第191話 【クロヴィス奪還編 決戦】天才 天童進 VS 六魔将モレク②
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「ついに始まるわね...」
進とモレクの闘いが始まりを迎えようとしていた。この光景を巨大なモニターで覗き込んでいる女がいた。この世界の管理者、アドミニストレータ―――女神アーク、彼女はどことも知れぬ漆黒に包まれた亜空間に液晶テレビのようなディスプレイで進たちの闘いを観戦していたのだ。
「どっちが勝つかしら?個人的には進ちゃんに勝ってほしいけど、相手はあのモレクなのよね~」
「流石にまだキツイかしら~?」
「ねぇ貴方はどちらが勝つと思うかしら?」
アドミニストレータは、横を振り向き、まるでカブトムシの喧嘩を観戦する無邪気な少年のような表情で横にいる存在へと尋ねてきた。
「どうですかね...私も天童君には生き残ってもらいたいですけど...」
チェック柄のスカートに青いブラウスを着た少女は、少し反応に困ったようにアドミニストレータの質問に返答する。
「あら、やっぱり鏡花も進ちゃんのことが気に入っているのね...!!」
まるで、恋バナに花を咲かせる少女のようにアドミニストレータは隣の黒髪の少女に詰め寄る。
「いえ、私は彼のことなど...そのような感情は持っていません。」
少女の名は朝霧鏡花という―――進たちと同じ高校に通う同級生だ。その恵まれた容姿とミステリアスな雰囲気は同学年の男子からは高い人気を得ている。そもそも進たちが異世界ヌバモンドへと来ることになった元凶でもある。
「ウッソだ~~!!」
「だって鏡花、学校にいる時は、私の真似して、『ですわ~』とか、『~ですの』とか言ってるじゃないの!」
「うっ、なんでそれを知っているのですか...!?」
鏡花はアドミニストレータとは長い付き合いである。そういえばこの人は何でもできる全知全能の神で、他人に対して悪戯だとか、嫌がっているのを見るのが大好きだということを思い出した。それは鏡花に対しても例外ではなく、たまにこうして鏡花を驚かしたりして楽しんでいるのだ。
「はぁ~~毎度毎度貴方のイタズラや面白半分の行為に付き合わせられるのも大変なんですよ!」
鏡花は少し怒った風にアドミニストレータに言った。
「私もいつもこんな何もない所にいて、暇なのよ!」
「私の娘のような存在の鏡花の様子を見て何が悪いのかしら...!」
アドミニストレータはそう言い返す。
「うぅ...」
鏡花はアドミニストレータの返答にたじろいでしまう。彼女はアドミニストレータによって生み出され、アドミニストレータによって育てられてきた。さらに今普通に進たちと同じ学校に通えて、それなりに楽しい生活を過ごせているのはアドミニストレータのおかげなのだ。だから、こういったアドミニストレータの態度に強く出ることができないでいた。
「おおッ!進ちゃんが今モレクに一撃入れたわよッ!!」
アドミニストレータがディスプレイを指差し興奮していた。
「そうですね、でもあれじゃかなり浅いです。」
「モレクの戦闘能力ならすぐに回復してしまうでしょう。」
モレクの戦闘能力を冷静に分析してコメントする。
「も~~鏡花ったら、夢がないんだからッ!!」
「貴方バスケとかのスポーツで片方のチームが点数で突き放したら、試合とか見ないタイプでしょ?」
「それはそうですよ!」
「そんな勝負の分かり切った試合見ても時間の無駄でしょ!!」
鏡花も少し興奮気味にアドミニストレータに返答する。
「夢がないんだから!」
「もしかしたら、優勢なチームがみんな腹痛で調子が悪くなるかもしれないでしょ!」
「そうなったら勝負は最後まで分からないでしょ!」
プンプンとご機嫌斜めになるアドミニストレータ。
その横で朝霧鏡花はこう思う。
(天童君...貴方は生きて、この闘いは貴方にとって...いえ、ヌバモンド全体にとってこれからの運命を変える闘いになるわ!)
朝霧は進達の勝利を願うのだった。
~クロヴィス城 王の間~
アドミニストレータと鏡花がまさかこの闘いを観戦しているとは進もモレクも露知らず。二人はクロヴィス城王の間で闘いを繰り広げていた。
「チッ!」
進は神聖剣と日本刀の二刀流でモレクに斬りかかっていたが、中々当たらないことに苛立ちを覚えていた。何回に一回の割合でヒットはしているのだ。しかし、多少のダメージはモレクの持つ《超速再生》のスキルで瞬時に回復されてしまう。
もっとだ!もっと大きな力だ!!
「聖剣技:乱断衝魔舞!!」
「天童流剣術:新月!!」
右手に持つ神聖剣放たれる大いなる聖光気と左手に持つ日本刀から放たれる神速の一刀がモレクの前で交差する。
「ほう...それが貴公の最大の一撃か...!!」
「ならば、こちらもそれ相応の対応を見せねばならんな!」
そう言うと、モレクは収納のスキルから身の丈を遥かに超える巨大で荘厳な斧を取り出した。
「地獄より深い愛に満ちた斧」
紅蓮に燃えるような斧がオレの最大の一撃を受け止める。
「フハハハハハ...!!!!」
「いいぞ!いいッ!!魂の篭った最高の一撃だ!!」
モレクの踏みしめる床はメキメキと音を立てて沈んでいく。この化け物は一切オレの攻撃に怯んだ様子は見せない。周囲の床や壁は徐々に崩れ去っていくのが分かる。この城ももう持たないだろう。それほどオレ達の衝突はこの地にダメージを与えているのだ。
「貴様は絶対に斬るッ!!」
「オレの...オレの中の"正義"が必ず貴様の命を取るッ!!」
「いい眼だ!しかし、貴公じゃ永遠に私には勝てない...!!」
「何だと...?」
「貴公には足りないものがある...!!」
「足りないモノだと?」
「ああ、そうだ!」
「貴公の足りないモノそれは...」
そうそれは...
"愛だ!!!!"
「愛だと!?」
カッと眼を見開き、モレクは両腕に力を込める。
「さぁ進の貴様の審判の時だ!」
「ユニークスキル:審判!!」
「冥府の神よ!!」
「この愚かな少年を裁きを下すがいいッ!!」
そう言うと、モレクの周囲を何万とも見える霊魂が宙を舞う。それらはモレクを中心となり、一本の光の柱となる。
モレクと進の姿が一瞬で覆いつくされ、天をも貫く一筋の閃光が放たれた。
「ウオオオオォォォ!!!!」
進の身体を猛烈な熱さが襲う。進の目の前には多くの神々しい存在が幻の如く写った。その存在達が進に対して、一人ひとり手に持った武器で斬りつけてくるのだ。何十人何百人とその存在がオレを交互に斬る。
"一撃が重い"
気が付いた時にはオレは地面へと叩きつけられていた。
「ハァ...ハァ...」
今一体何が起こったんだ??
身体を襲う激しい痛み、その痛みでオレは立てないでいた。
「それが貴様に殺されてきた者たちの恨みや痛みだ...!」
「な、何だと...?」
モレクはその巨大な腕で動けないオレを持ち上げた。
「そして、これは私からの"愛"だ!!受け取れェ!!!」
モレクの右の拳がオレの腹を抉る。
「グハァッ――!!」
オレは口から吐血し、後方の壁へ叩きつけられた。余りの衝撃にオレの意識は消えかけた。
「正義など愛には到底及ばんわ...!」