第242話 祭りだ!!祭りだ!!
~クロヴィス城下町~
進達と六魔将の話し合いから一週間が経とうとしていた。
新の唐突な提案であるクロヴィスで行われる祭りに関しての話は瞬く間にクロヴィス中、そして近隣諸国へと広がることとなる。
"何やら一週間後にクロヴィスで面白そうな催しがある"
そんな噂が実しやかに囁かれる。
その噂が本当かどうか確かめる為、ある男がリーヨンからやって来た。
最近、この国の英雄 天童 進がクロヴィスに転移ゲートを作ったことによって、リーヨンからクロヴィスまでを一瞬で行き来出来るようになったのだ。それにより、ここ最近のリーヨンからの観光客も増加していた。
「ここが噂のクロヴィス王国か・・・!!スゲーな!色々な店が並んでるじゃねーかッ!!」
ある男が街並みをキョロキョロと見ながら、街の地図を片手に散策していた。
「グレッグさ~~ん!!」
遠くから男の仲間らしき数人の男たちが走ってくる。どうやら先行していたこの男を追いかけて来たようだ。
そう、この男の名前は『鉄拳のグレッグ』。かつて、進達と魔坑道の探索を行ったCランク冒険者だ。彼は魔族の手から解放され、復興を遂げたクロヴィスの街がどんな物か見に来た。加えて、かつて一緒に闘い、このクロヴィスの英雄となった進と再び会おうとリーヨンからやって来たのだ。
「グレッグさん!!やっと見つけましたよ~!!」
男たちが息を切らしながら、グレッグの元に集まった。
彼らもこのクロヴィスで行われる『祭り』なるモノが気になってここまで来た。
「それにしても人多いっすね!何やらお店も多いみたいだし、コレが"祭り"ってヤツなんですかね・・・。」
グレッグの連れの一人が街で行われている祭りの様子を見ながらそう呟いた。
辺りには獣人の他に、人間やエルフ、リザードマンまでいる。どうやらクロヴィスだけでなく、周辺諸国の者達や自分たちと同じようにリーヨンの転移ゲートを使って、観光に来た者が多いようだ。
「何やら見た事もないような店がいっぱいだな・・・。」
グレッグはリーヨンでは見た事のない店の数々に驚きを隠せなかった。
「見て下さいよ!この店!『やきそば』って書いてますよ!」
「コレ料理なんですかね・・・。」
熱い鉄板で焼かれている茶色い無数の細長い物体―――コレはなんだ?グレッグは初めて見るその食べ物?に困惑していた。周りを見ると皿の上に乗せられたソレを皆美味しそうに食べているではないか。
美味いのか?この食べ物は・・・?
「おう!オヤジィ!コイツを俺達にもくれ!!」
グレッグはひたすらその『やきそば』なるモノを焼いている鉢巻を巻いたオオカミの獣人に注文した。
「あいよ!!一つ銅貨3枚な!!」
グレッグはそのやきそばを3つ注文し、料金を支払うと、他の者達同様に店の前で実食をした。
「コレ本当に食べられるのか・・・?」
グレッグ達は恐る恐る、初めの一口に入った。
すると、ソースの程よい塩辛さと、しなやかさと滑らかなのどごしの麺が口いっぱいに広がった。
「う...うめぇーーーっ!!!!何だコレッ!!」
「こんなウメェーのが銅貨3枚なのかよッ!!」
グレッグ達は初めて食べた『やきそば』に大変満足していた。
辺りを見渡すと、自分たちが見た事ない料理が他にもまだまだたくさんある。
『やきそば』と同じようにそれぞれの店には、のれんが掛かっており、そこに店の名前が書かれてある。
『わたあめ』、『りんご飴』、『たこ焼き』・・・他にも見た事も聞いたこともない店が立ち並ぶ。
「オイ・・・てめぇら・・・!!俺達は今日、とんでもなく幸運な出来事に遭遇しているのかもしれねぇ・・・!!」
グレッグ達はこの数時間後、この周辺の出店全てを回り、数々の見た事もない食べ物を満喫するのであった。
グレッグ達だけではなく、初めてこのクロヴィスを訪れた冒険者たちがこの摩訶不思議な料理を堪能していたのだ。
それらの料理の製法は、周辺諸国の料理人に多額の情報料と引き換えに伝え広まることとなるのはまた別の話である。
「ふぅい~~~!!食べたぜ!!もう腹いっぺぇーだ!!」
「これ以上はもう入らねぇーよ!!」
街の中心の出店を回り付くし、満腹感に浸るグレッグ達一行―――そんな彼らは食事関係の出店が立ち並ぶ通りを外れ、別の通りをブラブラしていた。
すると、さっきまでの出店とはまた違った感じの店を見つけた。
「オイオイ・・・今度はなんだぁ??」
「疑似クエスト・・・??」
「何だこの店名は・・・?」
そこには新築のような一軒家で看板に『疑似クエスト』と書かれていた。
店の説明書きにはこう書かれていた。
『ここは、様々なダンジョンや強敵の戦闘をシミュレーションで行うことができる空間です。各々に撰んで頂いたレベル、シチュエーションに相当するフィールドで闘い、そこをクリアしますと景品としてレアなアイテムを持ち帰って頂くことが可能です。』
「何だが分からねぇ―が、面白そうじゃねーか!!」
店の前には自分達と同じような冒険者が何十人も並んで待っているではないか。
グレッグ達もその人たちと同様に列に並ぶことにした。
中から出てくる人たちは、大体3~5分に一組のペースだ。中から出てくる者達は、嬉しそうな表情か悔しそうな表情のいずれかをしていた。
よほどの自信家なのか、中にはソロで挑んでいる人もいる。
一時間ほどが経ち、やっと自分たちの番がやって来た。
中へ入ると受付とその前にいくつもの扉が並んでいる。
受付の姉ちゃんはぱっと見人間の様で、笑顔で差し出された紙にはそれぞれの事前に受けたいクエストの難易度、設定を選べた。一回の挑戦料金は一人銀貨5枚、人数制限とかもあるみたいで一つのクエストで一度に挑戦できる人数は4人までらしい。高いのか安いのかは分からないが、面白そうなので、俺達は挑戦することにした。何より、一時間も待たされたんだ。このまま帰るなんて選択肢は当然ない。
「うーーーん...何々...。」
「闘技場で一人のボスと対決、寂れた教会に潜む悪魔の討伐、山頂にある竜の卵を割らずに納品、街中に出現するゴーレム達を10匹破壊する。」
他にも設定やクエスト達成条件など様々な物があった。
「姉ちゃん!俺達はこの『迷路に眠っている宝物を見つける』ってクエストに挑戦するぜ!!」
「ハイ!挑戦ありがとうございます!!」
受付の姉ちゃんは笑顔で応じ、俺達はそのクエストを受ける為の扉へと案内された。そう言えば、この他のクエストもそうだが、この小さな一軒家にそんないくつもダンジョンが作れるようなスペースがあるとはとてもじゃないが思えない。
俺達はこの姉ちゃんに騙されている?
一瞬、グレッグの脳裏にそんな考えが浮かんだ。でも、この姉ちゃんからそんな小悪党な雰囲気は感じられない。
「なぁ・・・姉ちゃん!この扉の先にその広い迷路があるんだよな・・・?」
俺は一応そのことを確認することにした。
「ハイ・・・この館は空間操作の魔法式が張り巡らされている為、その扉から指定の空間に繋がっております!」
「それと、コレをお持ちになってください!!」
そう言って受付の姉ちゃんに手渡されたのは不思議に光る石だった。
「コレを無くさないように首にぶら下げて下さいね!」
「何だよコレ!?」
グレッグはそう尋ねた。
「コレは『身が転の石』です!天童 進様が開発したアイテムで、この石に帰還を念じますと今居りますこの部屋に一瞬で帰還することができます!さらに、中にいる魔物に殺されたり、酷いケガを負った場合でもこの石が身代わりとなり、貴方達が死ぬことにならず、中で負った傷も元に戻った状態でこの部屋へと帰還が出来ますので、無くさないようにしてくださいね!!」
「マジかよ・・・なんてモノを進のヤツは作り出してんだよ・・・!」
「そんな物、世界中の冒険者達が喉から手が出る程欲しがるに決まってんだろ・・・!!」
グレッグは余りの衝撃に生唾を飲んだ。なぜならこのアイテムが実際のクエストで使用できれば、それこそ冒険者が魔物に殺されても、無事に街へと帰還できるのだから。コイツが普及すれば、ほとんどの冒険者の命が守られるって事じゃないか・・・。
「つくづくアイツはスゲェ―奴だぜ・・・。」
かつて自身の命をその正義から救ってくれた進の凄さを改めて実感したグレッグ。
「で、勿論、中にあるアイテムは拾ったら俺達の物にしていいんだよな?」
グレッグは念のため、そのことを確認する。
「はい!勿論でございます!!中のダンジョンは何れも空間操作によって、作られた場所でございますから、敵は元より、クエスト時に得られるレアアイテム以外は自動で生成されます!」
「ですので、中で拾ったアイテムに関しましても利用者様の物となります!!」
「また、ダンジョンにはそれぞれ、緊急脱出用の措置といたしまして、同様に『身が転の石』がバラまかれておりますので、無くした際はそちらを利用してください。」
「ただし、この『身が転の石』は持ち帰り不可でございます!ご帰宅の際には必ず受付へと返却してもらいますので悪しからず。」
受付の姉ちゃんは丁寧に説明してくれた。
なんて素晴らしい場所なんだ。
グレッグは説明だけ聞いて、ココの凄さに鳥肌が立っていた。
つまりコイツは銀貨たった5枚払うだけで、ほとんど命の危険なく、レアなアイテムや経験値を手に入れることのできるまたとないチャンスって訳だ。
よし、他の冒険者たちに知れ渡る前に俺達はたっぷりと味わわせて貰おうじゃないか。
そうグレッグ達は皆の心を一つにして、扉を開くのであった。
グレッグ達の目の前には、何もない四角い立方体のような部屋に東西南北と言っていいのかは分からないが、左右後ろ前にそれぞれ一つ扉がある。
コレが『迷路』?なのか。
グレッグ達は、ワクワクと同時にいつ戦闘を行ってもいいように心構えをした。