第251話 LION's LIVE①
~クロヴィス郊外~
「任務完了ッ!!」
アドラメレクの放ったスパイから情報を得る為、出向いてきたアップルを撃破したベロニカ。
自分とアップルに掛けた《水晶結合》のスキルを解除し、立ったまま意識を失っているアップルの心臓の音と呼吸音を確認する。
「まだ、ギリギリ息はあるみたいね・・・ホントにしぶとい女。」
「さっさと捕らえて、街に戻りましょ。」
その時、クロヴィスの街の方からドンッという爆音が聴こえてきた。
ベロニカは一瞬、街に刺客が放たれたのかと警戒したが、その音の正体が空中に浮かぶ七色の円形状に開かれた花のような物だということに気付いた。
「な、何ですか・・・アレは?」
そう呟いたベロニカは、クロヴィス祭が始まる前に進が言っていた『花火』という物を思い出す。
「クロヴィス祭の最終日、空にデカい花を咲かせるとか言ってましたね。」
「コレがその"花"ってヤツですか・・・。」
まるで、ベロニカの勝利を祝うような花火。ベロニカはうっかりその美しさに見とれてしまったが、ハッと我に返り、アップルを抱え、クロヴィスへと帰還しようとした。
そんなベロニカの全身を唐突に激痛が襲う。
「痛ッ―――!!」
《無痛の指輪》の効果が切れた。
アップルの数百発分の殴打が全身に来る。
「ッーーー!?」
"ドサッ!!"
ベロニカはあまりの痛さに堪らず、膝から地面に倒れてしまった。両腕はおろか指一本動かせない。足に力が入らず、立ち上がることも出来ない。
「いや、参ったね・・・。」
「あの暴力女やっぱり手強いわ。」
アップルはこれでも魔王軍随一の戦闘集団であるアドラメレク配下の中では弱い部類。それでも今回ここまで苦戦してしまった。
「アップルの言う通り、私って温室でぬくぬく育ってきたのかしら?」
これからアドラメレク直属の戦闘部隊との戦闘は避けては通れない。エレナ御姉様やルミナス、ナデシコを守りながら、やり合えるのか。正直不安がないと言えばウソになる。
しかし、そんな事を今考えていても仕方ない。今できることに最善を尽くせばいい。
そう思ったベロニカは念話のスキルを使い、ルミナスに思念を繋げる。念話のスキルは離れた相手と頭の中で会話ができるという便利なスキルだ。上級魔族の中でも使える者はそう多くはない。話しかける側は、相手の顔を思い浮かべると会話をすることが出来る。ただし、相手の位置がある程度正確な位置が分かっていないと繋げることが出来なかったりだとか、相手に拒否されると会話が出来ないなどのある意味当然の制約もある。
「あーーあールミナス?聴こえるかしら?」
「アップルと交戦したわ!」
「それでーえェーっと、思った以上に苦戦してしまって、今動けないの!」
「それで悪いけど迎えに来てもらえないかな?」
「そう!そう!丘の上の大樹の下!」
「えェ―――!」
念話を終え、ルミナスに迎えに来てもらうこととなった。
そう言えば、今はクロヴィス祭の最中―――ベロニカは倒れながら、空中に鮮やかに打ち上げられる花火を見て、ルミナスを待った。
今回の死闘はベロニカの勝利で幕を閉じた。
しかし、ベロニカとアップルのこの死闘は、これから始まる大きな闘いの始まりに過ぎなかった。
~LIVEステージ裏側~
「そうか・・・」
「アドラメレクの放ったスパイと上級魔族の確保ご苦労様」
「詳しいことは後で聞かせてもらうよ!」
進はベロニカから念話のスキルによるアドラメレクの配下確保の報告を受けていた。エレナの配下であるベロニカを単独で動かしたのは若干の不安もあった。一応、勝てなそうな相手なら逃げろとは言っていたが、無事に敵兵の確保が出来たようで何よりだ。
一つ不安要素を片付けることが出来た。
クロヴィス祭もいよいよ終わりが近づいていた。
クロヴィス王国の上空を大量の花火が舞い上がり、最後の盛り上がりを見せる。
フィナーレを飾る最後の出し物として、この国のお姫様であるリオンの生LIVE、音楽ステージが控えるだけ。
煌びやかな照明、ステージに立ち並ぶマイク、ミキサー、アンプ、スピーカー等の機材、客席の色鮮やかなペンライト―――まるで日本のトップアイドルが活躍するステージのようなセッティング。この世界にない知識やノウハウをフルに生かして今回のセッティングを行った。
「それにしてもやりすぎたかな・・・」
天童 進はボソッとそう呟いた。このステージを用意するためにこの二日間寝ていなかった。
寝ずの設備制作。
天才である彼は、照明や音響道具などの大小問わずステージ設備をほぼ一人で用意してしまった。未央のステージ姿が見れるという期待を胸に抱きながら。勿論、組み立ては獣人の人達や魔族の人達にも手伝っては貰ったが、設計書の類は殆ど、彼が作成した。
正直かなりしんどかった。
それでも見たかったんだ。
未央の元気に歌って踊る姿が。
「おっす!!天童!」
「ゾンビみてぇな顔してんな!!」
綿菓子を手にした新が進の調子を伺いに来ていた。
「正直かなりキツイ。」
珍しく弱音を吐く進。
"全く自由な奴だ。"
オレが二徹して作り上げている間に特に手伝うこともせずにブラブラと。
完全に自分が発案したこの祭りを楽しんでいやがる。
少しだけ...ほんの少しだけそのいつもの呑気な新にイラっとした進だった。
クロヴィス祭の出店の企画に準備、ライブの楽曲制作に道具制作、アドラメレクの放ったスパイ捜索―――正直、いくら進が"天才"と言っても、働き詰めでいつぶっ倒れてもおかしくない。
そんな身体の調子だった。
まぁ未央のライブ衣装姿を見るまでは寝れないが・・・。
ライブステージの前には、何千人もの観客が既にスタンバっている。
獣人だけではない。
人間や魔族、他にもエルフやリザードマンなどの他種族もちらほら見えた。
みんな、クロヴィスの歌姫とまで謂われるリオンの歌声を期待して見に来たのだ。
しかしな・・・今日はリオンだけじゃないんだぜ!!
今日は3人だ!!
リオン、マリー・・・それに未央の3人で祭りの最後を飾る!!
観客の度肝を抜かせてやるぜ!!
進はニヤリと不敵な笑みを浮かべていた。
「ススム君ー!!もうみんなスタンバイOKだって!」
オレは眠気眼を擦りながら、その声に反応を示す。
フラムさんだ。
いつもの鎧姿とは違い、タキシードを着て少し緊張した表情を浮かべている。フラムさんには彼女達のマネージャー的な仕事をお願いしていた。
全然関係ない話だが、フラムさんはその働きっぷりと好青年な感じから獣人のおば様達にとても高評価を頂いていた。
「分かりました!すぐにそっちに行きます!!」
オレは最終確認のため、彼女たちの待つ衣装室へと向かった。
~LIVEステージ裏側 衣装室~
オレと新はフラムさんに連れられて、未央たちのいる衣装室の扉を開けると、そこには綺麗に着飾った彼女たちが楽しそうにしていた。
「おおっ!進に新ではないか!?」
「進っ!!」
「どうだッ!!この私の姿は!とても可愛らしい姿であろう?」
両手を顔の横に上げ、銀色の尻尾をフリフリさせ、猫のニャンポーズを取って可愛さをアピールするリオン。
うん、確かに可愛い。間違いなく、健全な男子高生なら恋に落ちてるだろう。
前々から薄々感じてはいたが、リオンは自分の可愛さに相当な自信があるようだ。
まぁ、世界五大美女と呼ばれている位だから自覚しないのもおかしいか。
だが、何というか、ライオンはネコ科だからなのか、そういったあざとさがある。
「あぁ、問題ない!リオン!」
「君は可愛い!!自信を持っていいッ!!」
オレは感じたままハッキリとそう告げた。すると、照れているのか、顔を真っ赤にして隅の方へと縮こまってしまった。
一体どうしたというのだろうか。
「あの・・・ススムさん・・・私はどうでしょうか!?」
緊張した様子で今度はマリーが尋ねてきた。
なんで、二人ともオレに聞くのだろうか。自慢じゃないが、いくら天才と呼ばれているとはいっても美的センスに関しては一般人とそこまで変わらないぞ。
しかし、大切な弟子兼仲間のマリーに聞かれているのだ。
真摯な受け答えをしないと、天才の名が廃る。
「マリーも綺麗だよ!いつものサラサラなロングもいいが、綺麗に結ばれているな」
「もしかして、未央にやってもらったのか?」
小さく、うんと頷くマリー。
「そうそう!マリーちゃん、結んだらいつもと違った可愛さが出るかなと思って結んでおきました!隊長殿!!」
「イイじゃないか!!!!」
「自信を持っていいぞ!!この天才 天童 進が言うんだから間違いない!!」
オレは声を大にして褒めた。
元々日本人とは違った金髪ロング、整った容姿、青い瞳。
素材がいい。
勿論、個人的な好みもあるだろうが。
それに女性の容姿は褒めるとドンドン可愛くなると聞いたことがある。
誉められてイヤな人はいない。
オレのポリシーとして誉めるのはタダなのだから、着飾った女性はドンドン褒めることにしている。
「あ、ありがとうございます!!」
マリーも照れた表情でありがとうと言ってきた。
リオン、マリーと来て、段々流れが分かってきた。
そうだ。この後、未央がオレに少し照れた表情で、聞いてくるはずだ。
"進ちゃん・・・今日の私どうかなっ??"
ってな・・・。
オレはその流れを期待していた。
「あっ、そろそろ、時間みたいだよ!!」
「マリーちゃん、リオンちゃん!!行こっ!!」
未央はステータスウィンドウに表示される時刻を確認して、急いで観客の待つLIVEステージへと行こうとする。
「えっ・・・??未央は聞いてこないの?」
今日一番の動揺だった。
刺客に背後を取られた時の比じゃない位動揺している。
「えーーっ!?だって、進ちゃんに私がどうかな?なんて聞いたら1時間以上はしゃべり続けるじゃん!!」
「うっ!!?」
ズバリその通りだった。
どんなに疲労があろうと、ケガをしていようが、未央がそう聞いてきたら、未央の可愛さ、可憐さについてオレは1時間以上・・・いや、3時間は語る自信がある。
「オイ...天童、流石に1時間以上は引くわ・・・。」
後ろでオレの肩をポンと叩く新。
「し、仕方ないだろ!!未央はオレの大切な人なんだからッ!!」
オレは顔を赤くしてそう言った。もうみんなの前で愛の告白しているようなものである。とても恥ずかしい物を感じる。
「フっ・・・フフフ!アハハハハッーーッ!!」
腹を抱えて、未央が笑った。それにつられて、マリーとリオンもクスクスと笑っていた。
「分かった、分かった!!」
「進ちゃん、ライブが終わったらね♪」
「ライブが終わったら、ちゃんと最後まで聞くよ!!今日の私どうかなって!」
「それでいい?」
首を傾げて、未央は尋ねた。
"そんなの・・・勿論OKだろ。"
オレは心の声と実際の声が同時に出ていたようだった。
「うん!ありがと!!」
「じゃあ、進ちゃんが私をどんな風に褒めてくれるのか楽しみにしてるね♪」
未央はオレに手を振りながら、足早にLIVEステージへと向かった。
「未央のヤツ気合入ってんな~~!」
「よし、それじゃ私とマリーも行くから!三人とも応援よろしく☆」
リオンも気合十分だった。
3人の音楽LIVEがまもなく始まろうとしていた。
そんな中、一人、マリーだけが頭にモヤモヤを抱えていた。
"やっぱり、ススムさんはミオさんの事を一番大切に思ってるんだ・・・。"
そんなマリーに芽生えた小さな嫉妬の感情がこれから大きな事態に発展することをオレ達はまだ知らなかった。