第230話 共存共栄
~神殿騎士団本部 屋上~
「今...何て、言ったのかな?」
真の一言を受けたサリオスの表情はまるで凄惨な事件現場を目の当たりにした目撃者のように引きつっている。汗がポタポタと垂れ、明らかに動揺が走っていた。
「私が二度も言わなくても分かっているんだろう?」
「私は無駄なことが嫌いなんだ...。」
真は胸のポケットからタバコを取り出そうとするが、タバコが切れていることに気付いた。
「チッ、切れてるか...仕方ない」
真は吸いつくした縦88mm×横55mmセブンスターのレギュラーボックスを対象に《復元》のスキルを掛け、新品の状態へと戻し、再度タバコを取り出し火を付けた。
「・・・・」
再び、無言となるサリオス。
サリオスは話すべきか迷っていた。あの御方は、この世界の裏側で生きる御人...。もし、この目の前の男が敵対する者であった場合、私が絶対の忠誠を誓っているあの御方の意思に反してしまう。
自分の命よりも優先するべき事項。
「そうか...私のことは話していないのか...。」
真はサリオスの様子から視えざる者が協力者である自分のことを話していないのだと悟る。恐らく、私とサリオスが接触する予定はヤツの中では存在しなかったのだろう。
だから、サリオスには、協力者である自分のことを伝えていなかった。もしくは、いつサリオスを斬り落としてもいいように余計な情報を渡してはいないとも読み取れる。
「安心するがいい...!」
「私は、視えざる者の協力者だ!!」
実際の所、協力していたのは数年前までの話で、それからはヤツとは接触をしていないが、そこまでサリオスに伝える必要もない。
この世界には、視えざる者の協力者やヤツの強大な力の恩恵を受け、己の全てを捧げて崇拝する者が存在する。私は前者だが、そう言った協力者たちは私やサリオスと同じように世界の上に立つ存在であるパターンが多い。
いずれも視えざる者が利用価値があると睨んで、こちら側に取り込んでいる。
サリオスも表向きは神殿騎士として教皇に忠誠を誓っているが、その実は全くその逆―――視えざる者という恐ろしい"怪物"にその身も心も捧げているという訳だ。
全く...滑稽な話だ...。
「はっ...ハハハッ...!」
「そ...そうか...貴公も視えざる者の下僕だったのか...!」
下僕?
全く違う。
真はそう思っていた。
サリオスと真では役割が全く違う。
真は協力者であり、サリオスは信仰者なのだ。
真は協力者であるため、視えざる者に全てを捧げているわけではない。お互いの理想を実現させる為に、お互いの力を利用しているに過ぎない。全てを視えざる者の計画の為に捧げるサリオスとは根本的に違うのだ。
しかし、ここでサリオスに対して無理に反発しても真にメリットはない。
真のまずまずの目的は、息子である「天童 進」との再会。この世界で行うべき最初のタスクだと考えていた。
「私の名前は天童 真...!あっちの世界からやって来た!貴様も知っているとは思うが勇者として召喚された!!」
「天童 真...?」
「どうやら聞き覚えはないようだな!」
サリオスは本当に知らなかった。視えざる者は地球での協力者である真の存在を教えていないのだから当然ではあるが...。
サリオスだけではない。
この世界の視えざる者の協力者は皆、真の存在を知らない。逆に真は全ての協力者の基本情報をインプットしている。視えざる者から協力者リストを前もって渡されていたからだ。
そこが、決定的にサリオスたちとは違う。視えざる者と真の関係性―――現時点では視えざる者と真以外知り得る者はいないが、サリオスたち、信仰者以上の者だと推察される。
「テンドウって言ったら、クロヴィスを救った英雄と同じ名を...」
サリオスはすぐにそのことに気付いた。
「そうだ...」
「天童 進は私の息子だッ!!」
「何だってッ!!そんな偶然があるっていうのかい...!?」
「ホントの所は偶然かどうか怪しいモノだがな...!」
「まぁそんなことはどうでもいい!」
「サリオスよ...!兵を貸せッ!!」
「テンプルコマンドクラスを数名所望するッ!!」
真は一気に進のいる地に攻め込む為、サリオスへ兵を要求した。それもエリートが数多く在籍する神殿騎士の団長クラスだ。
「いきなりな要求だね...!」
「それはあの御方の御意思なのかい?」
「視えざる者は関係ない!」
「私の目的の為に兵力がいる!」
「だから貸せと要求している!」
大胆不敵な笑みを浮かべ、サリオスへと交渉を行う。いや、交渉というには余りにも一方的な要求ではある。
しかし、真はサリオスがこの要求を受ける自信があった。
何故なら...
「サリオス...視えざる者に今の状況、そして今私が言ったことを聞いてみるがいい!!」
「分かりました...少し待ってもらおうか!」
サリオスはスッと目を閉じ、瞑想をしているかのように静かに精神を統一し、短い呼吸を何度も繰り返す。
「・・・・」
「ハイ・・・」
「分かりました・・・」
数分間の後、再びサリオスは目を開けた。
「今...あの御方に君のことを聞いてみたよ!!」
「ほう...!」
真は咥えていたタバコを地面へと捨てる。
「結論から言うと許可は出た!!君に団長クラスを貸せと!」
「フッ...当たり前のことだ...。」
真は視えざる者の急所となる情報をいくつも持っている。この程度の要求は簡単に通ることは見越しているのだ。しかし、ヤツも抜け目のない男だ。
必ず、この許可をするに当たり、お目付け役を付けてくる可能性が高い。私が裏切らないかの監視役を付けてくるように指示した可能性があるということだ。
視えざる者にとって、私はほぼ裏切ることのない協力者―――しかし、絶対ではない。
用心深い奴の事だ。
必ず何かしらの保険は打ってくるハズだ。
「全く、いきなりそんな協力をしないといけないなんてね...!」
「こっちは通常の任務だってあるんだ...そんな勝手な要求はこれだけにしてもらいたいね!」
やれやれと言った風にサリオスは溜息をついた。
「フフッ...それは悪いことをしたな...!」
「今回で済むようには善処しよう!」
「さぁこれから楽しい実験の始まりだッ!!」
真はこれから始まることを考え年甲斐もなくワクワクしていた。それはまるで小学生が捕まえたカブトムシを戦わせ合う時のような。
そんな興奮をその胸に抱きながら、彼は彼の行く道を進む。それが例え修羅の道であってもだ...。
こうして、真は神殿騎士団と共に進達のいるクロヴィスへと向かうことになるのであった。




