデルセン。
アルマはここに来て初めに感じたことはある少女から途方もない程の魔力が溢れ出ていることだった。
砦内にいるまだ自分と同じ歳くらいの少女なのに、身体に収まり切れていない程の魔力。しかもその特性は自分とほぼ真逆の存在であることをアルマは感じ取っていた。
そして、アルマの目に映ったのは、神殿騎士第六師団のテンプルナイト達の殆どが地に伏して倒れている光景だった。未央の黒魔法によって、進達の決闘を観戦していた神殿騎士第六師団のテンプルナイト達の全員が眠らされていた。
勿論、すぐに駆け寄って、容体を確かめた。
その魔力の一端が、あの魔力を溢れ出させている少女の物だと理解るのにそんなに時間は掛からなかった。
アルマは必死に倒れているテンプルナイト達を介抱していた。こんなところで眠ったままでは確実に無防備で戦闘に巻き込まれてしまう。それだけは避けねば。
かなり上位の魔法が使われている。自分の力ではテンプルナイト達を目覚めさせるのに暫く掛かるだろう。
とアルマは考えていた。
「アンジェさん!」
アルマは近くで戦闘を警戒しているアンジェに声を掛けた。
「ハッ!何でしょうか!聖女様ッ!!」
「暫くの間、私は無防備になります!」
「なので・・・護ってくださいねッ!!」
無理に笑顔を作ってアンジェにお願いするアルマ。
この時のアルマの表情を後のアンジェはこう語る。
『あの時のアルマ様は、何と言うか歳相応の女の子に見えましたね!普段は毅然とした態度で、民が不安にならないようにしているのに。だから、私が何としても護らねば!それだけを考えて行動していました!』
彼女も大人たちの勝手な都合で聖女という立場をやらされている被害者の一人に過ぎない。治癒の白魔法が使えるからと言って、自分の意思などお構いなしに『聖女』というポジションを任されている。拒否権など当然ない。
来る日も来る日も教会に大勢運ばれてくるけが人の治療や大人たちの腹黒い政治をただ指をくわえて見ているだけの毎日。
それでも正気を保って続けていられるのは、自分が命を助けた時に『ありがとう』と感謝の言葉を言ってくれる人がいるからだ。もし自分がこの立場を放棄すればあの人たちの命は助からなかった。
だから、けが人や命の危機にある人は何としても助ける。
それが、聖女アルマの行動原理。
自分が召喚した規格外の勇者 天童 真。彼は召喚された際にテンプルナイトが大勢いる聖ミラルド城で大暴れをやってのけ、あまつさえ自分の命をも狙ってきた。聖女アルマの力を持ってすれば、元の世界に送り返すことだって出来る。
しかし、それは行わなかった。
彼が危険な存在であることはハッキリと分かる。
しかし、彼もまた何かしらの悲しみ、葛藤、悩みを背負って生きて来たことを何となく感じてしまったが故に強制的に元の世界に戻すことを躊躇してしまったのだ。
もしかしたら、彼もこの先何かしらの出来事で変わるかもしれないと・・・そう信じたくなったのだ。
そして、もし勇者様を変えるとしたら、それは案外、自分の息子であり、英雄と呼ばれている彼なのかもしれない。いや、そうであって欲しい。
アルマは進と真が向かい合う姿を一瞥し、そう強く願う。
―――進の刃が真の首元を狙う。銀色の切先が正確に真の頸動脈を切り裂こうと迫る。
コレが開始の合図だった。
二人の闘い。
親子の対決。
「剣生成!」
真の右手に何の変哲もないブロードソードが生成される。
―――スパンッ!!!
『そんな音がするんだ・・・!』
進の斬撃を剣で受け止めた時、この闘いを見ていた者達の耳にそう聴こえた。
キンッって言う甲高い金属音じゃない。達人同士の斬り合い。真は進の縦方向への斬撃をブロードソードの腹部分を使い滑らせ、力の向きをずらしていた。
簡単な技じゃない。
お互いに動いている者同士―――その相手の力の向きを変えるというのは相当な修行を行わないと実現などしない。
「進よ・・・息子なら分かるだろう?私に刃を向けるということがどんな意味を持つかということを―――ッ!!」
「あぁ分かってるさ!!」
「そんなこと言われなくても、身体がイヤッて程知ってる!アンタという存在がどれだけの脅威であるかってことを。」
例えミサイルを持っていても天童 真と殺し合いはしたくない。
かつて、真と立ち合いをした者は口を揃えてそう語っていた。
「だがオレもアンタに一つ言いたいッ!!」
「子どもは・・・人間は・・・この世界に生きる全ての生命は決してアンタのおもちゃじゃないッ――――!!」
「フッ、言うようになったではないか!?」
「しかしだな!進よ!お前だって同じだ!」
「お前にも私の血がその身体を流れているのだよ!!」
「私が気づいていないとでも思ったか?お前が正義の味方のように、現実世界で力なき者の為と称して復讐の代行を行っていることをッ!!」
「ッーーー!?」
「私に説教をしたいなら力で示せッ!!」
「キレイ事を語るだけで満足する理想論主義者になるなッーーー!!」
「天童流剣術:新月!!」
進は使用した。
天童流剣術を。呪われた剣術と常日頃言っていた天童流剣術を先に放ったのは紛れもなく進。
この男に勝つには使うしかないと判断した。
殺す気でやらなければ、こちらが殺られる。
「刃を限りなく細い線、ナノメートル単位の繊維とイメージしすることで振り下ろす際の空気抵抗を限りなく少なくして生み出す斬撃は全てを切断する。」
「天童流剣術一の神速の剛剣、新月か・・・!」
「シンプルな力比べなら自分にも部があると思ったか・・・?」
「天童流剣術:新月!!」
真も進と同様に放つ。
天童流剣術一の神速の剛剣である新月を。
二つの刃が重なった時
確かに見えた空に浮かぶ新月が。
それも二つも。
「ほう・・・腕を上げたようだな!」
真の手に持ったブロードソードが灰みたいにサラサラと砂みたいに風化して真の手から消え去った。普通そんなことになるはずないのに、二人の衝突があまりにも高密度のエネルギーで行われていたが故に、ただの剣では耐えきれなかったのだ。
「流石は玉鋼の日本刀だ!」
「進が作ったのだろう?よく出来ている・・・!」
進の使用する刀は全て進のスキル《錬金術》によって生み出される。材料さえあれば何本でも生成可能だ。
「やはり、ただの西洋剣では"硬さ"が足りないな・・・。」
真はそう言うと、収納のスキルを発動し、一本の刀を異次元より取り出した。
「そ・・・それは!?」
進は知っている。
真が手に持つ刀の正体が。