第187話 ジルダちゃーん助けに来たぞッ!!
~クロヴィス城 西区 貿易倉庫~
「いやっほー!!待ってろよ~!!」
「ジルダちゃーん!!!」
新は周りの家々の屋根を伝いながら子供のようにはしゃいで、クロヴィスの西区にある倉庫群を目指していた。既に新の着ているワイシャツはボロボロだ。
「アラタ君はホントに疲れってものを知らないのか...」
フラムは、先行する新の後を追いながら、そう呟いた。魔王軍の上位魔族であるジャハンナムを3人も相手取った後でこの元気さである。
「おっ、ここや!ここ!!」
「とおぅ!!」
体操選手顔負けの見事な空中一回転を決め、新は西区にある倉庫群の前へと降り立った。
「あれ、アラタさんじゃないですか?」
新が降り立ったそこには、血まみれのマリーがレイピアを手に握り締めながら佇んでいた。そのマリーの周りにはこの倉庫の見張りをしていたと思われる数人の魔族が血を流しながら倒れていた。
「うぉっと!マリーちゃんじゃんか!?」
「誰か闘ってんなーって思ってたけど、マリーちゃんだったんか!」
「てか、コイツ等はどうしたん?」
新が周囲の倒れた魔族を指差し聞いた。
「この人たちは捕まっている獣人たちを助けに来ましたって言ったら、いきなり襲ってきたんで斬っちゃいました!!」
(うへぇ~マリーちゃんも大分イカれてんな~!こりゃ天童が言ってた通り怒らせたらやべーな!)
新は周囲に悍ましい光景を眺め、マリーに対する認識を改めた。
「この先に捕まっている人たちがたくさんいるみたいです!!」
マリーはこの大きな倉庫に顔を向け、そう言った。この大きさなら数千人は入るだろう。しかもそれが幾つも立ち並んでいる。ある程度の獣人たちはここに捕まっており、残りは普通に暮らしているのだろう。こうやって、住民を分断することで人質を取り、反乱を起こしにくくしているのだとマリーは思った。
「この中にジルダちゃんがいる...」
新はその倉庫の一つを指差しそう言った。
「アラタさん、そんなこと分かるんですか!?」
マリーは驚いたような表情を新へと向ける。
「ああ、分かるさ...俺ならこの程度の距離ならよく知ってる奴の呼吸音やら声、気配なんか手に取るように分かる」
マリーは改めて新の人間離れした能力を実感した。この人は本当に進と同じような非凡な才能を持った人なんだと確信したのだ。
「あの...ちょっと聞いてもいいですか...?」
マリーは少し震えるように新へと質問をする。
「ん?マリーちゃん俺に何か聞きてーのか?」
「いいぞ、何でも聞いてみ!」
「アラタさんは、ススムさんと同じ世界から来て、友達同士だったんですよね?」
「友達じゃねーな...!」
「えっ、違うんですか!?」
マリーは予想外の返答に驚く。
「親友だよッ!し・ん・ゆ・う!!!」
「友達より何ランクも上の存在!」
「あぁそういう意味でしたか...!」
「あの...それで...元の世界のススムさんってどんな人だったんですか?」
「えっ、天童のこと知りてーのか!」
何やら上機嫌になる新、元の世界ではそんなこと聞く者は誰一人いなかった。天童進といったら、天才少年として世に知れ渡っていたから、誰一人改めて聞く者などいなかったのである。ましてや、最強のヤンキーとして知れ渡っていた新に対して聞く者など絶対に存在しなかった。
「そうだな~一言で言ってしまえば真面目な正義野郎だな!!」
「助けを求める奴を絶対に助ける、悪を許さねぇーってやつ!!」
「俺も昔はやんちゃしていたからぶつかったこともあったしな...!」
新は誇らしげに過去の話をする。
「そういや、中学の頃幼馴染の未央ちゃんが同級生に虐められていたことがあってな...!」
「未央ちゃんって結構変な子でさ、オカルト好きで都市伝説とかウキウキで話したりすんのよ!」
「基本的に元気な子なんだけど、それを気に入らねー女子がいたのよ!」
「そいつが未央ちゃんを虐め始めたわけよ!!」
「そりゃ天童もうお怒りよ!あんまアイツ声を荒げたりしねーけど、怒るときは何つーかスゲー静かになって威圧感出すだろw」
「えっ、それでどうなったんですか」
「まぁ俺もクラス違ったし、そんな詳しくは知らねーけど、その次の日から虐めはぱったりと無くなったって話だ」
「そ、そんなことがあったんですね...」
「まぁそんな昔の話はどうでもいいんだ!」
「さっさとジルダちゃんを助けよーぜ!!」
新は颯爽と倉庫の壁の前に来た。
「ジルダ王女だけじゃなく、獣人の方もですよ!!」
ジルダしか頭に入ってなさそうな新に釘を刺す。
「わーってるよ!!」
そう言うと、新は思いっきり右手で壁を粉砕する。
中にいた大量の獣人たちには大きな動揺が走った。新たちが中を見ると、獣人たちは魔力の錠のようなもので縛られ、自由に動けない者まで存在した。どうやら、ここしばらく監禁のようなことをされていたようだ。
「ひ、酷い...」
マリーはそう呟いた。
「おお...まさか...貴方様は勇者様!!」
一人の年老いた獣人が新を見て、そう言い放つ。
「あぁん?何だじじい?」
「俺が勇者だ?そんなわけねーだろッ!!」
新に縋りついてきたその老人を地面へと突き放す。
そんなやり取りをしていると奥の方から新を呼ぶ、女性の声が聞こえた。
「新ッ!!!なぜ其方がここに...!!!!」
そこには両腕を魔力の枷で縛られ、壁に貼り付けにされているジルダ王女がいた。
「ジルダちゃーん助けに来たぞッ!!」
ジルダを見つけたことで一気にテンションの上がった新はジルダの近くへと駆け寄っていった。ジルダの側へとやってきた新は、早速ジルダを拘束していた魔力の枷を力づくに引き千切る。
「ううぅ...すまぬ...!妾は、奴らに"王権"を取られてしまった...!!」
「もう...皆の前に顔向けできぬ...」
ジルダはその美しい顔を泣き顔で歪ませ、涙をポロポロと流し、そう訴えた。
普段の毅然とした態度のジルダ王女とは打って変わって、そこにいたのは年相応の女の子の表情をするジルダだった。
「大丈夫だ...!ジルダ!」
「俺が来たんだ...もう安心しろッ!!」
「うぅ..."自由"を愛する其方が助けに来るとは思わなかったぞ...」
「助けに来るのもまた"自由"じゃねーか!」
「必ず、俺がその王権とやらを取り戻してくるから...!」
「だからもう泣くなッ!!」
そうジルダに言い聞かせ、そっと抱きしめた。そうして、ジルダが落ち着くのを待った。ジルダが一しきり泣くのが収まると、新はそっと立ち上がりマリーに後のことを任せると言い残し、城を目指した。
去り際の新の顔は、ものすごい剣幕だった。