第177話 唯我新―起死回生の新スキル ~最強の矛と最強の盾の激突~
~クロヴィス城 城下町城壁~
クロヴィス城 城壁で唯我新とメルクロフの戦いは続いていた。
新はメルクロフの完璧な障壁が破れず、苦しい戦いを強いられていた。しかし、当の新本人は未だ闘争心が消えてはいなかった。
(ああは言ったが...実際問題どーすっかな~...)
この実、新は必死に考えていた。今まで自分の拳が通用しなかった相手などいなかったが故の思考。このままではメルクロフの盾が壊せないことに薄々気が付いていた。
本能のままに喧嘩をして、相手を蹂躙してきた彼にとって、自分の力を全開にして倒せない相手は天童進を含めて2回目の経験である。それに殴って壊せない物も彼にとっては初めての経験だった。
新にとって殴れば人でも物でも確実に壊れる認識であり、自分が殴って壊せないモノなんて存在しないと自負していた。それなのに今自分の目の前の盾は壊せない。それを壊す方法をない頭を使って考えていた。
(まるで...矛盾だな...!)
最強の矛と盾ぶつけたらどうなるか、そんな中国の故事成語...勉強のできない彼でも知っている単語だった。
「まぁ俺には考えることは性に合わねぇな...!」
そう呟いた新は再びメルクロフの盾へと突撃する。
「貴様はやはり本当の馬鹿だ!!」
「うるせぇ!!!俺には拳しかねぇんだよ!!!」
「オラァァ!!!」
再び始まる新の高速ラッシュ...辺りは衝撃の渦が巻き起こる。誰一人近づけない、そんな空間が展開される。
数秒間に数千発の拳がメルクロフの奈落の盾に叩きこまれる。しかし奈落の盾には傷一つ付かない。
まるで、決して開かれることのない門を何度も何度も叩き続ける。
"無駄な行為"
周りにいた誰しもがそう思った。新自身それが意味あるのかと問われれば意味があるとは答えない。しかし、彼を動かしているのは、意地なのだ。
ここで引いたら、自分は一生メルクロフに勝つことはできない。その勝利への執念だけが新を突き動かしているのだ。
「フッ、愚か者には愚か者の末路がお似合いだ!!」
「そのまま死ねぇ!!!」
「ユニークスキル:上限無しの反撃!!」
再び、新に全ての衝撃が伝わる。いくら《超人》のスキルで超速再生しているからとは言っても立て続けに戦闘不能レベルのダメージを受けては新も無事では済まない。
「しゃらくせぇーーー!!!」
それでも、闘争心が絶えることはない。そうこれこそがかつて伝説のヤンキーと呼ばれた唯我新という男なのだ。
「貴様、何故まだ動ける...!?戦える...!?貴様は本当に人間なのか...?」
「俺は俺だぁ!!」
再び、高速ラッシュを始める。既に血まみれになりながら、動いているのが不思議なのに...そのパフォーマンスは最初よりも格段に上がっているのだ。
「そうやって、何万発も拳を放ったところで私の奈落の盾は砕けるモノではないッ!!」
「貴様のやっていることは無駄だッ!!」
メルクロフは几帳面な性格であり、無駄なこと嫌う。時間を守らない者など一番嫌いなのだ。目の前の新のこの理にかなわない行為に腹を立てていた。そして同時に、何故この人間はここまで無駄だと知りながらこんなことを続けるのか、まるで理解ができなかった。
「それがどうした...!?」
「万がダメなら、億ならどうだ!」
「一億発殴っても、テメェの盾が無事な保証はどこにもねぇだろ!!」
「俺ならやってやる...テメェに勝つためならなッ!!」
何がそこまでこの男を突き動かすのか...本当に理解に苦しんでいた。そもそもリザードマンたちの長であるジルダ王女だって、明らかに人間のこの男には関係が無いはずなのだ。救出する義理はあっても義務はないハズなのだ。どうしてそこまで意地になれる...?
「下らねぇんだよ!!」
「誰が強いだとか、誰が弱いだとか、誰が不幸だとか、誰が幸せだとか、アイツには絶対に勝てないだとか、アイツになら絶対に勝てるだとか...そんなテメェらが勝手に決めつけたイメージだけで物事を語るんじゃねぇー!!!」
「そうやって、舐められて...舐められ続けて生きていくのが嫌なだけだ!!」
「そんなことに縛られるくらいなら俺は...お前らは...人間は...」
「生きてる意味がねぇ――だろ!!」
「それが"自由"に生きるって意味だろ!」
激しいラッシュは留まることを知らない。そんな時だった新の頭の中でシステムの声が聞こえた。
『唯我新の生命エネルギーが低下しています。このままでは生命活動に影響します。』
(だったら、どうしろっていうんだよ!!システムさんよぉ!!)
『ユニーククラス:ルインのスキル習得条件を満たしているモノがあります。』
『習得しますか? Y/N』
「それでどーにかなるならくれッ!!」
「俺はこんなところでくたばるわけにはいかねーんだよ!!」
『了解しました。隲ク蛻??遲我セ。莠、謠のスキルを習得しました!』
と頭の中のシステムがそう言った。
(あぁ?今なんつった...?)
ステータスウィンドウを見た新は、訳の分からない文字列に困惑した。
(おい!システムさんよ!!わけわからねー文字で読めねーじゃねーか!!)
『文字コード変換を行いますか?』
システムがそう尋ねてきたのでYESと新は答える。
『では、文字コード変換を行います。隲ク蛻??遲我セ。莠、謠→諸刃の等価交換に変換成功しました。』
「ああ...ありがとよシステムさん...これでスキルとやらが使えるみてーだ!!」
そうして使えるようになったスキル...新は自然とそのスキルの効果を理解する。そして、右手に力を込め、スキルを発動させた。
「破滅秘術:諸刃の等価交換!!」
そうして放たれた一撃は決して砕けることのないと思われたメルクロフの奈落の盾をいともあっさりと砕いた。
「な、何だと...!!」
奈落の盾を貫いて、新の右手はそのままメルクロフの顎を打ち抜く。
「グウオオォォォ!!!!」
顎を打たれたメルクロフは何もできず、後方へ吹き飛ばされる。
「や...やったぜ...!」
しかし、その瞬間新の右手に今まで感じたことが無いほどの激痛が襲う。
「ウ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ!!!!!!!!!」
「クソッ!何だこの痛みは...!!」
その痛みから新は地面に膝をつき、左手で右手を押さえた。