第227話 エレベーターに乗ったら異世界に来て勇者として召喚された件⑦【天童 真side】
~聖王国王都 聖ミラルド城 訓練場~
「《剣生成》...!」
真は目の前に誰もいない訓練場の中心を目標に剣を構える。ただ静かに心を落ち着かせて、集中していた。
剣を振るう時は心の平常心が何よりも大切である。
敵がどれ程憎くても剣に憎悪を乗せてはならない。剣に憎しみが乗れば、それは隙となり太刀筋の乱れとなる。
唯、冷徹に目的の為に剣を振るう。
理想は語るだけでは意味がない。
何か目的を達成するために剣を振るうのだ。
自らの手を汚してこそ―――己の理想を現実とすることが出来る。
弱者になるな。
弱者であろうとするな。
弱者であることを他者のせいにするな。
強者は自らの道は自らの剣を持って切り開く。
頂点は常に誰よりも強者であれ。
強者でいる覚悟を持って、信念を貫く。
そこに善悪などはない。
自らの目的達成の為の刃。
剣を振るってきて、数十年―――これが真が剣を振るう上での心構えである。
「聖剣技:聖連破光殺!!」
「暗剣技:闇光乱命剣!!」
真は右手と左手にそれぞれ、白銀の剣を生成して両の手からそれぞれ聖剣技と暗剣技―――二つの相反する力を放っていた。
凄まじいエネルギーの渦が真の目の前に発生する。
そして、暫く周囲の地面を抉り出した後、二つのエネルギー波は消え去り、真の持っていた二つの剣は両方ともドロドロと溶け始めて地面へ落ちてしまった。
「フム...やはり、ただの剣生成のスキルで生み出した剣では私の力に耐え切れないか...。」
天童 真は聖ミラルド城 訓練場を自らの力量、スキルを確認する為、訪れていた。
「白魔法と黒魔法の力...相反する力だが、私なら使いこなせるようだ。」
「当たり前と言えば当たり前の話か...。」
「そう...魔族と聖女、二つの血が流れている私なら...。」
真がそう呟くと同時に後ろの方から真に呼びかける声が聴こえてきた。
「ハァハァ...マコト様!」
「探しましたよッ!!こんなところで何をやってらしたのですか!?」
額に汗を貯め、息切れをしながら、そう声を掛けてきたのは、聖女アルマだった。
「何をしていたって...?」
「フム...私の力がどれ程のモノか試していただけだ...!」
「もう粗方把握したので、そちらへ戻るつもりだった。」
真は自身の技で荒れた訓練場を《復元》のスキルによって、元に戻しアルマの方を振り返った。
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《復元》
対象の物体の状態を72時間前までの状態に戻す。
ただし、生命あるものに対しては使用することができない。
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「あの...マコト様...!一つ言い忘れていましたが、マコト様がこの世界に存在できるのは私がいるからなんですよ!!」
「つまり、私が死んだり、マコト様を戻るように祈り捧げたら、マコト様はその時点で元の世界に戻ります!」
「ほう...。」
真は慌てる素振りも見せずに咥えていたタバコに火を付ける。
「ですから、出来る限り私の言うことは聞いてもらいますッ!!」
「マコト様も何か目的があって、ここにいるんですよね?」
「フム...」
真はアルマの言葉を受けて、少し思考を巡らせた。
現状、真は視えざる者から指示は何もない。
というのも、ここ数年視えざる者とは連絡を取っていないのだ。
ヤツが今何をしているのかある程度の想像はついているが、詳細までは知らない。
もはや、お互いの計画はそれぞれが協力する段階ではなくなった。
だから、向こうから声が掛かることもない。
このヌバモンドへ来れたのも視えざる者の力があってこそ。つまり、今の真は自由にこのヌバモンドを行き来することはできない。
故に今アルマに元の世界に戻されるのは少々困ることになってしまう。
アルマの言葉が本当であるならばの話だが...。
真はアルマの目を見つめた。
「ウソは言ってないか...。」
アルマの表情から彼女がウソをついていないことを確信する。
「いいだろう!私にも目的がある!暫く貴様らの茶番に付き合ってやろうではないかッ!!」
「それでは...マコト様こちらへ...!」
そうアルマが真を部屋へ案内しようとすると...。
真は、付いて来ない。
「どうしたのですか?マコト様?」
そんな真を不思議がるアルマ。
「いや、そういえば聞いてなかったと思ってな!」
「"天童 進"という男を知らないか?私の息子なのだが、この世界に来ているようなのだ!」
その名前にピクッと反応を示す聖女アルマ。
「知っているのだな?」
「何のことでしょう?」
アルマはそう答える。
「慣れないウソは止めるのだな!私にウソは通じん!」
再び向かい合ってアルマの目を見つめる真。
「知っているのだな...。聖女アルマよ!」
「先日、獣人の国クロヴィス、そこが魔王軍に侵略されました!しかし、そこに救世主が現れ、魔王軍の手からクロヴィスを奪還したのです!!」
「そのお方の名前が確か"テンドウ ススム"...と聞いております!」
「フッ、流石は我が息子だ!」
「上々な戦果ではないか...。」
「しかし、その少し前に神殿騎士第七師団団長ガリア-ニュー-コルベールが何者かに討たれたという報告が上がりました...!」
「ほう...。」
真はアルマの言葉をただ聴いているだけだった。
「その者の名もまた"テンドウ ススム"...。」
「だから、今その者を巡ってテンプルコマンド内で議論がされております!!」
「ならば、私をそのテンプルコマンドたちがいる場所へ案内するのだな!」
「なりませんッ!!」
「彼らは圧倒的な力を持っています!もしかしたら戦闘になるなんてことも考えられます!!」
「そんな所に私がマコト様を連れていくと思いますか?」
真は咥えていたタバコをその辺に投げ捨てると、自身の顔をアルマの顔に近づけた。
「私を誰だと思っているのかね?"天災"とまで言われた男、天童 真だッ!!」
「テンプルコマンドクラス如き、いくら束になって掛かって来ても何の問題でもないのだよッ!!」
「わ、わかりました...。」
「ですが、念のため言っておきます!暴力沙汰になった場合貴方を強制的に元の世界に帰還させることも考えていますから...。」
「分かっている!!」
「さっさと案内するがいい!!」
こうして、アルマは神殿騎士団団長たちが会議をしているという場所に天童 真を連れていくこととなった。




