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第182話 やっぱり優しいんですね


~クロヴィス城 北区住宅街~

 

 モロトルフは目を疑っていた。目の前に極大魔法の境地に片足を踏み入れている少女がいるのだ。極大魔法とは使い方によっては国一つ、下手したら島や大陸全体に影響を及ぼすレベルの魔法のことだ。それを何の変哲もない目の前の少女が使用した。その事実をにわかに信じられないでいた。

 

 その思考が、モロトルフの次の動作を遅らせた。

 

 マリーは精霊樹木の枝を自らの手の如く操り、モロトルフよりもさらに高いところにいた。

 

 「さっき貴方は言いました...早く仲間の加勢に行きたいと...」

 「それは私も同じです!!」

 

 「フェイルノート!!力を貸してッ!!」

 

 モロトルフの額から一筋の汗が垂れる。マリーは両手を上げ、その掌には強大な魔力が込められていく。その魔力は、この北区をすっぽりと覆う程の巨大な水の球を作り出す。


 (ウソでしょ...あの子...!?この辺にまだ他の住民がいるかもとか考えていないの...?)


 「暗黒武技:巨人の一矢-アトラス!!」

 

 モロトルフはフェイルノートから矢を放つ。その矢は巨大な人の手のように具現化し、マリーの元へと放たれた。

 

 しかし、そんな具現化した巨人の手とは比べ物にならない位マリーの放つ水球は強大だった。

 

 「極大青魔法:水素破壊ハイドロバスター!!」

 

 マリーの放った巨大な水砲は、あっさりとモロトルフの矢を飲み込み、北区全体を半壊させていく。

 

 地面は抉れ、大地は割れる。地面にぶちまけられた水が大気中に反発し、雨のように降り続ける。北区に乱立していた家々はほとんど半壊していった。当然、モロトルフの立っていた足場も崩れ去り、それと同時に展開していた結界も破れた。

 

 「なっ...仕方ないわ...ここは一旦移動するしかない...!」

 

 モロトルフは移動しながら、何発もマリーへと照準を合わせて矢を放った。あんな強大な魔法を唱えたのだ。魔力の枯渇から来る体力低下が起こっているハズだと考えていた。

 

 しかし、マリーは全く平気だった。というよりもモロトルフが極大魔法を放った後の隙をついて、矢を放ってくることは大体予想していた。だから、魔力の枯渇をする前に進から貰ったエリクジャーを飲んで、魔力を回復させていたのだ。だから魔力枯渇から来る体力低下は起こっておらず、全くの良好状態を維持していた。

 「精霊の樹木よ!私を守ってッ!!」

 マリーの合図に従うように、精霊の樹木の枝はマリーを守るように枝葉を伸ばし、モロトルフの矢を受け止める。

 

 「チッ、やはりあの樹木がジャマすぎる...!」

 

 モロトルフは舌を鳴らし、対抗策を思案するが、現状どうしようもない。

 

 なぜなら、精霊の樹木はエルフの里のモノと同じだとモロトルフは本能的に感じていた。だったら、ダークエルフである自分には傷つけることはできないのだ。

 

 あそこにマリーがいる限り、自分は攻撃しても全て無駄に終わるだけだった。

 

 

 「マリー!!貴方この辺りに住む住民がどうなってもいいの?」

 モロトルフは大樹の上に立っているマリーに問いかける。

 

 「この辺りに既に住民がいないことは知っています。」

 そう言うとマリーは西区にある大きな建築物群を指差す。

 マリーが指差したのはクロヴィス王国が諸外国との貿易を行う際に使用する倉庫だった。

 

 「この周囲の木々が私に教えてくれました...獣人の皆さんはあそこに囚われているんでしょう?」

 

 (すでにそこまで知られていたのか...)

 

 モロトルフがそんなことを考えていると、マリーは煙のようにフッと消えてしまった。

 

 モロトルフは焦った。

 

 その一瞬でマリーはどこへとも分からないところへと移動していたんだから。

 

 「ウソ...見逃した...?」

 モロトルフは慌てて、《千里眼》のスキルを使用して辺りを探したが見当たらない。

 

 (どこへ...)

 

 「青魔法:水鏡」

 

 なんとマリーは既に自分の目の前にいたのだ。辺りに降りしきる雨を利用し、水鏡を生成し、自身の姿を見えなくしていたのだ。

 

 モロトルフは目を思いっきり見開いた。そこはマリーの射程距離、剣が届く範囲―――モロトルフの弓では圧倒的に不利な位置だった。

 

 「驚いたぞ...もうこんなに接近していたとはな...!」

 

 モロトルフは弓を構えようとする。その刹那―――マリーが剣で弓を弾く。そして、剣でモロトルフの肩から切り裂こうとする。

 

 それをモロトルフは右手でガードする。

 

 「クッ...!」

 

 辺りに血飛沫が舞う。マリーは攻撃の手を緩めることなく、さらなる追撃を行おうとする。

 

 「ユニークスキル:血界―不可侵入領域!!」

 「マリーッ!!貴方の侵入は許可しなぁい!!!!」


 モロトルフの周りを囲んでいたあの赤い線はモロトルフの血液だったのだ。モロトルフは再度結界を発動させ、マリーの攻撃を防ぐ。

 

 「油断したわね...これで終わりよ...!!」

 

 モロトルフは右手に魔力弓を生成し、マリーへと撃とうと構える。

 

 「緑魔法:百年樹木!!」

 

 モロトルフの足元から樹木が生え、結界を崩す。そして、樹木はモロトルフに絡みつき、身体を拘束する。

 

 (動けない...!!)

 

 マリーの剣がモロトルフの目の前まで迫る。モロトルフは死を覚悟した。

 

 「ッ――――――!!!」

 

 しかし、マリーの剣はそこから微動だにしないのだ。

 「どうしたの...?さっさと殺さないの?」

 

 「いえ、モロトルフさん...貴方を殺すことはないかなって思って...」

 

 「フフッ...情けのつもり...?それとも私は殺すにも値しないってことかしら?」

 

 「私はかつてお母さんを山賊に殺されました...その時私は今まで生きていた中で一番絶望しました。」

 「モロトルフさん...貴方は先ほど『早く"弟"たちの加勢をしなきゃいけないの』と言いました...」

 「貴方にも家族がいらっしゃるなら、貴方がもし死んだらその弟さんはさぞ悲しむでしょう...!!」

 「そう思ったら、途端に斬れなくなっちゃいました...!」

 マリーは舌を少し出し、はにかんだ笑顔をモロトルフに向けた。

 

 モロトルフはマリーのその言葉にフッと息を漏らす。

 「やっぱり優しいんですね...」

 

 「でも、その優しさは甘さとして、いずれ貴方の命を脅かすかもしれませんよ!」

 

 「そうならないようにこれからも強くなりますよッ!!」

 「なんてったって私は"天才"の弟子ですからッ!!」

 

 マリーは満面の笑みで答える。

 

 「フフッ...どうやら私の完敗のようですね...」

 「私はもう貴方たちに危害は加えません」

 「モレク様も、敗者には敗者の潔さが必要だといつもおっしゃっていました...」

 「だから分かってくれるでしょう...」

 

 「最後に一つ教えてください...何故貴方は極大魔法を使えるのですか?」

 「アレは魔族でも習得が難しいモノです...!人間が習得するなんてホンの一握りだと思っていました」

 

 マリーは、進のスキル《超ラーニング》の影響でスキルの上達に速度に大幅な補正が掛かっている。それに進による指導、そしてマリーの努力...それらが合わさって短期間で極大魔法の習得を可能にしていたのだ。

 

 「それは...師匠がいいからですよ!!」

 

 マリーはそう言い残し、その場を後にした。

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