第254話 急転直下
~クロヴィス城 客室~
LION's LIVEからどれくらいたった・・・?
進は目覚めると見覚えのある天井が目に入った。未央達が歌い終えた後でオレの記憶は途切れている。アレから疲れ果てたオレは眠ってしまったようだ。
クロヴィス祭は無事に終わったのだろうか・・・。
やれるだけのことはやった。
オレがそんなことを考えていると、コンコンとドアをノックする音が聴こえた。
「どうぞ!!」
とオレが言うと、扉を開けて中に入ってきたは、マリーだった。
「ススムさん!起きていたんですね!!」
「あぁ!おはよう!」
「昨日はアレからどうなった?すまない、どうやら疲れて眠ってしまい覚えていなくて・・・。」
「はい!大成功でしたよ!!」
「問題といえば、ライブの終わり間際にリカントさんが入ってきて一回会場がざわついたくらいですかね。」
マリーは平気な顔でそう答えた。
「えっ!?それって大騒ぎになるだろ?」
「リカントといえば、獣人どころか、この世界中から畏れられている存在なんだから!?」
「はい!確かに皆さん騒ぎになりましたけど、そこはリオンさんとミオさんが上手く収めてくれました!!」
「リオンはまだしも、未央もって・・・!」
「まさか・・・自分が魔王だって言ったのか・・・?」
未央が魔王だって言ったのなら、それは民衆が暴動に発展する可能性だってある。未央の身に何かあったらと思うだけで心配になる。
「はい!それはもう皆さんの前で言っちゃってました!!」
「マジか。」
「はい!ただ、皆さんそんなに深刻に問題なく受け入れてくれたようです!!」
「はぁ~~~!!」
オレは深いため息をついた。コレは安心と呆れの二つの意味の混じったため息。
クロヴィスの人達が寛容だったから今回は助かったが、他の国で同じことをしていたらどうなっていたか、想像するだけでも怖い。最悪リンチにされる可能性だってあったのだ。まぁ未央の魔王の力があれば力で負けることはないだろうが、追放は免れなかっただろう。
そうなったら、オレは付いて行くって選択になっただろうな。そうなるとまた一から王権を回収する手段を練らなくてはいかなくなる。
頭が痛くなる。
オレも気を付けないといけないな。
まぁ今回は何とか助かったから良しとするか。
「そういえば、レオ様が起きたら自分の元へ来るように言ってましたよ!!」
「あぁ分かった!準備が出来たら王様の所へ行くよ!」
国王が何の用だ?
~クロヴィス城 王の間~
オレはすぐに準備を終えて、王様の待つ部屋を訪れた。
「おぉ!ススムよ!」
「昨日は催しご苦労だった!!」
「国民の皆も喜んでおったぞッ!!」
王様は上機嫌そうだ。
「それでオレに用とは何でしょうか?」
「そうだな・・・これは悪いニュースになるのだが・・・」
「今朝早馬で傷だらけの兵士が来てな。どうやら、聖王国との国境付近、ペルース平原にあるシュトリカム砦が神殿騎士によって、制圧されたとの報告があった。」
「使いからの情報によると、砦内の兵士は死傷者多数、敵兵は推定50~100人との事らしい。」
「それは大変ですね・・・。」
「でも、何故このタイミングで・・・?」
「今、どう考えても魔王軍の方を警戒しなければいけないこの時期にクロヴィスに攻め込むメリットがあるとは思えないのですが。」
「ふむ。それは私も気になってな。使いの者に聞いてみたのだ!」
「そしたらな、どうやら敵の大将は"テンドウ ススム"という少年を出せと申していたらしい・・・。」
マジかよ。
オレは心の中でそう思った。
神殿騎士がオレを狙う理由―――そんなモノはガリアの件以外ない。
仇討ち・・・それ以外には考えられない。
「分かりました・・・オレが直接行ってきます!!」
オレは拳を強く握り締め、自ら赴く覚悟を決める。昨日は疲れでヘロヘロだったが、一晩寝たことで充分に身体の調子も戻った。これなら戦闘になったとしても問題ないだろう。
ただ、未だ白魔法の力は戻っていないので、あまり無茶な戦闘はできない。
「ただな・・・使いの者が他に気になることを言っていたのだ!」
「どうやら襲撃をしてきた神殿騎士の中に『拳聖』がいたとのことだ!!」
「『拳聖』?」
聞いたこともない存在だ。しかし、王様のあの様子を見るにかなりの強者のようだ。
「そう・・・拳聖 ガイウス-ド-ディビアン!」
「かつて神殿騎士第六師団団長を務めていた男だ!」
「特定の武器を使うことなく、己の拳のみであらゆる敵を打ち破ってきた男―――その強さは六魔将にも及ぶと言われていた。」
人間でありながら、六魔将にも匹敵する力ってそれは恐ろしいとしか言えないな。
六魔将モレクだって、オレと新の二人で何とか破ったくらいなんだから。
「ただ、10年前に起こした問題でヤツは聖王国の地下牢獄に投獄されたと聞く。」
「それが何故、今解き放たれたのか・・・。」
レオがそんなことをボソッと呟くと、バンっと扉を開く音が響いた。
「面白そうな話してんじゃねェーか!?」
不敵な笑みを浮かべて新がズンズンとレオの近くにやって来た。
「天童!俺がそのガイウスってヤツとやる!!」
新は右手をボキボキと鳴らし、そう言ってきた。この男、強い者に対してすぐに勝負をしたがるのは昔から変わっていない。
「まぁ・・・いいけど、あんまり無理はするなよ!」
オレは一応の心配の言葉を掛けた。この男の戦闘に対して心配というモノは不要だと認識してはいるのだが・・・。
「誰に言ってんだよッ!!」
「俺が負けるわけねェーだろ!?」
シュトリカム砦には誰が行くか。
オレと新は確定として、未央や他の魔王軍も連れていく?いやいや、未央を巻き込むのは止そう。元々、コレはオレがガリアと戦闘をして引き起こした問題だ。未央を危険に巻き込みたくない。
リオンもこの国の姫様だ。
万が一危険なことになったらクロヴィスの国民に申し訳が立たない。
「オレと新だけで何とかなるだろうが、フラムさんとマリーには声を掛けるか。」
しかし、思いもよらなかった。
この闘いであの男と再会することになるなんて。
~シュトリカム砦~
「抵抗の意思のない者は殺さず捕虜にするんだ!!」
「俺達の目的はあくまでテンドウススムだッ!!」
「無駄に殺す必要はねェ!!」
神殿騎士第六師団団長 アルマン-ツィ-カルビーノは部下たちに声高に命令する。
砦内に充満する鉄臭い血の匂い。
床や壁に残る激しく争った跡。
散乱する武具の数々。
砦内に数多く倒れる獣人の兵士達。
陥落するのに時間は掛からなかった。
拳聖 ガイウス-ド-ディビアン―――この男はやはり強すぎる。
あれだけ激しく動いていたのに今は何事もなかったかのように涼しい顔で座ってやがる。
襲い掛かる兵士たち全てを一撃で戦闘不能にしていった。
手下の神殿騎士たちは今、獣人たちを地下の牢に入れるのに大忙し。
俺はこうして命令を下して、その隣でガイウスはただじっと目を閉じて瞑想をしている。
この男は一応、俺とガリアの師匠だった男。しかし、昔から何を考えているのか分からない男だった。
まぁキッチリ働いてくれるならそれで何の問題はない。
"テンドウススム・・・早く来い!!せっかく、使いの獣人を一人見逃してやったのだ!!早く俺の目の前にやって来い!!"
アルマンは進に対する湧き上がる憎しみの感情で溢れていた。