第218話 【番外編】不良少年と優良少女 ~デート編~
~4月30日AM 9:15 スカイドリームランド正門前~
4月30日―――GW中の平日、長期休暇中の何故か休みとならない日。本当なら平日なので中高生はここにいるハズではない。
何故、学生には有給休暇が無いのだろうか。有給休暇があれば、この日は殆どの学生が有給を取得するであろう。4月30日とはそんな日なのだ。それを議論するのは、また別の場所になるのだが...。
そんな平日にも関わらず、スカイドリームランド正門前にソワソワした様子の可憐な少女が立っていた。
誰かを待っている様だ。春園春奈にとって、今日は大切な日である。それは唯我 新とのデートの日。
「ワリィ、ワリィ!待たせたみてェだなッ!!」
「も~~う!!遅刻ですよ!!」
9時にスカイドリームランド正門前に待ち合わせのハズが、新は少し遅れて現れる。
「いや~思ったよりもここ家から遠くてよォー!」
「何か言い訳がましくなるし、これ以上は言わねェが...」
済まなそうにする新―――春奈が今日という日をとても楽しみにしていたことは、新も感じていたが故に申し訳ないと感じいるのだ。
「まぁいいでしょう!今日は楽しむ為のデートな訳ですし、思いっきり楽しみましょう!!」
新の遅刻に対して、春奈はそこまで機嫌を損ねている訳ではない様だ。
「おうッ!楽しむことに関しては俺に任せろッ!!」
二人はスカイドリームランドへと入って行った。
「うわ~平日なのにそこそこ人いるじゃねーか!?」
新は開園したばかりの園内をざっと見渡して言った。周りは若いカップルや休暇中の家族連れの親子が目立つ。そういう意味だと自分たちも他の人たちから見たらカップルという風に見えなくもないだろうなどと考えていると、春奈は新の袖を引っ張り走り出していた。
「新さん!!アレ乗りましょうよッ!!」
そう言って春奈が指差す先には、スカイドリームランドの名物ジェットコースター『スカイハイ』、その高さは80メートル、落差70メートル、最高速度は時速100kmを超える日本でも有数のジェットコースターで知られる。
「めちゃくちゃたけェなァ...」
「早速行きましょう!!」
そう言って立ち止まる新を無理矢理引っ張る春奈。
「お、オイちょっと待てよ!!」
「イヤです!今日は精一杯楽しむんです!!」
そう言って引っ張る春奈の顔は緩み切っていた。
こうして二人のデート?が始まることとなった。
「ウオオオオォォーーーォ!!!」
「キャァァーーーーァァ!!」
長い行列を待ち、スカイハイに乗る新と春奈、二人はスカイハイの頂点から落下する最中絶叫の嵐だった。
「いや~~サイコーだったなッ!!」
乗り終わった新は興奮が冷め止まぬ中、春奈へと楽しさを共有しようと話している。驚異的な身体能力を持つ新も初めて乗るこのアトラクションの爽快感の虜になりかけていた。
「私もあそこまで高いジェットコースターは初めて乗りましたよッ!!」
「何といいましょうか...風を感じましたねッ!!」
春奈もまた新と同様に初めて乗るこのアトラクションで興奮が収まりきらない様だった。
「春奈も俺みたいなこと言いだしてんじゃねーか!」
「確かにそうですね...。」
「新さんと最近いることが多くて、思考が似てきたのかもしれないです!」
「ハハッ何だよそれ!優等生のアンタが俺みたいになったらよくねーぜ!」
「フフフッ!そうですよね!そうですよね!」
二人とも、笑いながら次のアトラクションを目指した。
こうして新と春奈の二人はスカイドリームランドのアトラクションを一日かけて余すことなく楽しんでいった。
「ギャアアアーーーーッ!!!」
新の悲鳴声が屋敷内に響く。
スカイドリームランドのお化け屋敷『霊痕屋敷』―――一軒家に閉じ込められた設定で、屋敷内にあるカギを探して脱出するというアトラクション、カギは複数落ちているが本物は一つしかないが、カギを探すには屋敷内を探索する必要がある。探索中に入場者へと恐怖が襲い掛かるというアトラクションになる。
屋敷内は洋館のような作りで最新のARシステムを導入したリアルホラーが体験できる。
ホラーが苦手な新にとって、ここは地獄のような環境になる。
「新さん!ゴールはもうすぐですよッ!!」
ホラーに対してはそこまで怖いと思っていない春奈。いつもは春奈をジャマそうに感じている新もここでは春奈に頼っていた。それはまるでどこへ行ったらいいか分からない幼子のようだった。
「何とか本物のカギは手に入れましたし、ゴールはもうすぐそこですッ!!」
「ーーッ!?」
ブルブルと震える新、その右手は無意識に春奈の左手を握り締めていた。ハッとそのことに気付く春奈、新の方を見ても青ざめた余裕のなさそうな表情が伺える。
「あ、新さん...?大丈夫ですか?」
「はっ、はぁ?だ、だ、だいじょーぶだしッ!!」
「さ、さっさと、ゴールにい、行こうぜ!」
明らかに無理をしていることが分かる。
それは普段は自由奔放に振る舞う彼の珍しい姿だった。
「クスっ...!可愛いですね!」
「あぁ?今なんか言ったか?」
「いや、何でないでーすッ!!」
そんな新をつい"可愛い"と思い、クスリと笑ってしまう春奈。
「行きましょー!!新さん!!ゴールはこっちですッ!!」
「お、お、おう!!」
何とか本物のカギを扉へと差しゴールをする二人―――終わった後、新は園内のベンチで横たわっていた。その様子はぐったりと疲れた様子が伺える。
新は意外にもホラーだとか、オカルト系のモノが苦手なのだ。
「新さーーーん!!どうぞ!!」
そう言って、春奈はベンチに寝込んでいた新へと園内のお店で購入した飲み物を手渡す。
「ん?ああ、わりーな!!」
その飲み物をストローでチュウチュウと吸い込む新、どうやら中身は麦茶の様だ。どちらかと言うと、新はコーラとかの炭酸を好むが、霊痕屋敷で疲れ果ててそんなことを返す余裕もない。
「新さん!今日はもう日も落ちてきましたし、最後にアレに乗りませんか?」
そう言って、春奈が指差したモノは観覧車だった。余りにもベタなチョイス、普段なら軽口の一つでも返す所だが、今の新にその余裕はない。春奈に手を引かれ、言われるがままに観覧車へと乗り込んでいった。
「新さん!体調はもう大丈夫そうですか?」
霊痕屋敷で疲れ果てた新を気遣う春奈。
「ん?あっ、ああ!もう大丈夫だ!!」
本当はまだ本調子ではないが、気遣われるのはあまり好きではない新はそう答えた。
「今日は楽しかったですね!!私はここに来れて、新さんとデートが出来て良かったです!!」
笑顔でそう言う春奈。なんだかんだあったが、新も今日は楽しいと思っていた。
「あぁ!俺も楽しかったぜッ!!」
二人はそれから言葉を交わすことなく無言で観覧車から見える街並みを見ていた。
そして、ちょうど観覧車が一番高いところまで来たところで、春奈は話を始めた。
「新さん...私、普通の女の子としてこうやって男の子とデートしてみたかったんです!」
「春奈...お前なら、出来るさ!!何なら、また俺がこうして付き合ってやるよ!!」
新は、物悲しそうにする春奈を見て、そう答えた。
そんな、新の返答にブンブンと首を横に振る春奈。春奈は自分がもう二度と新とこうして来ることはない。いや、新だけではない、自分が他の男性とこうしてデートすることはないだろうと考えていたのだ。
「ソレはムリです...。」
「ッーーー!?」
「ムリ?それってどういう意味だよ!!」
突然の春奈の言葉に驚く新、もうすぐで観覧車も一周する。
「実は春園家の女は16歳になったら、他のお家へと嫁ぐことになっているんです!!」
「嫁ぐだァ??」
「オイオイ!それって...!!」
動揺する新を他所に春奈はさらに話を続ける。
「4月30日―――4月が終わる今日が私の誕生日なんです!!」
「私は明日から顔も知らない男性の家に嫁がなくてはならないのです!!」
「勿論、学校も辞めなければなりません!!」
「何でお前がそんなことしなくちゃならねェーーんだよッ!!」
観覧車の狭い空間にも関わらず立ち上がって声を荒げる新。
「それが春園家の"ルール"なんです!!」
「でも、今日は新さんとデート出来て楽しかったですよ!!」
「私は今日という日を思い出にして、これからの生活を楽しもうと思います!!」
そう言った春奈の笑顔はムリをしていた。今にも泣きそうな彼女は涙を我慢している。そんなこと新にだって分かっていた。
目の前の少女がその生き方の自由をクソみたいなルールによって奪われようとしている。新はそのことが許せなかったのだ。
「ふざけんなよ...!ふざけんな...!」
「そんなルールオカシイだろ!!」
「俺がそんなルールぶっ壊してやるッ!!」
「だから、春奈ッ!!お前はそんな所、行くなッ!!」
強引に春奈の右手を取る新。彼は観覧車の扉を壊して、どこか知らない地に行こうとする。その行動は全く計画など無く、反射的に動いているだけである。
「やっぱり、新さんならそう言うと思っていましたよ!」
「お、オイ何言ってるんだよ...!」
「ウッ...!!」
クラっと恐ろしい眩暈が新を襲う。
急に新の身体が痺れだし、その場へと倒れる。
「な、何が...?」
「新さんがさっき飲んだ飲み物に強力な睡眠薬を入れました!」
「天童君に今日のことを話したら、新さんにはコレを使えと渡してくれたモノです!」
「な、何をいってやがる...!?」
「ま、待てよ...!!行くなッ!!」
「それじゃあ、新さん!今日は本当に楽しかったです!」
「さようならです...。」
「行くんじゃねェーーーェ!!!!」
新は薄れゆく意識の中、観覧車の外へと出ていく春奈の後ろ姿を見続けていた。