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第231話 エレベーターに乗ったら異世界に来て英雄になっていた件①


~神殿騎士団本部 地下牢獄~

 

 ここは神殿騎士本部の地下牢獄―――レンガ造りの壁に薄暗い地下回廊が広がる。ここには聖王国で犯罪を犯した者達の中でも国家レベルに危険な者達が収容されることになっている。ある者は、準一級希少魔法、第一級希少魔法を使いこなす魔術師であったり、魔獣たちを操り聖王国を転覆させようと目論んだ魔獣使い、世界各地に独自に研究した"毒"を振りまいた錬金術師等...。

 

 いずれも神殿騎士たちによって、確保され身柄を拘束されている危険人物たちである。

 

 何故、そのような者達を死刑にしていないかというと、彼らの力はいずれもこの世界の通常のレベルを逸脱しているからだ。それ故にいずれ利用価値があるのではないかとされ、生かされ続けている。

 

 そして、この牢に投獄されているある人物の力を利用しようとするものが、今宵この地下牢を訪れていた。

 

 神殿騎士第六師団団長 アルマン-ツィ-カルビーノである。

 

 コツコツと地面に音を立て静かな地下に二つの足音が響く。

 

 彼は、神殿騎士団長会議を途中で抜け、友人であるガリアの仇である進を討つ為、準備をしていた。

 

 その戦力確保のため彼はこの地下牢獄を訪れていたのだ。

 

 「それにしてもいきなりアルマンさんが訪れて驚きましたよ!」

 鼻水を垂らしながら、この牢獄の監守をしている騎士のスティッキがアルマンへ話しかける。

 

 「あの男・・・の様子は問題ないか?」

 アルマンはそうスティッキに尋ねた。

 

 「えぇ...他の囚人たちに比べたらだいぶ大人しいもんですよ!!」

 「ヤツはこの牢に投獄されて10年間、毎日飽きもせず中でずっと瞑想しているか、鍛錬を行っていますからね!!」

 

 「そうか...やはりあの人は変わらんか...。」

 

 

 ここの囚人たちは極めて危険な存在であるが故に、罪悪紋を刻むことでその行動を制限されている。罪悪紋とはかつてガリアとベルデが考案した魔導式を利用した焼き印であり、咎人の身体に刻み込まれることによって、その者の自由を制限するというものだ。そのロジックを応用して開発された物が奴隷紋である。

 

 「着きましたよ!」

 「こちらの牢です!」

 

 そういって、スティッキが手を差し伸ばした先には2メートルを超えている程の巨躯のがっしりした上半身裸で真っ白な長髪の老人が汗をポタポタと垂らしながら右の親指のみで支え腕立て伏せを行っていた。

 

 「99995・・・99996・・・99997!!」

 「99998!・・・99999!・・・100000!!」

 男はひたすらに鍛錬を続けていた。こちらを見るわけでもなく。

 

 

 「相変わらずだな...!」

 アルマンはこの男のことをよく知っている。

 

 この男の名は『ガイウス-ド-ディビアン』、かつてこの世界で"拳聖"とまで呼ばれ、10年前までは神殿騎士第六師団団長を務めていた男である。つまり、アルマンにとってはかつての上司に当たる男。

 

 そして、この男は武器などは一切使わずに己の拳のみで神殿騎士第六師団団長にまで登り詰めた極めて稀な存在なのだ。

 

 「ガイウス・・・アンタに頼みたいことがある!」

 

 「・・・」

 

 「アルマンか・・・!」

 「暫く見ないうちに柔くなったのではないか・・・。」

 数秒の沈黙ののち、ガイウスはアルマンの方を睨む。

 

 牢の中はガイウスの放つ熱気で夜にも関わらず、高い温度を保っていた。

 

 「ガリアが殺された...!」

 

 かつて、俺とガリアはガイウスに師事していたことがあった。俺もガイウスが投獄される前はこの男を心の底から尊敬していたし、この国の英雄だとも思っていた。

 

 それなのに...。

 

 俺は...俺達は裏切られたんだ。

 

 

 それでも、今回この男の手を借りるのは、天童進という男が六魔将モレクを討ったという程の男と聞き及んだからだ。まともな戦力ではこちらが返り討ちになる可能性が高い。ならば、自分が最も戦力として信頼できる男に協力を頼むことにした。

 

 ガイウスは今だに神殿騎士内でも六魔将に匹敵するのではないかと言われる程に強いと言われている。

 

 「そうか・・・ガリアが死んだか・・・!」

 少しだけ悲しそうな瞳をするガイウス―――かつての自身の弟子が殺されたのだ。多少なりにも心に響くものがあったのだろう。

 

 「なぁ...まだあの時のことを教えてはくれないのか?」

 

 今でも鮮明に覚えている。

 

 アレは、いつものように俺が戦場から砦に帰った時の事だった。

 

 10年前、ガイウスはそこで我々神殿騎士内の同胞を十数人殺したのだ。

 

 その時の彼の鬼のような形相を俺は今でも脳裏に焼き付いて離れないのだ。

 

 何故、そんなことを突然していたのか、ガイウスの口からその真意を聞けてない。

 

 どんなに拷問をしてもこの男は口を割らなかった。そして、いつまでたっても口を割らないので、この牢獄に閉じ込められているという訳だ。

 

 「・・・私がここにいるのは自分に対する"戒め"だ!」

 「私はかつて同胞を殺すという罪を犯した・・・。だが私が何故、そのようなことをしたのか―――それを誰かに教えるわけにはいかない・・・」

 「申し訳ないとは思っている。だからこそ私はどんな罰も制裁も受け入れる覚悟だ!!」

 

 「そうか、アンタは教えてくれないんだな...!」

 確かに何故、あのようなことをしたのかは疑問が残るが、今はそれよりもガリアを殺した天童進への復讐だ。

 

 「ガイウス!!アンタに拒否権はない!」

 「俺らと一緒に外へ出てもらうッ!!」

 

 こうして、アルマンはかつて"拳聖"と呼ばれたガイウスを連れて、クロヴィスを目指すのだった。

 

~クロヴィス城 城内 客室~

 時は少し遡り、進の父親である天童 真がこの世界に来る数日前―――進はクロヴィス城の客人用の部屋で悪夢にうなされながら眠っていた。

 

  "進よ...恐怖を克服しろ!!"

 

 コレの映像はオレが幼少期の時か...。

 

 夢の中で、視えた光景には幼少期の自分と父親である天童 真が向かい合っていた。

 

 場所は、天童道場―――オレの実家で営んでいる剣術道場だ。

 

 当時、オレは5歳から天童家が行う"英才教育"を受け始めた。

 

 地獄にも等しい教育をオレは受け続けた。古今東西の武術を朝から晩まで修練し、疲れた身体で夜はあらゆる分野の学問を修める。

 

 さらに、週に数度挟む父親自らが執り行う指導・・

 

 その中でも一番辛かったのは、週に一度の父さんとの真剣による立ち合いだ。

 

 毎週月曜日の17:00から18:00の一時間の間にその指導は行われる。

 

 5歳の頃から真剣による実戦形式の立ち合い―――一歩間違えれば、お互いに死ぬかもしれない。オレは始めソレが怖かった。

 

 当然斬られれば痛いのは、幼いながらも自覚していたし、斬ること斬られることに対して恐怖していたんだ。

 

 5歳の子どもにとっては当たり前の感覚だ。

 

 しかし、父さんはそんなことお構いなしで指導を進めていった。

 

 恐怖を克服しろと一言いうだけで。子ども相手にも容赦がなかった。

 

 オレは公式の試合では無敗だったが、父さんとの立ち合いにおいては一度も勝った試しがない。

 

 こうして、実戦形式の立ち合いの中で天童流剣術を父さんから学ぶこととなっていったんだ。

 

 ガバッっとオレは勢いよく、ベッドから起き上がった。既に朝日が昇り、気持ちの良い朝を迎えていた。

 

 大量の寝汗をかいていたようで、シーツがびっしょりと濡れていた。

 

 「最近はもう見なかったのに、またあの時の夢か...。」

 昔の辛くキツかった修練の日々―――未央との日常を過ごすようになり、この世界に来てからも暫くは見ていなかったのに...。

 

 あの六魔将モレクとの闘いで、父さんがこの世界と関わりがあることを知って意識しているのか...。

 

 

 オレは部屋を出て、フラフラと城内を歩き回る。

 

 あのモレクとの闘いの後、オレ達はこの国の復興の為に尽力を尽くした。主にオレの錬金術のスキルで街と城の再建、さらに荒れた大地の復元をする為に複雑な魔導式やマリーの緑魔法による緑化によって、この2カ月の間に住民たちの笑顔は戻り、大分元通りの生活を送れるようになっていた。

 

 「あっ、英雄様!!おはようございます!!」

 鹿の獣人、メイドのシリエスタが兵士達の為に朝食を用意していた。

 

 「おう!英雄さん!!今日も朝早いな!!」

 シリエスタの後ろから大量のジャガイモの入った籠を抱えた料理長のクマの獣人、ビングがヌッと現れた。

 

 「ビングさん!シリエスタ!おはようございます!!」

 オレはその二人に挨拶を返して、笑顔で手を振りながらその場を後にした。

 

 「おっ!英雄様だッ!」

 「今日もあのスゲー剣術見せて下さいよッ!!」

 

 「おい!アレ英雄様じゃん!!行ってみようぜ!!」

 一人の兵士に見つかり、あれよあれよと訓練中の他の兵士達もオレの周りへと集まってきた。

 

 そう、オレはこのクロヴィス王国を魔王軍の手から解放したことで、国中の人達から"英雄"と呼ばれている。

 

 正直、あまり持ち上げられるのも好きではないが、自分の名前をこの世界に広めることで王権を集める為に各国の王たちと交渉しやすくなると考え、あえて自分の名前を公表し、英雄であることを受け入れることにしたのだ。

 

 「さてと...今日もこの国の復興の為に頑張るか!」

 

 暫くはこのクロヴィスを起点として行動をしようと考えている。あの不気味に浮遊する暗黒大陸。あそこにサンドル達がいるのは分かっている。

 

 アイツをどうやって攻略するか...。

 

 見てろよサンドル。

 

 貴様らは必ず、オレがこの手で...。

 

 オレは遠くに浮かんでいるあの大陸を左の澄み切った碧く光る魔眼で見つめていた。

 

 

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