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第216話 【番外編】不良少年と優良少女 ~喧嘩道 VS 合気道編~


~神代学園 ホームルーム前 1階廊下~

 

 「あの~~春奈さん...そろそろ離してくれてもいいんではないでしょうか?」

 

 一人の女子生徒が一人の男子生徒を引きずる光景―――周囲の生徒達の注目の的になっている。

 

 しかも、引きずられているのは一年の間で最強の暴れん坊として有名なあの唯我新だ。

 

 平気で喧嘩をするような男が一人の女子生徒に無抵抗で引きずられているのだ。皆が見るのも当たり前と言える。

 

 「ダメです!!」

 

 新の提案はあっさりと拒否されてしまう。

 

 そんな中、その光景を見ていた女子生徒達がヒソヒソと噂話をしているような内容が聞こえてきた。新は超人的なスキルを所有しており、聴覚が異常に発達している。数十メートル離れたヒソヒソ話など当たり前のように聴こえる。

 

 「ねぇ...アレって春園春奈さんじゃない?またあの人善い人ぶって、調子に乗ってるじゃない!?」

 「まぁ仕切り屋っていうか...お節介というか...中学の合唱コンクールの時も一人だけ張り切っちゃって、誰も付いてこなかったしね...」

 「え~そうなの!?」

 「うん!1年5組でも男子はともかく女子からはハブられてると思うよ!!」

 「」

 などという、春奈のことを誹謗するような内容、噂話が聴こえてきた。

 

 (ふ~~ん、コイツもコイツで大変なんだな...)

 新は引きずられながら、そう感じていた。

 

 「新さんは、何でそんな好き勝手してるんですか...?」

 春奈はボソッとした小さな声で唐突に質問を投げかけてきた。女子たちの話の内容は春奈の耳には届いていないハズ、それなのにそんな質問を投げてきたのだ。恐らく、聴こえはせずとも、経験的に自分のことを悪く言っている内容だということが分かってしまっているのだろう。

 

 

 「そんなの、"俺の人生"だからに決まってるだろ!!」

 「俺の人生の主人公は俺なんだ!俺が中心になって、俺がやりたいように生きて何が悪い!!」

 真顔で何をそんな当たり前のようなことをという風に答える。

 

 「逆に聞きたいが、アンタみたいに誰が決めたかも分からねェような"ルール"にきちんと従ってその先に何があるっていうんだ?」

 

 「それは...」

 言葉がすぐに出てこない春奈―――それを見兼ねてさらに新は畳みかける。

 

 「俺達学生ってのは、結局の所、大人たちが自分たちの都合のいいように決めたルールに従ってるだけに過ぎねぇんだよ!」

 

 「でも、それでみんなが安心して学園生活を送れているんですよ!!」

 「みんながルールをちゃんと守れば、みんなが平穏に笑顔で学園生活を送れると私は信じています!!」

 感情的に反論する春奈。

 

 「平穏に笑顔ねェ...。」

 「アンタはそれで笑顔になってんのかい?」

 「その"みんな"ってヤツにアンタは入ってるのか?」

 「アンタがいい子に徹して...憎まれ役になって、自らが犠牲になるようなルールなんて守る必要ねェと思うけどな...!!」

 

 新がそう言うと、ピタッと春奈の動きが止まった。

 

 「ん?どしたん?」

 「おっ、ついに手を離してくれんのか??」

 期待した顔で新は振り返り、春奈の顔を覗いた。

 

 「新さんに何が分かるっていうんですか...?」

 春奈はボソッとした声でそう呟いた。新の首元を掴んでいた手をそっと離す。

 

 「新さん、明日からGWですね...」

 

 「あぁん?それがどうしたってんだよ!?」

 新は突然の話題に対して聞き返す。

 

 「明日、私の家の道場の方に来てください!」

 小さい声で自分の家に来いと言う春奈。

 

 「何で俺が貴重な休日にテメェの家に行かなきゃいけねぇんだよ!?」

 イヤそうな表情を浮かべて、新は拒否する。

 

 「場所は天童君に聞いてください!!」

 春奈はそんな新など意に介す様子もなく、それだけ言い残すと自分のクラスへと戻っていった。

 

 「お、オイ!ちょっと待てよー!!」

 新の呼び止める声など、聴こえないと言わんばかりに春奈はその場を去った。

 

 その日はもう新の前に現れることはなかった。

 

 

――――次の日

 

~春園家~

 

 

 

 GW初日の貴重な休日を使って、新は進に教えられた春奈の家の前まで来ていた。

 

 「デケェな...」

 目の前の如何にも古びた歴史を感じさせる屋敷―――まるで江戸時代にでも出てきそうなそんな邸宅、ここが名家春園家であることは遠目でも分かるようだ。

 

 「てか、何で俺が休日使ってあの女の家まで来なきゃならねぇんだよ!!」

 文句を垂れながらもきちんと家の前まで来てしまう新。

 

 ピンポーンと呼び鈴を鳴らす。

 

 ガララと扉を開いて出迎えたのは、私服の春奈だった。とても女の子らしい服装―――新にとっては鬼のような風紀委員と言えど、休日はキチンとした女の子なのだ。

 

 「ちゃんと来てやったぞ!感謝しろよな!」

 新は、休日にまで付き合わされたことを不満そうにしながらそう言った。

 

 「新さん...こちらへどうぞ...!」

 浮かない顔をする春奈に案内されたのは、家の方ではなく少し離れの道場の方だった。

 

 暫く待っててと言ったきり、中々戻ってこない春奈―――新は道場を見渡し、時間を潰す。

 

 「お待たせしました!新さん!」

 そう言って戻ってきた春奈は袴姿だった。

 

 「まるで今から試合でもしようって感じの格好だな...」

 

 「合気道に試合はありません!」

 「合気道は人と競う武道ではなく、自己を磨く為の武道ですから!」

 

 「ふ~~ん!そうなん?」

 「じゃあ、何でアンタはそんな格好をしてんだ?」

 

 「それは新さんに私のことを知ってもらう為です!!」

 そう言うと、春奈は両手を突き出し、合気道の構えを始めた。

 

 「オイオイ...試合はないんじゃないのかよ...。」

 全く真逆のことをしようとする春奈に対して、新は突っ込んだ。

 

 「そうですね...確かに試合はないです!」

 「コレは明確な"ルール違反"なのかもしれないです!」

 「ですが、新さんに知ってもらいたいんです!私が何の為に日頃からルールを守っているのか!!」

 

 「へへっ...そうかい...!」

 春奈の覚悟に満ちた表情に応えるように新もファイティングポーズを取る。

 

 「最初に言っておく!オレは女は殴らねェ主義だ!!」

 「だから、アンタに明確な一撃が入るってところで寸止めをする!そこで俺の勝ちってことでいいよな?」

 新がニヤリとした表情で春奈に提案する。

 

 「ええ!構いませんよ!」

 「私は貴方には負けませんから!」

 異様なほどの自信に満ちている春奈。

 

 「それより、その格好でいいんですか?」

 「運動着くらいならこちらで貸しますよ?」

 後で負けた言い訳を動きにくい格好だったからと言われても敵わないので、春奈はそう聞いているのだ。

 

 「ふんっ!構わねぇよ!こっちはストリートファイトを生業にしてきたんだ!」

 「寧ろ普段着でやり合うこと方が多かったぞ!」

 

 「そうですか!では始めましょう...」

 春奈がそう言うと、二人の間には妙な緊張感が流れた。

 

 (始めましょうとか言いながら、アイツ全然動かねぇじゃんか!?)

 

 新は、全く微動だにしない春奈に困惑していた。

 

 元来、合気道とは自分から攻撃しない武道なのだ。その始まりは、1883年の明治16年に植芝うえしば 盛平もりへいが始めたとされている。植芝は数々の伝説を持つとされる武闘家である。その伝説の中には、7,8人が束になっても抜けなかった黒松を一人で抜いてしまうだとか、拳銃から発射される弾丸を見切って躱していただとか眉唾物も含まれている。

 

 「そっちが、動かねぇんなら...こっちから行くぜ!!」

 新は、持ち前の身体能力を活かし、天井まで跳躍をした。

 

 「オラァァーーー!!」

 

 新の迷いのない右の拳が春奈に迫る。

 

 春奈は静かにその右手を掴み取る。

 

 「何ッ!?」

 動揺したのは、新の方だ。

 

 春奈は、新の飛び掛かってきた推進力をそのままに逆に引き寄せ、新の右手を回転させる。すると、新の身体はまるで自由を奪われ、そのまま地面へと叩きつけられた。

 

 「グッッ...ハァ!!」

 

 受け身も取れずに新は低い声を上げる。

 

 「コレが、合気道の基本―――四方投げです!!」

 投げられた新をさらに身動きが取れないように固め技に移行する。

 

 「それで俺の"自由"を封じたつもりかよ...!!」

 

 「強がりは止めて下さい!!」

 「右腕は完全に取りました。貴方はもう動けません!」

 「ムリに引きはがそうとすれば貴方の腕は折れてしまいます!」

 

 春奈は自分の技に絶対の自信があった。どんな男でもこの状態になってしまえば抜け出すことはできないと自負していたのだ。

 

 「"ルール"があるから、人は傷つかないようになっているんです!!」

 「でも貴方は"ルール"を軽視している!!」

 「だから、"ルール"によって負けるんです!!」

 

 武道というモノは、長い年月を掛けて進化してきた。ルール下の元、常に最適な動きがアップデートされ続けている。それを武道の武の字も知らない新が覆すことなど不可能である。それが春園春奈の考えである。

 

 確かにルールを軽視している新であったが、春奈もまた唯我新という男を軽視していたのだ。

 

 「ルール...ルール...さっきからうるせぇ!」

 「テメェはそれに律儀に従ってるから悩んで傷ついてんだろがァァーー!!」

 

 相手があの唯我 新でなければこれで終わっていたかもしれない。

 

 そう、唯我 新でなければ...

 「この程度で俺は縛れると思ってんじゃねェーーーぞッ!!」

 

 新が吠える。獣のような叫び...雄叫びと言っても過言ではない。

 

 ボキボキと新の肩から骨が折れる鈍い音が聴こえる。

 

 新は強引に春奈の固め技を抜けようとしているのだ。

 

 「新さん...!!貴方は本当に馬鹿なんですか!!」

 

 「ウオオオオォォーーーー!!!!」

 

 何と、春奈の拘束を無理矢理解いてしまったのだ。自らの腕を犠牲にしながら...。

 

 「貴方はそこまでして...何で自由になろうとするんですか...!?」

 右腕を押さえている新を前についそんな言葉を漏らしてしまう。

 

 「決まってんだろ!コレは俺の身体だ!!俺の意思でしか動いちゃいけねぇんだ!!」

 「誰かの意思によって、縛られるなんてことあっちゃいけねぇんだよッ!!」

 

 「どうした...もう一回やってみるか!?」

 右腕が折れながらも、未だに戦意が喪失していない新を前に春奈は精神が乱れる。

 

 なんで、この人はこんなに傷付きながら、それでも闘おうとするんですか...?

 

 分からない。本当に分からない...。

 でも、これだけは言える。

 

 この人は、"今"を本気で楽しんでいるんだ。私とのこの闘いも、痛みも、感情も...自分に及ぶ全ての事象をその身で受けて、それでも抗って、抗って、抗うことそのものを楽しんでいる。この人は私にはないモノを持っている。

 

 もしかしたら、この人なら知っているのかもしれない...。

 私はどうしたいのか、どうすればいいのか...。

 

 新の覚悟を間近で見て、春奈の気持ちは固まった。

 

 「参りました...!」

 「私の負けです!!」

 

 両手を上げ、春奈は降参を宣言した。

 

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