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第215話 【番外編】不良少年と優良少女 ~生活指導編~


~神代学園 ホームルーム前 1年1組~

 

 新が春奈の生活指導を受け入れることになってから数日が経過していた。

 

 4月のGWになる前の最後の週―――今日も今日とて平和な一日が始まろうとしていた。

 

 オレは、実家の道場で竹刀の素振りをしてから、学校に登校することを日課にしている。朝の100回の素振り―――精神を統一し、集中して行うことを一日の始まりとしているのだ。

 

 そんな朝の日課を済ませて、学校の教室に入ると珍しくオレよりも早く来ている新の姿がそこにはあった。教室にはまだ数人の生徒しかおらず、そんな中アイツの放つ特有の気配というモノは目立つと言う他ない。

 

 

 「珍しいな...アイツにしては...」

 「こんな朝早くから来るようなヤツではないのだがな...」

 

 そんなヤツの殊勝な心掛けに感心すると共に何やら不気味さすら感じていた。

 

 「ん?ちょっと待て...?」

 

 オレは、よく見るといつもと少し違う新に対して違和感を覚えた。

 

 「アレ...ホントに新か...?」

 一瞬、本当に新なのかすら疑問に持つほどだった。

 

 

 見た目が"普通"なのだ。

 

 

 この学園の生徒なら...いや、一般的な高校生なら当たり前の格好をしている。新の後ろ姿がそこには立っていた。

 

 いつものヤツは、まず白い半袖のTシャツの上に自身の魂と称していた真っ黒な学ランを羽織っている。それがこの学園指定のブレザーを着ているのだ。それだけではない―――FFⅦのク〇ウドのような逆立った金髪のヘアスタイルも何処かへ消え失せ、黒く清潔感のある髪型に変わっているではないか。両耳に着けていた緑色のピアスもどこへ行ったのやら、そんなモノ最初から着けていなかったというかのように外れている。

 

 オレが呆然と立っていると、それに気づいた新が後ろを振り返り、泣きながらオレに飛びついてきた。

 「天えもん~~~!!!」

 

 やっぱり、アレはオレが普段から絡んでいる唯我新だ。

 

 新はオレの腰に縋りつくように泣きついてきた。

 

 「いや、語呂悪いなッ!!」

 

 オレはシレっとツッコミを入れる。

 

 「それにしても見違えたぞッ!!」

 「まさか春奈嬢がここまで、お前を優良男子に変えてくれるとはな...」

 

 昔、オレがやろうとしたが、途中で面倒臭くなって辞めたことを春奈はやってくれたのだ。

 「あんな可愛い子に更生させてもらっているんだ!!良かったじゃないか!」

 「道場でも彼女は周りに対して献身的な世話をしてやることがあって、門下生からは天使なんて呼ばれていたりするぞ!」

 オレは泣いている新の顔を見ながら、そう言った。

 

 「いや、あの女は...悪魔だ!」

 「俺から...俺から"自由"を奪っていく!!」

 

 「見ろよ!今の俺のこの"しゃばい"格好!!」

 「こんなしゃばい男が...伝説の不良とまで言われた唯我新様であっていいわけねェんだよォーー!!」

 周りの生徒がオレ達を見つめるくらいの叫びだった。

 

 「この数日間、思い出すだけでも嫌な日々だったぜ...!!」

 

 「放課後、コンビニで飯を買って食べながら歩けば、買い食い禁止だとか...!」

 「白飯を素手で食べてたら、行儀が悪いだとか...!」

 「遅刻しそうだから、屋根の上を飛び移って学校に向かっていたら、地面に降りて登校しろだとか...!」

 「他校の生徒に因縁つけられたから、手が出そうになった時も暴力はいけないとか言いやがって、逃げるハメになったとか...!」

 「潮風が浴びてぇからバイクで走り出そうとした時も何故か後ろにいて、バイクは禁止ですとか言いながら、お気に入りのバイクを廃棄させられたとか!!」

 

 「それもコレも、アイツが二言目に、"言うことを聞かなかったら天童君に言いつけるから!!"って言うんだぞ!!」

 

 「ふざけんじゃねェーーよ!!」

 新は泣きながら、地面に拳を打ち続けていた。普段から自由気ままに生きていたコイツのことだ。相当、精神的に堪えているのだろう。

 

 

 「まぁ、コレもお前のことを想ってやってるんだろ?」

 「大体、新...!お前はなぁ常識的に考えて、常識的な人間じゃないんだよ!」

 「そんなんじゃ、高校卒業した後どうするんだよ!」

 オレは、親友としてコイツの高校卒業後のことが心配だった。勉学は全然できないのは仕方がない。スポーツ選手にでもなる?いやいや、コイツがルールを守るとは思えない。野球でもやらせたら乱闘にでも発展しかねん。よくよく考えるとこんな身体能力に極振りしたようなヤツがどうやって社会に溶け込めるというのだろうか。それこそ、迷惑系Youtuberにでもなられたら、胸糞が悪くなる。

 

 だから、春奈の生活指導はオレにとっても有益であることには違いない。それなのに当の本人ときたら...。

 

 「そんなモン何とでもなるだろ!!」

 「今が楽しけりゃそれでいいじゃねェーーか!!」

 

 これだもんな...。

 

 「新さん!!うるさいですよ!!」

 「貴方の声が5組まで聞こえてきました!!」

 話をしていたら本人―――春奈が駆けつけてきた。

 

 「ウ、ウワァァーーーー!!」

 「で、出たァァーーー!!!」

 まるで、幽霊に遭遇したかのようなリアクションを取る新。

 

 「出たとは何ですか!?出たとは!?」

 春奈は1組の敷居を跨いでズンズンと新に近づく。

 

 「な、なぁ!天童!!もういいだろ!この女に何を言われても、俺に昼飯は作ってくれよ!!」

 オレの方を振り向きながら、新は涙目でそう懇願する。

 

 「そうは言っても、オレも春奈の爺さんには世話になってるしな...その孫娘の頼みを無下には出来ないだろ!」

 

 「天童君!甘やかさないでくださいね!!」

 ニッコリと黒い笑顔を浮かべる春奈―――下手したらこっちにまで火の粉が飛んできそうだ。

 

 「ん?あぁ分かってるよ!」

 

 「天童ッ!!天童オォォーーー!!!裏切ったなァァーーー!!」

 

 春奈に首根っこを掴まれ、引きずられて行く新―――それがヤツの最期の叫びだった。

 

 「イヤッ!!勝手に殺すんじゃねェーーーよ!!」

 ナレーションにツッコミを入れる新だった。

 

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