第210話 それでもオレ達はこのクソッタレな世界で生きていく
~クロヴィス城 城内~
「あの二人...別次元の闘いをしているじゃないか...」
フラムは二人の闘いを見て、呆気にとられていた。
真祖の力を解放させた未央に対して、最強の細胞の力を解放させた進―――両者はそれぞれ白と黒の閃光となって、互いに衝突を繰り返していた。
二人の間で何を話していたのか...フラムは勿論のこと、六魔将達にも分からなかった。
唯一人、唯我 新を除いて...。
「アレが天童の身体の細胞が起こしてんなら、俺の中にも同じことが起こる可能性があるって訳かよ...」
「視えざる者...ふざけやがって...!!」
新は親友の変わり果てた姿を見て、視えざる者に対する怒りで震えていた。
『オレには元の世界もこの世界が濁って見える!!濁って濁って濁って!!』
『反吐が出る程になッ!!』
『だからオレはこの手で全てを一片の濁りもない"白"に変えてやろうと前々から願っていた!!』
『しかしいつもいつもススムは、寸での所でブレーキを踏んでいた!中々、身体を明け渡そうとしなかった!』
『それは貴様のせいだッ!!』
『そうだ!オレにとって未央、貴様は目障りなんだよォ!!』
「そんなことアンタに言われる筋合いはないわ!!」
「私はただ、元の進ちゃんに戻って欲しいだけ!!」
「アンタがそれを邪魔するっていうなら、私は全力で抵抗するだけッ!!」
超スピードでぶつかり合う二人、炸裂し合う白と黒の魔法、次元の違う闘いを繰り広げていた。
「魔眼発動!!」
未央は、橙色の魔眼を発動させ、白い存在を視る。相手の過去を視ることのできる未央は、相手の能力を視るだけでなく、行動履歴から動きを予測することができる。
「どんどんステータスが上昇している...」
既に進のステータスは4桁を突破しており、その力を測ることは困難になっていた。
モレクから取り返した王権―――ドラコミシアとクロヴィスの王権、二つの王権が進のステータス上限を突破させている。
このペースで上昇を続ければ、あと数分もしないうちに私の真祖の力を追い抜く。
その前に決着を付けなければ、私の負けになる。
「燃えてきたよ♪」
「私めっちゃ追い込まれてるけど、こんな状況を待っていたのかもしれない!」
次に進が目の前に迫る時、それで全てが決まる。
チャンスは一回、それに全てを賭ける。
未央は"覚悟"を決めていた。
『聖皇剣技:神天聖皇覇剣!!』
未央の上空に巨大な白く輝く光の剣が無数に出現する。それらが一つの巨大な剣となり、未央目掛けて突き刺さろうとする。
来たッ!!
未央は、進の動きを観察した。極限まで集中することにより、未央には進の動きがとてもスローモーションに感じる。
既に自身に降りかかろうとする進の技など気にも留めていない。狙うは、進の顔―――そこ目掛けて、駆け抜けようとする。
「吸血気法:真血速!!」
吸血気法は自身の体内の血液を代償に発動することのできる技である。未央が真祖状態となった時に使用することができる。血液を代償にする為、高い効果を発揮することができる。
真血速は自身の体内の100cc消費することで、一瞬だけ光速で移動することができる。
人体の血液量は体重にもよるが、普通の人で4000~5000ccとも言われている。その20%~30%の血液を失うと人体は危険な状態へと陥る。
真祖の力を持つ未央は体内に血液を貯め込む事ができる為、常人の3~4倍の血液を保持することが出来る。それでも3000cc以上の血液を一度に失うことは危険だと言える。
吸血気法はそれだけ危険な技であるのだ。それ故に、効果は絶大―――一瞬で、未央の手は進の顔へと届く。
『な、何をするッ!!』
「進ちゃん!!そんなヤツの言いなりにならないでッ!!」
「ホラ!私はここにいるよ!」
「もうどこにも行ったりしないから...」
「だから...戻って来てよォォーーー!!!!」
未央は変貌を遂げた進に対して、必死に訴えかける。
『そんなことを語り掛けても無駄だ!もうヤツが起きることはない!!』
『オレはこの身体を使って全てを白に変える!!』
『貴様のような漆黒―――濁りも消し去ってやる!!』
真っ白と化した進は、笑いながら言い放つ。自らの力に相当な自信があるようだ。
しかし、もうそんなことどうでもいい―――次の未央の一撃で決まるのだから...
「あっ、そっ!」
「アンタがこれから何をしたいかなんてもうどうでもいいよ...」
「私に掴まれた時点で、アンタはもう終わってんのよ!」
『何だと!?』
『オレは幾多の天才の細胞が結集した最強の細胞、そこから生まれた至高の存在だ!!』
『そのオレが終わるだと!?』
『魔王がどうした?真祖がどうした?』
『その程度の存在がこのオレを消し去れるハズないだろッ!!』
「そっちこそ、最強の細胞だ?至高の存在だ?」
「笑わせないでよッ!!」
「こっちは魔王になる前も真祖になる前も幼馴染やってんだよォ!!」
「戻って来いよッ!!進ちゃん!!」
「アンタは天才 天童進でしょ!!」
「どんな逆境も逃げずに立ち向かう男なんだろォ!!」
必死に叫ぶ未央―――その未央の瞳から涙が零れる。
「黒魔法:黒の雫!!」
未央の掌から、一滴の黒い雫が落ちる。その雫は進の身体に落ちると途端に全身を"黒"が走る。
まるで、液体に落ちる絵の具のように黒色の波紋が広がる。
『何だ...?ヤメロッ!!黒いモノが...濁りが、オレの中に入ってくる...!?』
白い進は突如として、怯えるような態度を取り始めた。
『白だ!!白で塗りつぶせばいいんだ!!』
『白魔法の光よ!!オレに力を貸せッ!!』
『白魔法の力でこの醜い濁りを消し去ってやる!!』
白い進は白魔法を発動させようとした。
『白魔法...』
「いい加減にしろよ!」
進の左手が自らの右手を押さえつける。
『ッ―――!?』
『ススム...貴様まだ意識があったのか!?』
「お前はもう黙ってな...!!」
「未央が泣いてんだろ!!」
白魔法は発動しない―――ドンドン進の身体を黒が侵食していく。それに伴って、白い進は苦しみ悶えている。
『ウグググゥゥゥ!!!グウアアアァァッ!!!』
『いいのか?ススム...このままオレを封じ込めて?お前の力はあのお方...視えざる者から授けられたモノだ!!』
『オレを封じ込めるということは、あのお方に逆らうってことだぞッ!!』
「貴様と未央の会話ずっと聴こえていた...!」
「オレはもう迷わない...!!」
「オレは前も今もそしてこれからも、誰からの挑戦も受ける!!」
「視えざる者だろうが、関係ない!闘ってやるだけだッ!!」
『その言葉、後悔するなよォォォ!!!』
そう言い残すと、オレの中の白い存在は消えていった。恐らく、まだオレの中で眠っているだけだろう。
だけど、オレはもう迷わない。アイツの力に頼ることなく、生きてやる!!
「未央...ありがとう...!!」
「へっへ~ん!!どうよ!進ちゃん!!」
「私スゴイでしょ?」
誇らしげに胸を張る未央、今日は敢闘賞を与えたい気分だ。
「ああ...本当に助かった!」
「危うく、アイツに飲み込まれるところだった!!」
「まぁね~!!」
「でも絶対に戻ってくるって私は信じていたよッ♪」
徐々に未央も"真祖"の姿から元へと戻っていった。
「いや~大変だ...った...ね?」
「カハッ!!」
突然のことで、オレは唖然としていた。
ホッとしたその瞬間、一人の男が未央の背後に迫っていることにオレは気付かなかった。
目の前で、未央の心臓が抉り取られたのだ。
六魔将の一人サンドルの手によって...。
「油断大敵だよ...?ススムク~ン!!」
ニタニタとした表情を浮かべるサンドルがオレの目の前に現れた。
未央の傷口は明らかに致命傷だ。いくら魔王の力を持っているからと言っても、コレは回復できるか怪しいところだ。
「サンドルッーーーー!!!!」
どうやら、神様ってヤツはトコトン、オレを闘わせたいらしい―――このクソッタレな世界で...。