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第229話 貴様の本当の主は誰だ



  "弱いことは悪なの?"

 

 

 数々の高名な騎士を輩出してきた名家であるファラデー家の長男として生まれたサリオスは、幼少期の頃からこう思ってきた。

 

 私は生まれながらにして、病弱で満足に剣を振るえるような身体ではなかった。

 

 そんな身体に生まれたとしても、平民の家で生まれていたらどれだけ幸せであっただろうか。

 

 何度絶望感を味わったか分からない。

 

 ファラデー家では優秀な騎士を育てる為、生まれた子供には幼少期から剣や魔法の修練を行わせる。国の有名な魔術師や騎士を家庭教師として専属で雇い、子供たちに教育を施すのだ。

 

 サリオスもファラデー家の長男として生まれた時にとても期待され、祝福されたのだ。

 

 しかし、私が剣もまともに持てない。魔力マナも常人より遥かに少ないと分かると両親は掌を返したように私を家の邪魔者扱いにした。私の家での居場所は物心ついた頃から既になかった。

 

 町に出ることを禁じられ、家庭教師も付けてもらえず、部屋は寂れて埃まみれの薄汚い屋根裏部屋だった。

 

 両親は私のことを隠したかったのだ。自分たちのような優秀な種から生まれた自分の息子が落ちこぼれだとは信じたくなかったのだろう。

 

 弟たちは自分よりも遥かに優秀な才能を持って生まれていた。将来神殿騎士の幹部も夢じゃないだろうと言われていた程に。

 弟たちは無能である自分のことを虫けらのように虐めてくる。

 

 腹に魔法で作られた火や木の枝をぶつけられたり、水を頭から掛けられたり...。日を追うごとに次第にその"虐め"もエスカレートしていった。ゲロを吐こうが、泣こうが喚こうが弟たちからの虐めは続いた。

 

 

 両親は当然そのことを知りながらも助けてくれなかった。それどころか、弟たちの方ばかりを可愛がって育てていた。

 

 何で助けてくれない?私も貴方たちの息子だろ?

 

 それは途方もない絶望―――飯もロクに与えられず、みすぼらしい服しか着ることのできない、友達だって勿論いないそんな監禁されたような生活。

 

 生かさず殺さず、ただ呼吸を行い、虐めに耐えるだけの毎日。

 

  "私は何のために生まれた?"

 

  "弱者として生まれた自分が悪いのか?"

 

  "弱者でいることは悪なのか?"

 

 答えの出ない終わらない日々―――生きることに虚無感を感じる毎日を送り続けたサリオスは、やがてこの世界に対して恨みを抱くようになる。

 

 この自由に動くことすらままならない身体に生まれたことを恨んだ。

 

 人が弱者に対してどこまでも残酷になれるこの世界を恨んだ。

 

 生まれながらにして不平等や不条理な運命を背負わせた神を恨んだ。

 

 何故、自分ばかりこんな目に遭わなければならないのか...。

 

 そんなある日―――私は運命の出逢いをする。それは突然のことだった。

 

 いつものように屋根裏部屋から外の景色を眺めているときだった。

 

 窓の外に不気味な影と空間の乱れが発生した。

 

 私は咄嗟のことで目を疑い、手で目を擦った...。そしていつの間にかあの御方・・・・はいた。

 

 私の目の前に一人の悪魔が...いや、本当・・の神様が現れたのだ。

 

 私はその神様と契約し、力を得た。絶対の力だ。そして、その対価として絶対の忠誠を誓った。

 

~神殿騎士団本部 会議室~

 

 「フフっ失礼するよ...!」

 

 全身真っ黒なスーツを着た男―――この世界の勇者として召喚された男、"天災" 天童 真がそこには立っていたのだ。

 

 「ふぅぅーーー!えぇ~~と君は誰だい??」

 サリオスは冷静に現れたその男を観察していた。会議中の今、神殿騎士の団長以外が入ってこれないように周りに結界を張るのだ。その結界がムリヤリ破られたとなれば、術者である自分が気が付かない筈はない。それにも関わらず一切この男が入ってきたことに気が付かなかった。

 

 サリオスはその事実を冷静に分析していた。

 

 結界は破られていない?

 

 それとも何かしらのスキルを使用したか...。

 

 冷静に分析を行うサリオスの横で迸るような熱気を纏った一人の男がいた。

 

 神殿騎士第二師団団長 ペルダン-シル-ブランカ。

 

 今にも真に襲い掛かるのではないかと思わせるほどの殺気を放出していた。

 

 「アンタが...何故この世界に居る?」

 

 その顔はいつものクールな表情ではなく、新鮮な肉を前に涎をダラダラ垂らす猛獣の様だった。

 

 この時、ペルダンはこう思っていた。

 

 これはチャンスだと。今自分の目の前にいるのはあの"天災" 天童 真―――何でこの世界に居るだとか、もうどうでもいい。前世ではある意味、総理大臣よりも遥かに高い権力、地位にいた男だ。世界を掌握するほどのカリスマが今目の前にいるのだ。ボクの勝利を捧げる相手としてこれ以上のチャンスはない。

 

 息子である天童 進よりもさらにその深淵を覗き込んでいる。そんな気分だ。

 

 ここで、この男に膝を着かせれば、わざわざその息子と闘うまでもない。

 

 ペルダンは舌なめずりをした。

 

 「若い者は活気があっていいねェ!!」

 「この私に刃を向けるかい?」

 

 当然、真もペルダンの殺気には気付いている。

 

 「あ、貴方は勇者ッ!!」

 椅子から思いっきり立ち上がって、声を上げたのは、アンジェだった。

 

 「そうか...貴様も神殿騎士団長だったな!」

 「このような小娘でもなれるテンプルコマンド...さぞ強いのだろうなッ!!」

 挑発するかのようにそう呟く真。

 

 「貴様、私たちを侮辱する気かッ!!」

 その真の一言に激昂するアンジェ。

 

 「ペルダン君もアンジェ君も止めたまえ!!」

 珍しく、声を大にして暴走しそうになる二人を止めるサリオス。

 

 「ほう...貴様がサリオス-マリ-ファラデーか...」

 初めて会ったのも関わらず、真はサリオスのことを知っていた。

 

 「私のことを知っているのかい?」

 

 サリオス-マリ-ファラデー...名門貴族ファラデー家の長男として生まれたが、生まれつき病弱な身体で生まれ、そのせいで周囲から蔑まれて育ってきた。

 ある日、視えざる者バニッシュマンと契約したことで力を得て、神殿騎士第一師団の団長にまで上り詰めた男―――その野心を現実に変えた"自らの手を汚してきた男"だ。

 

 

 両者は静かに見つめ合う。

 

 

 「・・・・・・」

 

 

 「・・・・・・」

 

 それはたった数秒だったが、二人には数時間にも感じられるほどの時間。

 

 先に口を開いたのは、真だった。

 

 「どうかね...二人で話さないか?」

 

 「マコト様!!先に行かないで下さいませ!!」

 遅れて走ってきた聖女アルマ。

 既にテンプルコマンド達が一堂に会し、そこに勇者として召喚された真が入ってきたこのシリアスな場の空気に水を差す。

 

 「アルマ様!!貴方がこの男をここへ...!?」

 アンジェは声を上げてそう尋ねた。

 

 「ハァ...ハァ...ハイ!荒事には...しないとの約束で連れてきました!!」

 アンジェの問いに息を切らしながら返答する。

 

 「いいよ!」

 「上で話そうか!」

 サリオスは真の提案に快諾する。そして、二人は街並みが良く見える神殿騎士団本部の屋上へと行った。

 

~神殿騎士団本部 屋上~

 

 「さてと...で私と何を話したいのかな?」

 真から話を聞こうとするサリオス。

 

 「その前に待ちたまえ...!」

 「スキル:不可侵領域展開たちいりきんし!!」


-----------------------------------------------------

不可侵領域展開たちいりきんし

使用者を中心に5メートル四方の立方体の領域を広げる。

中に入れるのは使用者が許可した者のみ。

話している姿を見られることなく、中での会話は聞かれることはない。

ただし、強度はないので、高エネルギーの攻撃を受けた場合は

簡単に破られる。あくまで盗聴防止のスキル。

-----------------------------------------------------


 「盗聴防止でね...!」

 

 「フフ...用心深いんだね!」

 フッと笑みを浮かべるサリオス。

 

 「それはお互い様だろ?」

 

 「やっぱり私の結界をどうにかして解除したんだね!」

 「参考までにどうやって解除したのか教えてほしいのだけど!」

 サリオスは純粋に興味があった。どうやって、自分の立てた結界を自分に感知されることなく真が破ったのかを。

 

 「貴様は足元の小石を蹴った時のやり方を人に説明するのか?」

 「私は私の歩む道にあった邪魔な小石を蹴り飛ばしたにすぎんよ!」

 真はサリオスの結界を破った方法を話すつもりはない。正直、どうにでもなるのだ。多彩なスキルを使用することのできる真にとってあの程度の結界など、簡単に解除することができる。それをわざわざ説明等しない。

 

 説明するメリットがないのだ。

 

 

 「そんなことよりも貴様に尋ねたいこと...いや、確認したいことがあったのだ。」

 

 二人の間に妙な緊張感が生まれる。

 

 「何かな?答えられる範囲なら答えようか!」

 

 「貴様の本当の主は誰だ?」

 

 真のその一言を耳にした瞬間―――今まで涼しい顔をしていたサリオスの顔色が変わった。

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