第258話 超人 唯我 新 VS 拳聖 ガイウス②
~シュトリカム砦内~
「流石ガイウス様だッ!!」
「「「ガイウスッ!!ガイウスッ!!」」」
熱くなる周りの外野。
新とガイウスの闘いを間近で見ていたテンプルナイト達は賞讃の声を上げていた。
まるで、闘技場での闘いを観戦する観客。
彼らの過半数は知らない。いや、話には聞いているが、それを実際に目の当たりにしたわけではない。だからガイウスの恐ろしさを実感できていない。
だから送るのだ。
ガイウス-ド-ディビアンがかつて神殿騎士第六騎士団を壊滅させかけた張本人であるにも関わらず、このような賞讃を。
昔からムカつくヤツはブン殴って、力任せに言うことを聞かせてきた。
自分の人生―――自由に好きに生きて何が悪い?
正義なんてクソ喰らえって思いながら生きてきた。
天童達と出逢うまでは・・・。
天童と出逢って、こんなにも勝ちてェと思えるヤツがいることを知った。
メルクロフと出逢って、この世界にはもっと面しれェヤツらがいることを知った。
モレクの野郎と出逢って、この世界には自分よりも遥かにつえェヤツがいることを知った。
自分じゃ勝てねェ?
上等じゃねェーか!!
何度だってやってやるだけだ!!
「クッソ・・・折れてやがる・・・」
ズキズキと肋骨の当たりに痛みが響く。
内臓数か所に損傷、肋骨五本骨折、頚椎損傷、頬骨ひび割れ、背骨骨折。
それが今の唯我新の身体の状態だった。常人なら数カ月は寝たきりになる生活を余儀なくされるレベルの重症。
しかし、新の身体を構成する30兆を超える体細胞達は一斉に超回復へと動いていた。
《超人》のスキルは究極の自己暗示スキル。自分の身体がすぐさま治ると思い込んでいる新の身体を超速再生させる。
魔族の超速再生を上回る回復速度。
まさに"超人"。
「さぁ・・・喧嘩の続きをしようぜ・・・!」
折れた肋骨に手を当てながら立ち上がる新。
「ッ―――!?」
ガイウスは驚嘆していた。先ほど確実に戦闘不能にしたハズの少年が立ち上がってきたのだ。しかも既に自分の放った技によるケガが完治しかけているではないか。
「超回復か・・・。」
ボソッとガイウスは呟いた。
「少年よ・・・名前を聞いてもいいか?」
「あァン?名前だァ?」
「・・・まぁいいぜ!」
「俺の名前は唯我 新!"超人"唯我 新様だッ!!」
「アラタ・・・!そうかアラタというのか!」
「私の名はガイウス-ド-ディビアン!かつて"拳聖"と呼ばれていた男だッ!!」
「先の一撃確実に貴公の頭蓋を打ち砕いたと思ったのだがな・・・!」
「あれほど打ち砕いてやったのに立ち上がるとはあっ晴れだッ!!」
ガイウスは握りこぶしをを前に突き出す。手加減をしていたつもりはない。しかし、新が自分の予想を超えた戦士であったことを認めた。
「次はブチ当てるッ!!」
しかし、その言葉とは裏腹に新自身気付いていた。
いや、初めから分かっていたのだ。
自分とガイウスの戦闘能力の違い。
相手の方が圧倒的に格上であることに。
実力差の解離に。
気付きつつも、闘争を挑んだ。
新の戦闘を司る細胞全てが闘いを望み、アドレナリン、セロトニン、メラトニン、エンドロフィンなどの脳内物資が活性化していた。
さてと・・・どうすっかな。
自分のない頭を使い、新は考えていた。
ガイウスに一撃を入れる方法を。
そして、ある結論を出す。
「あんまやりたくねェ―がしょうがねぇーか・・・!」
「よっしゃ!!続きやろうぜッ!!」
まるで、友達を遊びに誘うかのようなフランクな笑顔をガイウスに向ける。
「ッーーー!?」
その余りにも無邪気な笑顔を見たガイウスは困惑していた。
"何故、今から殺し合いをしようという時にそんな笑顔を敵に向けられる?"
それは自分が戦場に立っていた時では考えられないことだった。戦場では誰しも今から1時間後には自分が五体満足で立っているか分からない。そんな不安感に襲われている者が当たり前にいたからだ。どんな有能な司令官であれ、自分の死の覚悟を常に持つ。だから敵に対して心からそんな笑顔を向けることなど有り得ないのだ。
「不思議な少年だ!」
「これから殺し合いをしようって時にまるでその"重さ"を感じない・・・」
「死ぬことが怖くないのか?」
ガイウスはそう新に問うた。
「ハァ?俺は死なねェーよッ!!つか、死ぬわけねェ―だろォ!!!」
「俺は自由に生きて生きて生き続けんだよォーーッ!!こんなとこでくたばるわけねぇだろ!!」
それは本気の目だった。本気で自分は死なないと言い切るこの唯我 新という少年。
"拳聖" ガイウスの目にはどう映っていたのか。それは本人にしか分からない。
この闘いが始まって、初めてガイウスが先に動いた。
既にお互いに言葉はなかった。
結局、言葉ではないのだ。
拳で語る者同士。
ガイウスはその体重180kgの巨体とは思えない程のスピードで新へ急接近する。
猛スピードで接近してからそのスピードに拳を乗せ、正面から最大火力を放つつもりだ。
何の小細工もするつもりはない。
小細工を労して闘うことも当然できる。ちまちま新の肉体を破壊して、戦力を削ることだって出来る。闘いの経験値が遥かに多い、ガイウスならそっちの戦略の方が勝率は高いだろう。
しかし、ガイウスはそれをしない。
したくなかった。
正面から打ち合い、この少年に自分との力量の差を痛感させたかったのだ。
"命の取り合いはそんなに甘くない"
ということを。
「聖拳技:真聖閃光拳ッ!!」
ガイウスの拳に身体中の聖光気が集まっていく。
集められた聖光気をこちらに放つつもりだ。
とてつもないエネルギーだ。あんなエネルギーをまともに喰らったら、身体がドロドロに溶けてしまうだろう。多分身体の原型をとどめていられない。
てか、死ぬ。
新はそう確信してしまった。
心の底から思ってしまったら超人のスキルは究極の自己暗示であるが故に、その効果を失ってしまう。
「ちぃーーと、まじぃーなッ!!」
新の額から汗が一筋垂れる。
新は意外なガイウスの特攻に驚いていた。
新の対ガイウス攻略法で思いついたことをやるには少し時間が掛かる。
まさか、ガイウスの方から動き出すとは思っていなかった。確実に勝つなら先ほどのように自分からのカウンター狙いで攻めた方が有効的だと新自身考えていたからだ。
そういう風な男でもないと思っていた。
さっきの自分の発言で何か思う所があったのであろうか。
ガイウスの攻撃に対する反撃を新は必死に思案していた。
しかし、どんな対応をしたところで新の脳内イメージでは自分に対する"死"のイメージしか湧かなかった。
「ハハッ・・・。マジかよ・・・。」
死を間際にした新は乾いた笑いしか出なかった。
ガイウスの拳から放たれる閃光が新を包み込む。




