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第169話 天才 天童 進 VS 天才 スターリン-キル ~最終局面①~


~クロヴィス城 城内~

 

 「そんなハズはないの!?私が力で負けるなんて...あり得ないの!?」

 キルは進の聖剣技を受け止めきれず、広間中に何度も何度も叩きつけられながら、身体にダメージを受けていく。

 進の神聖剣セイクリッドブレードから幾つも放たれる螺旋の渦が意思を持つかのようにキルを襲う。

 

 (オカシイの...オカシイの...!?私は天才 スターリン-キル、こんな劣等種である人間に負けるハズが無いの...!)

 キルはそう思いながら、攻撃を受け止めることに全身全霊の力を注ぐ。数十回身体を貫かれた後、進の攻撃が止んだ。この時、室内中の天井や壁を崩しながら、キルは服や身体をボロボロにして床に叩きつけられた。 

 既に来ていたフリフリのドレスはボロボロになり、キルの着ていたドレスの裾は、破れてなくなっていた。 

 自らの魔力を放出し、周囲の瓦礫を吹き飛ばし、キルは立ち上がる。

 「このままじゃモレク様にも捨てられる...そんなの嫌なの...」

 

 「敵を殺せない私に価値はないの...」

 

 「捨てられるのはイヤなの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...私は"失敗作"じゃないの...だから私を捨てないで...」

 キルはブツブツとうわ言のようにそう呟いていた。

 

 

 進は立ち上がるキルの両腕に目が行った。進はその両腕の状態に息を呑んだ。

 

 キルの両腕には複雑な魔導式が組み込まれていたのだ。

 

 (何だ...アレは...??)

 

 キルの両腕に刻まれた魔導式は、薄っすらと紫色の光を帯び、蛇の身体のようにキルの両腕に纏わりついているかのようだった。

 

 (アレが奴の精密な動きの正体だったのか...!?)

 

 進は戦慄した。ここ一か月近く、ガリアの部屋から入手した魔導式に関する研究資料を読み漁っていた進にはその異常性、狂気がすぐに理解できた。魔導式とは、魔法を発動するための効果処理、範囲指定、タイミング、属性、威力などが古代ルーン語によって複雑に記述される。その記述を理解するには、進のような飛びぬけた天才を除くと、通常早い者でも50年は必要であり、凡人には何百年かかっても理解することなど不可能なのである。

 

 魔導式は、元々神が使用したという魔法を何万年も掛けて、天才たちが読み解き、簡略化して魔法を体系化したと魔導書には記載していた。それでも魔法を使用するには適性があり、どんな人間でも全ての魔法を使用できると言うわけではない。

 

 本来、魔導式は紙や壁などの物や空気を媒体に、空中に魔法陣を展開して記述する。それを人体に直接埋め込むという形で記述するのは極めて危険な行為である。そもそもキルの両腕のように記述することはできない。魔導式を人体に記述しようと思っても、拒絶され記述した内容はすぐに消え去るのだ。

 

 しかし、目の前のキルの両腕にはハッキリと見える形で魔導式が記述されている。あり得ない光景、それで進は困惑したのだ。

 

 身体に魔導式を組み込むというのは、この世界では神をも恐れぬ所業。現代で言うなら身体を機械化、サイボーグ化するに等しい。人間が人間を超越するための行為。この世界でも、目の前の魔族がその改造をその身に施している。あんなことをすれば必ずリスクが存在する。恐らく、アレを成功するためにとてつもない人数の人が犠牲になっただろう。進は一瞬でそこまで推察してしまう。

 

 キルの両腕の魔導式がキルの精密な動きの正体である。アレならば、魔導式で記述したプログラムを両腕でいくらでも実行することができる。それこそ使ったことのない武器でも達人のように振舞うことだって意図も容易くできる。

 

 「キル...貴様その腕の魔導式は自分で組み込んだ物ではないな...?」

 

 オレはキルにそう尋ねる。誰だって、あんな物を自ら好き好んで実行したりしない。もしそんな奴がいたらそれこそ異常者、狂人の類になる。

 

 「見ましたの...?モレク様にしか見せたことないのに...」

 「人間風情が見て良いモノではないの...!」

 

 キルは両腕を隠すことなく、ゆっくりと進の方を振り向く。その瞳はまるで吸い込まれるような漆黒が渦巻いていた。この時、進は最初に会った時の数倍の狂気、悪寒を感じた。

 

 「リオンッ!!オレの後ろにいろッ!!」

 「決してオレから離れるなッ!!」


 オレはリオンに向かって、大声を出す。今のキルは何をするか分からない。あの腕の魔導式を見られたことで相当キレている。

 

 「わ、分かった!!」

 リオンは驚いたように応じる。

 

 禍々しい、瘴気がキルの周囲を包む。今にも弾けそうな魔法が構築されていく。進は今すぐ奴の魔法を止めないといけないと判断し、神聖剣セイクリッドブレードを構え、斬りかかる。

 

 (貴様にそんな強大な魔法を使わせるか!!)

 オレはそう心に思った。

 

 しかし、一歩キルの魔法の発動の方が早かった。キルは進の聖剣技を受け続けている間、既に防御を捨てこの魔法を放つための魔導式を構築していたのだ。進に勘づかれないように少しずつ少しずつ...。

 

 「極大影魔法:天にあるものの写しと影と(コピー&シャドーインヘヴン)!!」

 

 進がキルに斬りかかろうとするその瞬間、ブワッとキルの足元から、黒い霧が放出された。

 

 進が剣を振り下ろした先に既にキルの姿はなく、キルは二階への階段の上に立っていた。

 

 「コレが私と貴方の差...この距離が本来の私と貴方の差なの!!」

 キルはオレを指差し、そう言う。キルの周囲にはウネウネとした霊魂のようなものが幾つも幾つも漂う。いや、キルの周囲だけでない。オレやリオンの周囲にもその霊魂は漂っていた。

 

 「なんだコレは...」

 

 「コレは貴方たちを殺すためのもの...私がこれまでに集めてきた魂そのものなの...!!」

 キルはそう言うと、まるでその霊魂たちを操っているかのように手でその霊魂に触れる。

 

 「歴戦の英霊たちよ!進たちを殺すのッ!!」

 

 室内を漂っていた霊魂たちは、歴戦の戦士のような姿に変わり、オレ達を襲ってきた。

 

 「武器の次は、英霊か...!」

 「ネタが尽きないな...!」

 オレはそう言うと、襲ってきた英霊たちを次々と斬っていく。流石は歴戦の英霊と言うべきが、一体一体がそれなりに強い。何体も同時に襲ってこられると手こずる。

 

 「進ッ!!」

 

 後ろから、リオンの声がする。オレはともかく、リオンにはこの英霊たちはきつい。オレはすぐさま、リオンの援護へと向かう。

 

 「ジャマだァ!!どけッ!!」

 

 目の前に二体の英霊がオレの前に立ちふさがり、リオンの援護を邪魔してきたので、目のも止まらぬ速さで切り裂いた。

 

 「手こずっているようなの...でも、私を忘れないで欲しいの...!」

 オレの右手側からキルが大鎌を振り下ろしてきた。

 

 「暗黒武技:影落とし!!」

 キルはオレの影を狙って攻撃してきたのである。オレの影はペラペラと剥がれ、キルの手元へとゆく。

 

 影を斬られたオレは途端に動けなくなる。

 「ッ―――――!!」

 

 オレは、何が起こったのか瞬時に解析を始める。奴のスキルによって、オレの影が奪われた。そのせいで動けない。ならばどうすればいい?オレはすぐさま考える。早くしないとリオンの身が危ない。

 

 「これで、貴方は動けないの...!!」

 そう無表情な少女はその手に大鎌を持ち、ゆっくりとオレの前へと立つ。

 

 「私は魂への攻撃を得意としているの...!」

 「影を斬り取られた貴方はすでに私に何もできないの...!」

 

 ゆらゆらと揺れる、オレの影はまるでキルによって飼いならされているかのようだった。

 

 キルは大鎌を振りかざす。

 

 「そして、これから行うのは貴方に対する肉体への攻撃なの...」

 「暗黒武技:縷縷たる鎌切!!」

  

 キルは目にも止まらぬスピードでその手に持つ大鎌でオレを切り裂いた。オレの身体から溢れる鮮血が周囲に飛び散る。

 

 「グアアアアアァァッ!!!」

 

 「キャハハハハハハハハ!!!」

 

 オレの叫び声と共に聞こえる対照的なキルの笑い声...

 少女が笑い声をあげる中、オレには初めてその少女が満面の笑みを浮かべているように見えた。

 


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