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第201話 一難去ってまた一難


~クロヴィス城 城内~

 

 モレクとの決着が着き、倒れるモレクを囲むようにジャハンナムとオレ達は立っていた。

 オレ達は倒れるモレクの最後の言葉を聞いていた。もうじき、モレクの身体は完全に崩壊し、灰となる。その僅かな時間を共にするため、ジャハンナムの者達は、それぞれモレクとの時間を大切にしていた。

 

 ジャハンナムの処遇は、オレ一人の意思だけでは決定できない。それは後で相談する。

 

 「終わったのだな...」

 

 クロヴィスの王レオがそう呟く。

 

 そう終わった...

 

 ここにいる誰もが思ったことだった。

 

 あとはモレクから、取り返したクロヴィスとドラコミシアの王権をそれぞれ返せばいいだけだ。

 

 オレも王権は必要だが、それはアドミニストレータと闘う時に必要というだけで、今は別に必要ない。

 

 とりあえず、クロヴィスの王権をレオに返そうとしたその時だった。

 

 オレの頭の中に声が聞こえてきた。それはシステムの声でもアドミニストレータの声でもない、不気味なほどの威圧感のある男の声...

 

  "久しぶりだな...!最強の細胞を持つ者達よ!"

 

 オレは咄嗟に辺りを見回した。しかし、誰もオレに話しかけてはいない。

 

 しかも、よく見ると新もオレと同じように辺りを見回していた。ということは、この声が聞こえているのは新もということになる。

 

 オレは新と目が合う。お互いにこの声が幻聴ではないことを確信する。

 

 オレはこの声に聞き覚えがある。

 

 それは、以前新と一対一で闘った時に最後に聞こえてきた声だ。

 

 

  "貴様は以前、新との闘いの時に聞こえた声の主か!?貴様は何者だ!?何故オレ達の脳内で話しかける?"

 

  "天童オメェもこの声を知ってんのかよ!?俺もテメェの声は知ってるぜ...!そうだ...確かメルクロフと最初にやり合った時に聞こえてきた声だッ!!"

 

 どうやら、オレ達の声も脳内でリンクして聞こえているらしい。新の声も同時に脳内で聞こえてきた。

 

  "ククク...そうだッ!貴様ら二人は同じ最強の細胞を持つ者...!!だから、オレの声が聞こえる!チャンネル・・・・・が繋がっているってことさ...!"

 

  "前から聞きたかったが、その最強の細胞とやら...それはオレの体内を流れるあらゆる種族の血のことを言っているのか?"

 

  "そうかモレクが教えてくれたのか...!その問いにはYESと回答しておこう!"

 

 やはり、そうか...オレは次第に点と点が線として繋がり始めてきた。

 

  "オイ!天童ッ!何か分かったのか!?"

 

 新はオレにそう尋ねてきた。この男が言う最強の細胞とは、オレ達二人に流れているあらゆる種族の血液、細胞...DNAのことを言っている――――そうだ、オレだけじゃない、新にもその細胞が埋め込まれている。

 

  "新...冷静になって聞いてくれッ!どうやら、オレ達は人間じゃないらしいッ!!"

 

  "ハァ?な、何言ってるんだよ...天童!?えっ、だってどう見たって俺達は人間だろ...??"

 

 流石の新もオレの発言に動揺を隠しきれていない様だ。

 

 考えてもみれば当たり前のような気もしてくる。どこにあらゆる武術を極め、一目見ただけでどんな情報もインプットし、いつでも最適解をアウトプットでき、当たり前のように異世界のスキルや魔法を使いこなす人間がいるだろうか?どこに自由に空を駆けまわり、縦横無尽に動けて、車を持ち上げたり、車に轢かれてもピンピンしている人間がいるだろうか?

 

 モレクは言っていた。

 

  "必ず何かしらの理由が存在する"

 

 と、今になって思えば奴は気がついていたんだ。オレ達が二人とも同じ最強の細胞とやらを持っていることを...。

 

 その証拠に奴は新を初めて見た時にこう呟いていた。

 

  "何という偶然か...いや、作為的と見るのが正しそうだな..."

 

 と...偶然ではなく、作為的...これはそう意味だったんだ。

 

  "そんなこと信じられっかよ!!俺達は人間だッ!!誰が何と言おうとそれは変わらねェ!!"

 

 新は脳内で声を荒げていた。そりゃそうだ。だってオレ達が人間でなければオレ達を産んでくれた母親はどうなる。オレ達はどうやって生まれた?

 

  "まぁまぁ新よ!そう声荒げるな...!生物学的に見れば、貴様たちは人間だ!しかし、超自然的観点で見た時にそれは人間のそれではないという話だ!"

  "まぁ進の方はある程度、オレの正体に気が付いてそうだがな...!!"

 

  "オイ...!!天童!アイツについて何を気が付いてやがるッ!!俺に教えやがれェ!!今からぶっ飛ばしに行くぞッ!!"

 

  "まぁ新、落ち着け...!オレも完全に奴が何者かは知らない...!しかし、手掛かりはある!!そして、オレ達は恐らく、同じだ!"

 

  "同じだァ??そりゃどういう意味だ!?"

 

   "同じというのは、同じ父親を持つってことだッ!!!"

 

  "ハァ??同じ父親だって...?そんなこと...でも確かに俺は親父の名前と顔を知らない..."

 

 

  "そうだ、新...お前はオレの腹違いの兄弟ってことだッ!!"

 

  "俺と天童が兄弟...??"

 

 新は理解が完全に追いついていなかった。

 

 

  "ハハハハハッ!!進、貴様は正解だッ!!よく分かったなッ!!"

 

 謎の男は上機嫌に笑う。本当に癪に触る奴だ。

 

  "そうだ!!貴様達は兄弟だ!!同じ血を分けた兄弟!だが、その血の密度、配分の差はあるがな...!!"

 

  "そうだ貴様を知る手がかり!!それはオレの...いや、オレ達の父親だッ!!"

 

  "俺達の父親...それってまさか...!?"

 新はゴクリと生唾を飲み、オレの次の言葉を待っていた。

 

  "そう...他の追随を許さず、同業他社を圧倒するその経営手腕、無駄を躊躇なく斬り捨ててくる超合理主義、突如と現れては全ての利益を自らの手中に収めることから"天災"と呼ばれた男―――天童グループの頂点、天童てんどう まことだ!!"

 

 

  "オレ達は作られたんだ・・・・・・あの男、そしてコイツ等によって...!!"

 

 そう、オレは確信していた。そして、間違いなくスターリン-キル...アイツの出生にもあの男、天童真は関与している。

 

 

  "そうだ!!そこまで思考が至っているなら、あとはオレからは何も言うまい...!!"

 

  "さぁ聞こえてるんだろ!!アドミニストレータッ!!いや、女神アーク!!"

 

  "アドミニストレータだと...!?"

 オレはその名前に強く反応を示した。

 

 

  "うっさいわね...!そんな大きな声で言わなくても聞こえてるわよ!!"

 

 アドミニストレータの声もさらにオレ達の会話に入ってきた。

 

  "進ちゃん久しぶり~!!そして、新ちゃんはエレベーターに乗った時以来かしら?"

 

 こんな時でもこの女はふざけたテンションで会話に入ってくる。

 

  "エレベーターの時以来ってお前...まさかあの不気味な髪のなげー女かよ!?"

 

 そうか、新はそんなに詳しくは知らなかったな。基本的にアドミニストレータと関わっていたのはいつもオレだけだった。新にもその話はそこまで詳しくはしていなかった。

 

 

  "女神アークよ!着々と貴様を消し去る準備は整っている!"

 

  "そんなこと百も承知よ!来れるもんなら来てみなさいよ!!"

 

 アドミニストレータはこの男のことを知っていたのか...そうか、確か前に聞いた時、言葉を濁されたな。

 

  "オイ!アドミニストレータ!貴様もこの声の男について知っているんだな!?答えろ!コイツは誰だ!!"

 

  "無駄だ!進よ!女神アークは知っていても教えない...いや、教えられないのだ神のルールによってなッ!!"

 

  "まぁそういうこと...前にも言ったけど、この男は私とは無関係なのよ!だから、それを他の誰かに言う権利はないのよ!知りたかったら自分で調べないとね!"

 

  "本来は、コイツとは違うチャンネルで進ちゃんと会話していたのに、強引にチャンネルを合わせてきたわ...全く...今度からは対策しないといけないじゃない!!"

 

 アドミニストレータは、少し不機嫌そうにそう呟いた。

 

 "ハァ...もういいでしょ...!私は貴方とは話をしたくないのよ!!ここでチャンネルを切断させてもらうわ!!"

 

 そう言い、アドミニストレータの声は聞こえなくなった。

 

  "フン、あの女本当にチャンネルを切断しやがったな...じゃあ、そろそろオレが貴様らに話掛けた目的を実行するぞ!"

 

 男はそう意味深なことを言いだした。

 

  "何を言っている...?"

 オレはそう聞いた。

 

  "進よ!目の前のモレクを殺せッ!!"

 

 この男いきなり何を言っている。既にモレクは死に体...あと数分もすれば勝手に死んでいく存在だ。それを何故わざわざトドメを刺すようなことをさせる?

 

 オレの中で疑問が膨れ上がった。この男がそう言うということは、何かしらの意味がある。考えろ...オレは必死に考えた。しかし、それは無駄な事だった。身体が勝手に動き出したのだ。そう、オレはこの時、神聖剣セイクリッドブレードを振り上げていた。既に死に体のモレクの前で...

 

  "オイ!天童何をしてやがる!!そんな奴の言いなりになるつもりか!?"

 

 新が脳内で必死に叫んでいた。

 

  「ススムさん...?」

 隣にいたマリーもいきなりのオレの行動に困惑している。いや、マリーだけじゃない、周りにいた全員がオレに視線を合わせていた。

 

 

  "ち、違う...身体が勝手に動くんだ!!"

 

 

  "貴様ァ!オレに何をした!?"

 

  "いや、オレは何もしていないさ...!!"

  "それはお前の中の正義が出した答えだ!スターリン-キルの時も同じだったろ...?オレはこれからお前がどうするか見に来たんだ!"

 

 謎の男はそう言った。オレがこれから何をするか見るだって??

 

 これが、オレの正義の答えなどではないッ!だって...モレクはオレの中の正義には反していないのだから...。

 

  "いや違うな...!お前の中の正義はモレクを斬ると判断した!!"

 

 モレクは今にも閉じそうな瞳でオレを見てきた。

 

 「進よ...躊躇うな!私は"敗者"だ!!私を斬れッ!!」

 

 「モレク様!!」

 隣でしゃがんでいたメルクロフは強く反応したが、モレクはそんなメルクロフを制止する。

 

 

  "そうだ!!斬れッ!!"

 

 モレクは気が付いてるんだ。今、オレの中で誰かがそう囁いていることに...!それをこの男は...!オレの中で沸々と怒りが湧いてくる。

 

  "テメェ...!"

 

  "ウソだろ...?身体が動かねぇ...!!"

 

 新も自由に身体をコントロールできていないようだった。

 

  "新よ...お前には邪魔されると面倒なのでな...少しオレの方で邪魔させてもらう!"

 

  "テメェ覚えてろよ!!俺は自由を奪われんのが大っ嫌いなんだよォ!!"

 

  "ああ...知ってるよ!だってお前たちを作ったのはオレ達・・・なんだもんな"

 

  "さぁ進よ!!邪魔は何もない!!思い切って斬るのだ!!"

  "斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!斬れ!"

 

 オレの脳中で男は何度も何度も繰り返しそう言ってくる。

 

 「違う...コレはオレの"正義"じゃない...!?」

 オレは小さな声でそう呟いていた。

 

  「ヤメロッォォォォ!!!!」

 

 オレの叫びとは反対にオレの手は神聖剣セイクリッドブレードを振り下ろしていた。

 

 「そうだ...それでいい"英雄" 天童進よ!!」

 モレクは最後にそう言った。モレクの身体は神聖剣セイクリッドブレードの衝撃と共に全て灰となって風に流れていった。

 

 「ウオォォォ!!!!!」

 

 「こんなものはオレの正義じゃない正義じゃないんだッ!!!」

 

  "いや、進よならば逆に問おう!?貴様の正義は誰が判断したモノだ?どういう判断基準で今まで行ってきたのだ?貴様は結局自分が納得したいだけなのではないか!?"

 

  "オレは...オレの信じた正義を貫いてきたッ!!間違っているハズが無い!!"

 

  "本当にそうか?それは誰かによって、刷り込まれたモノじゃないと断言できるのか?"

 

  "それは..."

 

  "そうだ!断言できないのであろう...!であれば、そういうことなのだ...貴様の中の正義など、幻想にしか過ぎないのだッ!!"

 

  "まぁ良いモノは見れた...!オレはこれで失礼させてもらうよッ!!"

 

  "待て!貴様は誰だ!!"

 

 オレは両の瞳から涙を流し、怒りを隠しきれていなかった。

 

  "そうだな...今は、視えざる者バニッシュマンと名乗っている!!"

 

  "オイ!視えざる者バニッシュマン!貴様はオレがいずれ必ず斬るッ!それだけは覚えていろ!!"

 

  "天童!俺のことも忘れんじゃねーよ!!オイ視えざる者バニッシュマン!俺もテメェをぶっ飛ばすからな!覚えとけッ!!"

 

  "クックック...ああ最強の細胞を持つ者達よ!覚えておこう!楽しみにしているぞ!!"

 それからあの男の気配は完全に消えた。

 

 オレと新は完全に意気消沈していた。そんな時だった...

 

 運命とは残酷なモノでさらにこれから、容赦なくオレ達を困らせる展開となるのだった。

 

 いきなり、10メートル程度離れたところから、巨大な魔力を感じた。オレはそれに反応して、視線を合わせる。

 

 すると、そこから空間にビリビリと亀裂が入り、一人の女の子が現れた。

 

 それは、オレが良く知る人物...そして、オレがこの世界に来た目的だ。

 

 「あっれ~進ちゃんじゃん!!それに新君まで!」

 「えっ、なんでここにいんの~??」

 

 

 

   "オレ達の前に魔王 真島未央が現れた..."

 

 

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