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第200話 【番外編】不良少年と優良少女 ~出会い編~


~K県K市大和町~

 

 それは、まだ桜が散る前の4月の中頃の出来事だった。

 

 私立神代学園に入学式を終えて間もない新一年生や2年生、3年生が数多く通る通学路―――その道を完全に逸れて、近隣住宅の屋根伝いに登校をしている一人の男子学生がいた。

 

 伝説の不良として、県内の中学校の不良たちを纏め上げて名を挙げていた男―――ツンツンの金髪にピアスをしている見るからに不良、それが唯我新である。

 

 ずば抜けた身体能力を持ち、自由を愛する男である。

 そんな彼は、入学して2週間余り、既に学校に遅刻しそうになっていたが故に、通学路のショートカットに及んでいたのである。

 

 「やっべ~遅刻しそうだ~!!」

 

 彼は、別に遅刻することをそこまで悪いとは思っていない。高々、数分、数時間遅れたくらいで怒る教師のことなど毛ほども気にしてはいない。

 

 新が恐れているのは、新が遅刻したことによって、不機嫌になる進だった。

 

 「天童は、俺が遅刻すっと昼飯作ってくれねェからな~!」

 

 などと新がぼやいていると、下の方から不良が恫喝するような声が聞こえてきた。

 

 (何だァ~?)

 

 こういう荒事に対して異様な嗅覚を示す唯我新、そっと屋根の上からその様子を伺ってみる。

 

 「テメェ!金持ってんだろ!?」

 「さぁ出せよ~!!」

 

 完全に人目のない路地裏、そこで気の弱そうな学生が一人いて、二人の不良からカツアゲを受けていた。しかも、神代学園の制服を着ているということは、同じ学校に通う学生なのだろう...まぁ自分は指定の制服ではなく、学ラン着ているけど...

 

 「ッ――――!!」

 

 気の弱そうな学生は、震えて声も出せずにいた。肩をブルブルと震わせて今にも小便をちびりそうなそんな雰囲気。

 

 「しょうがねぇな!」

 「天童にはなんて言い訳すりゃいいか分かんねぇけど...行くか!」

 

 新はそういう弱い者イジメを嫌う―――やはり男ならば自分と同じかそれ以上の者と喧嘩をする。それが真の男だと常々思っていた。だから、そういうつまらない・・・・・カツアゲは見過ごすことができなかった。

 

 新が下にいた学生を助けようとしたその瞬間、一人の少女がその不良少年たちの前に現れた。少女は肩くらいまである黒髪、如何にも清楚なお嬢様という気品さを感じさせる。

 

 「貴方たち!その方に何をなさっているのですか!?」

 

 同じく、神代学園の制服を着ているってことは、あの少女も同じ学校に通っているのだろう。

 

 「あぁ...なんだァ!?ネェちゃん!」

 不良たちは突然現れたその少女の方を向いて歩きだした。

 

 「そこの君!?早く逃げなさいッ!!」

 そう言われた、カツアゲに遭っていた少年は走り出して逃げた。

 

 「お、オイ!アイツ逃げてくぞッ!」

 不良の一人がそう言った。

 

 「あぁ、でもアイツはいい...!また学校でも会えっからな!!」

 「でもこのネェちゃんは気に入らねぇな!?」

 「俺たちの邪魔をしやがった!!」

 一人の図体のデカい方の不良がその少女へと迫る。その少女は微動だにしない。

 

 何か、武術でも習っているのか、構えが素人のそれではない。

 

 「オイオイ...アイツ女に手を出す気かよ!!」

 

 図体のデカい不良は容赦なく、拳を少女へと振り上げる。

 

 俺は流石にこれ以上は見過ごせないと思い、屋根から飛び降りた。そして、そのまま上空からの踵落としを図体のデカい不良へと決める。

 

 「グへェ!!!」

 

 男は喉から出る低い音をあげ、その場に気絶した。

 

 「誰だよ!!テメェは!!」

 仲間の不良が倒れたことでもう一人の不良が俺にそう言ってきた。

 

 「あぁ?俺か?俺は唯我新だッ!!」

 「オメェらが女に手を出そうとしていたから止めに来ただけだッ!!」

 「女殴んのは男の風上にも置けねぇなッ!!」

 

 新は右手をボキボキと音を立てて鳴らしながら、二人へと迫っていく。

 

 「オイ...まさか...唯我新って言ったら、あの超人の唯我新・・・・・・・・か?」

 二人の不良たちが次に見た光景は病院の天井だった。

 

 「オイ!ネエちゃん大丈夫か?」

 俺は少女の身を尋ねる。まぁ殴られてはいないだろうが、一応聞いておいた。お袋からは女の子は大切にしろと口うるさく言われていたからだ。

 

 「えぇ...私は大丈夫です...!」

 「でも、そこの二人は...!?」

 路地裏に倒れている二人の不良を指差しながら、聞いてきた。中学時代の癖で不良相手だとすぐに手が出てしまう。まぁこの程度のいざこざは昔から慣れている。

 

 「まぁ大丈夫でしょ!一応、救急車は呼んでおいたから!あとは適当に任せるわ!!」

 

 新は遅刻しそうなことを思い出し、後のことをその少女に任せ、路地裏の外配管を伝って再び屋根の上へと飛び移る。まるで猿のような身のこなしである。

 

 「あっ、ちょっと!?」

 少女は新は呼び止めようとした。

 

 しかし、既に新の姿は見えなくなっていた。

 

~神代学園 調理室~

 

 昼休み、この時の調理室―――二人の男が調理室で料理をしていた。まぁ実際に料理をしているのは一人なのだが...

 

 「天童!天童!今日の昼飯はな~んだ!!」

 

 「オイ、新!今日、遅刻したけど、何かあったのか?」

 進はフライパンで野菜を炒めながら、椅子に座って料理が出来上がるのを楽しみにしている新へ尋ねた。

 

 「あぁ?だ・か・ら!朝も言ったが、女の子を不良から助けて遅れたって言ってんだろッ!!」

 

 「黒髪の肩くらいまであるのなんかこう~お嬢様で清楚なカンジの~!」

 「あっ、それと何かアレは武術をやってんな...!多分、柔道...か?」

 

 「恐らく、それは合気道だ!」

 進は手を動かしながら、そう答えた。

 

 「あぁなんでそう言えるんだよ?」

 

 「お前が助けた少女...ウチの制服を着ていたってんなら、恐らくソイツは1年5組の"春園春奈"だな!」

 

 「天童...お前知ってんのかよ!」

 

 「オレを誰だと思っている..."天才" 天童進だぞ」

 「この学校の生徒全員の名前と顔、基本情報程度は、頭に入っているさ」

 「それに春園春奈は一年の間でもそれなりに有名人だ!あの春園家は歴史ある名家だ...まぁこの辺りの地主っていえば分かるか?」

 「そこの一人娘だ!お前が感じた気品もその辺りから来ているんだろう」

 「ああ、それとちなみに春園家の現当主に当たる春園源治郎氏は、合気道の達人でもあるから、オレも何回か過去にお世話になったことがある。」

 

 「へぇ~天童!オメェ学校の生徒全員の名前と顔を覚えるとかやべぇな!」

 

 「ま、まぁ何があるか分からないからな...それにオレは一目見れば大体の情報は覚える...学校の生徒の情報なんかは知っておいた方がいい情報だろ...?」

 

 「そーいうもんかねぇ...」

 「あっ、ところで飯できた?」

 

 「あぁ、ちょうど今できたところだ!」

 「今日は回鍋肉ホイコーローを作ってみた!」

 

 「おぉ旨そうだな!!」

 「早速、頂いちゃうか!!」

 

 オレは家が貧乏な新の為に毎日、こうして昼休みに飯を作ってやっている。こうでもしないと、この男は何をするか分からないから、手綱を掴む意味でもこういうことをしている。勿論、材料費は全てオレが出している。

 

 「ちょっと!!進ちゃ~ん!!」

 「また新君にご飯作ってあげてるの!?」

 と勢いよくドアを開けて調理室に入ってきたのは、オレの幼馴染の未央であった。

 

 「おっ、ちょうどいい!未央も回鍋肉ホイコーロー食べるか?」

 少し、呆れた表情を浮かべる未央に勧めた。

 

 

 「あら、美味しそうじゃん!」

 「いただきま~す!!」

 「う~ん!!おいし~!!!!流石、進ちゃん!!!めっちゃ料理上手い~!!」

 

 「って、じゃないわよッ!!」

 

 見事なノリツッコミであった。未央のこういうノリが良いところはかなり好きだ。オレは未央のコロコロ変わる表情を見ながら、箸を進める。

 

 「進ちゃんも新君も勝手に調理室占拠してるけど、生徒指導の石橋先生に睨まれるの私なんだけど!?」

 

 「許可ならちゃんと取ってるぞ!」

 

 「えっ、そうなの??」

 キョトンとした未央に対してさらに話を続ける。

 

 「家庭科担当の斎藤先生には、話を付けてある!」

 「唯我君の昼食を作るために調理室を貸してくださいとな!」

 

 まぁ斎藤先生からしたら、天童グループがバックにいるオレ相手に下手に出るしかなかっただろうがな...

 オレ自身としては別に高圧的に話を進めたつもりは一切ない。

 

 「まっ、それならいっか!」

 「ねぇねぇ私の分もあるんでしょ!!」

 

 未央もどうやら、オレの作った料理を食べたいらしい。こういうこともあろうかと、多めに作っておいた。

 

 「もちろんだ!未央も一緒に食べるか!!」

 

 こうして、オレ達3人は昼食を取った。昔から付き合いのあるオレ達3人は、下らない話や何気ない話を交えながら、楽しくこの時を過ごした。

 

 

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