第189話 天才 天童進の本質
~クロヴィス城 王の間~
「オレが"化け物"だと...?」
「それはどういう意味だ...?」
突然のモレクからの化け物宣言にオレは奴が何を言っているのか訳が分からなかった。
「私の魔眼は、他者を"色"で見ることができる」
「その者がどんなことをしてきたのか、これからどうなるのか、そしてその者自身がどんなものなのか...何となくではあるが見ることができるのだ...」
モレクのこの魔眼の能力は本物だ。勿論過去を見るとは言っても、未央の魔眼とは違い、ハッキリとしたビジョンとして事細かに描写されるわけではない。例えば過去に殺人を犯した、もしくはこれから殺人を犯す者ならば、ほんのりと赤く見えるとかそんな程度だ。どちらかと言えば、見た者の本質、性質が色濃く見えると言った能力なのだ。
その能力で進を見たモレクは、ハッキリと分かった。
"この者は人間ではないと..."
勿論、進の外見はどこからどう見ても人種そのもの、ただし、中身はそうではないと言っているのだ。
「地獄の業火!!」
突如として、進の右手を黒い炎が襲う。モレクが地獄の業火を召喚したのだ。
「チッ!」
地獄の業火は対象の物体を燃やし尽くすまで消えることはない。進はそのことをトーマから聞いていたのだ。だから、即座に自身の腕を収納のスキルから取り出した刀で切断した。
「白魔法:エクストラヒール!!」
進は切断した右手を治癒して回復する。
「地獄の業火のことを知っているのか...」
「先の戦場で見た者がいたか...それとも誰かから聞いたのか...」
「まぁそんなことはどうでもいい!!」
「私が見たかったのは、貴様のその治癒の白魔法だッ!!」
「何だと...!?」
進は刀を右手に持ち替え、戦闘態勢へと移る。
「バルバスから個別に報告を受けていたが、実際にこの目で見るまでは疑わしかった...」
「貴様もこの力が聖女しか使えないとかほざくつもりか...?」
「ああ、そうだッ!!」
「その力は聖王国にいる聖女しか使うことが許されない...いや正確には、聖女の血を持つ者しか、使えないッ!!」
「治癒の白魔法とはそれほど"特別な力"なのだ...!!」
「貴公は、不思議に思ったことはないか?自分はなぜそんな"特別な力"が使えるのかと...」
「どんな事象にも理由はあるのだよ...!何も持たない者が突如最強の力に目覚めることなど有りはしない...必ず何かしらの理由が存在する...!」
「オレにその聖女の血が流れているってことか...?」
「ああ、その通りだッ!!」
「だが、貴公に流れる血はそれだけではないッ!!」
「何ッ!?」
「私には見える...貴公の身体を流れるその血が...人間、聖女の血だけではないと...」
「貴公に流れるのは...大部分が人間だが、その次に多い魔族、そして獣人族、精霊族、小人族、巨人族、魚人、竜人族、神族...魔獣やモンスターの血なんかも見えるな...。」
「ありとあらゆる種族の血が貴公には流れているのだッ!!」
「ウ、ウソだッ!!」
オレは反射的にモレクの言ったことを否定した。
しかしオレにはモレクの言わんとしていることが分かっていた。いや、分かってきたのだ。オレの力の理由...この世界は決して小説やフィクションの中の世界なんかじゃない、何も持たない者が神さまから力を突如として最強の力を貰うなんてことはありはしない―――なぜ、オレは他人と違うのか...
怖かったんだ。
もしオレが人間ではなく、本当に化け物だったら...
"オレは何者なんだと"
自問自答することになる。だからそのことに向き合うことをしないできた。
しかし、目の前のモレクはそんなことお構いなしにオレの正体を告げてきた。
「ウソではない...私からしてみたら、白のような、黒のような、形容しがたい"混沌"...とんでもない色をしている貴公は紛うことなく化け物だッ!!」
「様々な血が流れる貴公は絶妙なバランスで存在している...今にも崩れそうな積み木が何故か崩れない...そんな存在なのだ貴公は...!!」
"受け入れがたい事実"
しかし、進のこれから行うことに変わりはない...。
「六魔将モレクッ!!」
「オレが貴様の言う所の化け物だとしても関係ないッ!!」
「オレは貴様を倒し、貴様から王権を取り戻しこの国を救うッ!!」
「それだけだッ!!」
「はぁ~...貴公は悲しい存在だ...!」
モレクは大きな溜息をついた後、そう口にした。
「貴公の言う通り、この国の王権を取り戻したとして何になる?」
「このクロヴィスという国は年がら年中戦争を続けているのだ...。」
「いや、この国だけではない...この世界は暴力に満ち溢れているッ!!」
モレクはどことなく、悲しい雰囲気を放ち、呟く。
「それは貴様たち魔族が他の国を侵略していることだって同じだろッ!」
オレはモレクに対して反論する。
「私たちの行っている行為は、侵略などではない救済だッ!!」
「救済だと!?」
「そうだ、救済だッ!!」
「力ある者が力なき者を支配するのだッ!!」
「これを救済と言わずして何と言う!!」
「それのどこが救済だというのだッ!!」
「貴公だって今まで見てきたはずだ...この世界の理不尽、不条理な暴力が横行している場面を!」
「私たちがこの世界を支配し、管理すればそのような輩は絶対に排出させないッ!!」
「なぜなら、六魔将と言う価値があるからだッ!!六魔将と言う存在は全ての種族の畏怖の対象となっている!つまり絶対的な力の象徴なのだよ」
「そんな我々からの言葉なら全ての種族が従う!!いや、従わせて見せよう!!」
「未央様もそれを望んでおられる...!」
「未央が望んでいるだと...?」
「未央がそんなことを望むはずはないッ!!」
「貴公は、未央様を知っているのか...?」
モレクは進が未央を知っているような発言に驚いた。すぐさま、再び進のことを魔眼で凝視する。
「そうか...貴公は未央様と同じ世界から来たのか...」
「フフフ...フハハハハハッ!!!!」
「そうか...そうか...面白くなってきたぞッ!!」
「進...勝負だッ!!」
先ほどまで闘うことに気乗りしていなさそうな反応をしていたモレクが一転して勝負することを望んできたのだ。
「オレは元よりそのつもりだ...!!」
こうして、天才 天童進と六魔将 モレクとの闘いが始まろうとしていた。