第206話 【白と黒の一騎打ち】天才 天童 進 VS 魔王 真島 未央②
~クロヴィス城 城内~
"オレにとって未央はどんな存在なのだろうか..."
その存在は、オレの中の正義とどちらがより大切なのだろうか...
1000人の見知らぬ人の命と未央の命どちらを助けるか選択しなければならなくなった時、オレはどちらの命を優先するだろうか
オレは愛する人と己の正義どちらを優先するのか...
オレは、この世界に来て、未央と再会するまでに再び胸を張って再会できるような行動を心掛けてきたつもりだ。
しかし、それを先ほど未央にハッキリと否定されてしまった。
オレの行動は間違っていたのだろうか?
「それじゃあ、進ちゃん!行っくよ~♪」
先に動き出したのは、未央の方だった。戦闘に関してはずぶの素人故、逆に動きが読めない。恐らく、いきなりとてつもない力を手に入れたことで浮かれている面もあるのだろう。
「我が魔力を顕現し、森羅万象全てを飲み込む渦となれッ!!」
「黒魔法:黒穴!!」
(そんな口上は言わなくても、放てるのに...未央のヤツ、この闘いを楽しもうとしているのか...?)
前魔王アリスは傍らの未央の闘いぶりを見ながら、そう感じていた。
進の前方に巨大な黒い渦が出現し、周囲の瓦礫を飲み込み始めた。黒い渦は、容赦なく進を飲み込もうと音を轟かせている。
それどころか、進と未央の闘いを観戦している。マリー達や六魔将たちをも吸い込もうとする。
「未央ちゃんまさかこっちのこととか、考えてねェんじゃ...!?」
「空魔法:空間断絶!!」
ジャハンナムのベリヤが自らの剣で一閃を放ち、進達と自分たちのいる側の空間を切り離した。
「オイ!!テメェ何しやがった...!!」
新はベリヤに対して胸ぐらを掴み、問い詰めた。
「こ、これで...未央様のいる方の空間をとこちらの空間を切り離したでござるッ!!」
「未央様たちがあっちでどんな規模の魔法を放とうが、こちら側には影響ないでござる!!」
「テメェ...!?」
ベリヤのこの行動は、ジャハンナムだけでなく、新達をも助けるような行為―――何故、ベリヤは敵である新達を助けるような行動に出たのか、新は疑問に思ったのだ。
「アラタ殿とは、約束がある故...それにこのままでは、ヴィクトル殿にも危害が及ぶかもしれないでござる...!!」
真剣な顔でベリヤは答える。
「結界術:自動構築障壁!!」
六魔将側も低級の魔族たちは下手をしたら飲み込まれてしまう。六魔将クラスだとそこまで影響はないが、サンドルは自身を飲み込もうとする未央の魔法の煩わしさから、結界を張り巡らせた。
しかし、こうなってくると、未央の放った黒穴は進のみを吸い込もうとする。
「未央のヤツ...殺す気はないとか言いながら...これ飲み込まれたら死ぬだろ...」
軽く苦笑いをしながら、魔眼と解析のスキルを発動させ、未央の魔法を観察する。
(以前、サンドルが言っていた、第一級希少魔法―――それが未央の使う黒魔法とオレの使う治癒の白魔法)
この闘い自体に何かしらの因縁めいたモノを感じる。
「あの黒い渦は無限に全てを飲み込む魔法―――飲み込まれたものは圧縮され続け、永遠に暗黒空間を彷徨い続けることとなる。解除する方法は、詠唱者が魔法を解除するしかない。クールタイムは、30秒、消費マナもそこまで高くはない。その吸引力は使用者の魔力の高さに依存する―――魔王クラスが使用すれば、それはまさにチート級...」
進が脳内で解析した結果をブツブツと呟き始める。
無限に吸い込み続ける黒い球体か...
さながら、本物のブラックホール...
「解除方法がない...?無限に吸い込み続ける...?」
「だったら、こちらも無限のエネルギーを用意すればいいだけのこと...!!」
「極大白魔法:無限光子撃!!」
モレク戦の最後に使用した極大白魔法―――光のエネルギーを無限大に増幅させ続けるオレのオリジナル魔法...
六魔将たちの目の前で見せるのは、本当にイヤだがこれしか対処方法がないとなれば、仕方がない。
モレク戦の最後では、やっとの思いで作り出し、新の手を借りてやっと放った魔法だが、既に進の頭の中では、処理の簡略化に概ね成功していた。
「魔法とはプログラムに似ている―――結局、頭の中で構築する魔導式を簡略化することができれば、脳内の負担を軽くすることもできる...!」
「オレなら一度放った魔法を、さらに魔力制御の負担が軽いモノに変えることだってできるッ!!」
「やるじゃん!!それでこそ私の自慢の幼馴染だッ!!」
未央は悔しさと誇らしさ両方を内在した表情を浮かべた。
無限に全てを飲み込む未央の黒穴それに無限のエネルギーを生み出す進の無限光子撃―――相反する二つの力が反発し合い、強烈な光が辺りを照らし、二つの魔法はその場で消滅した。
「未央...よそ見をしていて大丈夫か...?」
進は既に、未央の背後へと回り込み、神聖剣を振り下ろしていた。
「大丈夫だよ♪」
「進ちゃんなら、そう来ると確信していたからッ!!」
未央も反撃するかのように、闇黒剣を切り上げていた。
二つの光と闇の剣が交差し合う。
「初めに君と出会った時、オレは弱かった!!」
「あの時、オレは父さんの厳しい教育に耐えかねてあの公園へやって来ていたッ!!」
「今でも君と出会えたことをオレは運命だと思う!!」
激しく神聖剣左右から斬り込み、未央へと語り掛ける。
「そうだね...私も進ちゃんと出会えてよかった!」
「進ちゃんと一緒にいた時のことは、今でもいい時だったと思うよ!」
「他の人が聞いてくれないような私のオカルト話だって、なんだかんだいつも付き合ってくれた!!」
「多分、アレが私たちの日常だったんだよね!!」
進の激しい斬り込みを魔眼の力を頼りに防ぎきり、進へと返答する。
「オレはいつものような日常に戻りたいッ!!」
「未央だって、そうだろ?」
それは進の本心―――しかし、オレの裏での活動を知ってしまった今の未央も同じ思いとは限らない。それでもオレはオレの素直な気持ちを言わずにはいられなかった。
「戻りたいに決まってるじゃんッ!!」
「私だってあんな楽しい日常を簡単に捨てられるわけがないよ!!」
「新君がバカなことをして先生に怒られたり、鏡花ちゃんがたまに部室に顔を出しておしゃべりに付き合ってくれたり、花ちゃんと一緒にオカルト研究したり、進ちゃんと色んな所に遊びに行ったり、オカ研のみんなで一緒にワイワイしたり、それが私の日常だよ!!」
「でも進ちゃんがこれ以上、他の誰かを殺したりするのは、もっとイヤだ!!」
「黒魔法:黒の衝撃!!」
未央の右手から黒い稲妻が発現し、オレに向かって放たれる。
「チッ、そっちが稲妻なら...」
「黄土魔法:土壁!!」
瞬時に進の前に土の壁が生まれたが、未央の魔法によって、脆くも崩れ去った。
「電気なのに、土壁をこんな簡単に砕くか...」
それ程の威力、もしダイレクトに当たったら、簡単に気絶してしまうだろう。
「聖剣技:空羅烈護破!!」
「暗剣技:暗黒崩壊剣!!」
進の聖剣技と未央の暗剣技―――二人の剣技が衝突する。
「未央...お前は剣術に関しては、ド素人...いくらスキルで補正しようが、このオレには勝てんぞッ!!」
勿論、未央は剣技に関してはド素人、それでもスキルの力によって、並みの敵だったら圧倒することは容易い。しかし、相手は天才 天童進、ステータス上は上回っていても、生半可な剣技が通用するわけはない。徐々に進の聖剣技に押されていく。
「ウウッ...進ちゃんはやっぱり強いや...!!」
「キャアアッーーー!!!」
進の聖剣技の光に飲まれていく。ついに進は魔王 真島未央へ一撃を入れることに成功した。
しかし、二人の闘いはまだ続くのであった。




