第247話 配下のプライド
~クロヴィス郊外~
「承知致しました。ススム様!」
プツっと念話での接続が途切れる。
アドラメレクによって送り込まれた最後のスパイを取り押さえることに成功したベロニカは、これからどうするか進に尋ねていた。
進より得られた指示内容は、クロヴィス郊外で情報の受け取人として待っているアドラメレクの配下の確保。
本来なら、エレナ配下である彼女がエレナ以外の命令など聞く必要もないし、聞きたいとも思ってはない。
しかし、過激派の新魔王軍からのスパイともなれば、放置するわけにもいかない。彼らを放置すれば、それはすなわち、自分が尊敬して慕うエレナを窮地に追いやる可能性だって秘めているわけだから。
「エレナ御姉様の為にやるしかないわね・・・。」
まるで忍者の如く、軽やかに道中の木々を足場に移動を続ける。
敵はアドラメレクの配下ということしか分からない。
「あの男の配下ということは・・・ジャック?シエル?それとも、ハイバネート?」
「一番来て欲しくない奴は、断トツで"ヌル"!!」
「もし情報の受取人があの男なら私は撤退するしかなくなるッ!!」
ベロニカが一番危険視している者はヌルという魔族だ。
ヤツはアドラメレクの配下最強の男だ。
ヤツと激突することになればまず死ぬ。
100回戦ったら99回は間違いなくアイツの圧倒的な力で殺され、残りの1回は良くて相打ち。それくらいの戦闘力の差が私とヌルの間にはある。
こんなところで死ぬわけにはいかない。
しかし、ヌルの性格を考えるとヤツが情報の受取人になっている可能性は極めて低いと考えていた。ヤツは何を考えているか分からないが、アドラメレクの直接の命令でない限りこんなパシリみたいな役割を率先して行動するような者ではない。
「ということは斬り込み隊長のジャックかしら・・・。」
とにかく急いで目的地に着かねば、誰も情報の受け渡しに来ないことを不審がって、アドラメレクの配下の誰かが何か仕掛けてくるかもしれない。
そんなことを考えている間に、目的の情報の受け渡し場所に着いたベロニカ。
辺りを見渡しても誰もいない。
「もしかしてアンタ―――"ベロニカ"!?」
上空から聞き覚えのある声が聴こえた。
「そうか・・・あの男の配下といえば、貴方もいましたね。」
思わず、上空を見上げるベロニカ。
「アップル!!」
そこにいたのは、アドラメレク配下の一人『噛碎のアップル』と呼ばれる女。大きく広がる口に鋭い歯であらゆる物を噛み砕く所からそう呼ばれるようになった。さらに厄介なことにこの女に噛み砕かれた物は、様々なオプションを付けることもできる。
「敵にするとまた厄介な相手ね・・・。」
ベロニカは地上へと降り立つ彼女の能力を魔眼で覗いてみた。
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名前:アップル
種族:魚人族
性別:女
Lv.70
クラス:バイター
残SP: ??SP
◆状態◆
◆パラメータ◆
体力:701
筋力:722
魔力:391
物理抵抗力:530
魔力抵抗力:477
精神力:721
器用さ:500
素早さ:744
◆装備◆
武器:?
防具:?
◆アクティブスキル◆
《魔眼Lv.Max》《収納Lv.Max》《齧攻牙Lv.Max》《碧魔法Lv.Max》《飛翔Lv.Max》《念話Lv.Max》《水泳Lv.Max》《水中戦闘Lv.Max》《リンゴ生成Lv.Max》《硬化Lv.Max》《高速消化Lv.Max》
◆パッシブスキル◆
《自動体力回復Lv.Max》《自動魔力回復Lv.Max》《体力消費節約Lv.Max》《水耐性Lv.Max》《水中呼吸Lv.Max》《鮫肌Lv.Max》
◆ユニークスキル◆
《独リンゴ》
◆称号◆
噛碎のアップル
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アップルは碧魔法という深海魔法を使うことが出来るが、彼女は魔法よりも物理の方が厄介だ。
齧攻牙というスキルが彼女のメインスキルと言っても過言ではない。どんな物も噛み砕くことのできるスキルで、彼女に一旦噛みつかれたら最後だと思った方がいい。そして、極めつけは彼女のユニークスキル《独リンゴ》。
コレが最高に厄介なスキルで、噛み砕いた物を口内から吐き出して特殊なリンゴへと変える。そのリンゴはいくつかのオプションを付けることが出来るのだ。
彼女の本領は水中で活きる。水中で闘った場合、彼女に勝てる者は六魔将を除いていないだろう。
しかし、ここは陸上―――こちらの勝算の方が遥かに高い。
それはアップル自身も気付いているハズだ。
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この時、アップルもまたベロニカ同様に相手の戦闘能力を測っていた。
お互い面と向かい合った瞬間―――戦闘になることは理解した。互いに六魔将の部下としてのプライドを持つ者同士。
魔眼発動!!
白く光る魔眼。
ベロニカのステータス情報が頭に流れ込んでくる。
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名前:ベロニカ
種族:水晶族
性別:女
Lv.70
クラス:魔具師
残SP: ??SP
◆状態◆
◆パラメータ◆
体力:453
筋力:320
魔力:821
物理抵抗力:320
魔力抵抗力:549
精神力:672
器用さ:300
素早さ:498
◆装備◆
武器:?
防具:?
◆アクティブスキル◆
《魔眼Lv.Max》《収納Lv.Max》《水晶魔法Lv.Max》《水晶結合Lv.Max》《化合物形成Lv.Max》《念話Lv.Max》《飛翔Lv.Max》《魔力構築Lv.Max》《魔力制御Lv.Max》《錬金術Lv.Max》《転移Lv.Max》《魔術アーカイブLv.Max》
◆パッシブスキル◆
《自動体力回復Lv.Max》《自動魔力回復Lv.Max》《魔力反動軽減Lv.Max》《魔術言語Lv.Max》《ライブラリLv.Max》
◆ユニークスキル◆
《物質融合》
◆称号◆
結晶のベロニカ
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物理特化型のアップルに対して、魔法特化型のベロニカ。
元々、二人は同じ魔王軍に所属してはいたが、上司である六魔将が違う為、お互いの戦闘スタイル、能力値、スキルをそこまで詳しくは知らない。何となくの戦闘スタイルとスキルしか知らないのだ。そもそも、ベロニカとアップルはお互いの手の内を明かすほどの仲でもなく、年に数回行われる魔王軍の幹部集会で顔を合わす程度の関係でしかない。
「まさか、アンタとこうして敵同士で顔を合わせることになるとはね。」
ベロニカは近くの大木を難なく根っこから引き抜き、ベロニカに向けて投げつける。まるで、ゴムボールを投げるように軽々と。
「水晶魔法:クリスタルオブジェ!!」
ベロニカの展開する幾重にも張り巡らせた魔法陣、そこから繰り出される水晶魔法。準一級希少魔法にも指定されている魔法である。
高速で飛んでくる大木はベロニカの魔法により、ピカピカ光るガラス細工のような物質へと変化し、ベロニカの目の前で粉々に砕け散った。
「物質の結晶化―――それがアンタの水晶魔法ってヤツか?魔王軍内でも噂には聞いていたが、実際に見るのは初めてだ!」
不敵な笑みを浮かべるアップル。どんな硬い物でも、砕けやすい結晶体へと変化させるベロニカの魔法を目の当たりにしてもアップルの余裕は消えていなかった。
それほどまでにアップルは自身の戦闘能力に自信があるのだ。
アップルは空中を駆ける。まるで、宙に固定された足場があるかのように強く踏み、ベロニカへ急接近する。魔法タイプのベロニカ相手なら遠距離で魔法を繰り出すよりも接近戦に持ち込む方が有効と判断した結果だ。
「齧攻牙―――《破砕》」
アップルはその見た目からは考えられない程の大口を開ける。それは人を一人飲み込める程の大きさで、ギラギラとその鋭利な牙を輝かせ。
「水晶魔法:クリスタルオブジェ!!」
「遅ェェェーーーッ!!!」
ベロニカの魔法の発動よりも先にアップルの牙が大地を抉り取る。咄嗟にベロニカは後ろへと下がって回避する。
周囲に巻き上がる砂煙。
あの一瞬で、アップルは大地に人一人軽く入る大穴を開けてしまった。
穴を開けた際に喰らった土をモグモグとその口に含める。
アップルはペッとその口に含んでいた土を吐き出す。
「《リンゴ生成》」
「《独リンゴ》―――オプション "p"」
しかし、ソレは既に土ではなく、赤々としたリンゴへと変化していた。
「噛み砕いた物を"リンゴ"へと変えるスキル―――それが噂に聞いていた貴方のユニークスキル《独リンゴ》ね!!」
ベロニカは自身の予想を超えていたアップルの"疾さ"への対策、戦略を頭の中で練り直す。
「アンタのその結晶化のスキル―――どんな強固な者も簡単に砕くことが出来る厄介な技だ!」
「しかし、その発動までの時間はアタシのスピードより遅い!!発動前に潰すことは可能!!」
「そして、私の齧攻牙は一度喰らいついた物を離さない!確実に噛み殺す!!」
再び、アップルはニヤリと不敵な笑みを浮かべる。
六魔将エレナの配下ベロニカと六魔将アドラメレクの配下アップル―――二人の上級魔族の闘いが始まった。